161.妙な事情
次の訓練日、木剣ではなく、刃を完全に潰した剣を用意。
それなりにきつい訓練となるが、実際の打ち合いほど腕を引き上げるものはない。
「素振りはただ速くするのではなく、自分に合った最適な形を追求するためにあります。 最適な形が分かってから、素早く振ってください」
口頭で伝えながら、基本的な鍛錬を昼前まで行い、昼食の笛が
「午前中はここまで」
「では、食事を買ってきます!」
「買う? 食堂にはいかないのか?」
「食堂の利用は教官に禁止されておりました!」
兵士はみな食堂を使う権利がある。食費は給料から天引きなので、むしろ使わないと損になるはずなのだが、どういうことなのだろうか。
見習い兵士ならなおさら、一般市民や貧民からの採用で食堂を多々利用するはずだが。
むしろ給料天引きとはいえ、衣食住が保証されるので兵士になる者がいるくらいだ。
「その理由は?」
「わかりません!」
「それなら許可を出すから、食堂に行くぞ」
「ありがとうございます!」
この生きの良さは評価できるのだが、ちょっと耳に響く大きな声が難点だ。
食堂では騎士から兵士に至るまで、食事を取るために常に騒がしく、大量の料理が作られていた。
正騎士ともなると別室になるが、談話を含めてわざわざここで食べる正騎士もいる。
この一年何度か利用していたのだが、いつ来ても混雑し騒がしい場所だ。
食べ物を受け取り向かい合わせの席に着く。
「ところで、名前は?」
「アンデです!」
一般層となると名前しかない者もかなりいる。祖父レオハートも名しか持たない。
まぁ、代わりに二つ名などは沢山あるのだが。
「そうか。 それで前任の教官から他に言われたことはあるか?」
アンデは頬張っていた大きな雑穀パンを、野菜と肉がたっぷり入ったスープで流し込む。
「見習いの間は支給の防具が壊れても、自費で直すように言われました!」
兵士の質を上げるために、訓練や任務に関わる者は給料からの天引きで一切無料、それが食堂だけではなく防具の修理まで自費とは、何か裏を感じる。
この一件はロセ団長にでも相談にいくのがまず第一、私の知識と権限は限られる。長く騎士団を率いているなら何かしら思い当たる事もあるだろう。
もちろん自らの任務も増えているために、手を貸すことなどないだろうが、要はそう言った物事も何とかして見せろと言うことだ。
「これからは厳しい訓練になる。 武具が壊れた場合は申請し、新たな防具を受け取るように」
「はい! わかりました!」
「……急がず口の中の物は飲み込んでから話せ」
飛んできた食べかすを布でふき取る。