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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
1章 王都での戦い
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15.武器の練成

 翌日、買い込んだ素材と砥石を工作室の床に並べ、鍛冶魔法によって調質・整形・圧縮・火入れ・冷却を延々と繰り返し、武器のイメージを明確にしていく。練習用として一般的なロングソードを構成、何事もやってみなければわからないというが、予想よりも消費魔力が少なく、この程度なら日に100本程度は作れそうだ。

 自ら魔法を操作し作り上げていく中記憶が蘇り、刀剣鋳造の製法を思い出す。最終工程も魔力で練り上げ、限界まで圧縮し加速させた水で刃の部分を研ぎ上げていく。

 まだいくつか試したい事もあるが、鍛冶教官に見せる以上あまり手を加えるわけにはいかない。出来上がった剣に最終工程である付与をしようとしたとき、教本に書いてあった魔石合成を試そうと思い立つ。


「魔石も、加えてみるかな」


 スライムから取れた、直径5ミリ程度の魔石を1個取り出し、剣に押し合てると溶け込ませるように中に押し込んでいく。宝石のように見た目を結晶化させる方法もあるようだが、今回はやり易い単純合成。

 

「試作一本目、なんだがこの模様は?」


 薄っすらと青い波模様が浮かんでいる。前世では魔石と合成しても、このような変化はしなかったのだが、何か異なる点があるのだろう。付与をする為魔力を流そうとすると不思議な抵抗感がある。

 これ以上手をつけず鍛冶教官のところを尋ね、武器を見せるとすぐに理解してくれた。


「こりゃスライムの魔石が持っていた、なんらかの特性が影響したんだろうよ。 ちゃんと特性を消去処置しなかっただろ」


 そのような処理はしてない。鍛冶教官の言うとおり特性が、そのまま残ってしまったのだろうか。鍛冶教官が武器鑑定に特化した魔道具の上に剣を置くと、詳細が浮かび上がる。


タイプ ロングソード

付与 未

状態 新品

特性 波の模様

委細 魔石を持つ未付与の魔法剣



「特性が生きていると影響がでるんだが、こいつは模様だけだな。 模様特性の影響で付与の増幅効果が小さくなっちまってる」


「特性を生かす事は難しいのですか?」


 生かすことが出来れば、特殊な魔法剣が作れるかもしれない。だが険しい表情を浮べていることから難しいのだろうか。


「特性は個体差みたいなもんだ。 狙って特性なんて出るもんじゃねぇが、ちょっと待ってろ」


奥から一本の剣を取り出してくるとテーブルにおいた。赤い波紋が刀身に美しく波打つ直剣 フランベロジュタイプ。


「こいつは偶然の産物だが、ファイヤーリザードの魔石の特性が生きた代物だ。 並の魔法武器よりも火の力を大きく増幅させる特性を持っている」


タイプ ブロードソード

付与 未

状態 新品

特性 火の力を大きく増幅する

委細 魔石を持つ未付与の特殊魔法剣


「20本作ったが、他のものはそいつと同じ様に波の模様が浮んだだけで何も特性はない。 特性を求めず、付与や魔法の増幅に使ったほうがいいってもんだ。 一点物で金に糸目を着けないなら話は別だがな。 それでこの剣はどうする。 要らんのなら買取してやるぞ」


 提示された金額は相場より若干安い気がするが、失敗作なので妥当だろう。鍛冶教官に剣を買い取ってもらい、購買部で新たに鉱石を買い込み寮に戻る。

 今回判った事は尖った特性増幅を持たせるなら、魔石に特性を生かしたままのほうがよいということだ。問題はその特性を意図して引き出す事だが、魔石を詳細に鑑定し特性情報を引き出す事を試みる。


タイプ 魔石

性質 消化

特性 水属性の親和性

委細 スライムの魔石


 しかし鑑定が安定せず、情報を上手く整理して読み出せない。試しに中級鑑定用の直径20cmは程度の魔方陣を描き、再び魔石を鑑定してみると詳細な情報が出てきた。つまり魔方陣を使わない限り私の鑑定能力は簡易よりは上だが初級程度ということだ。


タイプ 魔石

状態 消耗

性質 消化

特性 水属性の親和性

委細 スライムの魔石


 消耗状態、魔力や特性を使い切ってしまっているという事だろうか。手元に残していたスライムの魔石30個程度だが、鑑定してみたが2個を除いて全て状態消耗になっていた。

 これが原因かもしれないと予測を立て、今度はショートソードを構成し選別したスライムの魔石を合成し完成した剣を鑑定する。


タイプ ショートソード

付与 未

状態 新品

特性 水の力を大きく増幅する

委細 魔石を持つ未付与の特殊魔法剣


 これなら適切な人間に情報を開示すれば技術は広がり、特性が生きた付与魔法剣も広く販売され所持も売却も問題がなくなる。もしかしたら誰かが秘匿している製法の一部かもしれないが、広めるつもりも無いので考慮はしなくていいだろう。

 付与も予想通り特定の方向に特化した付与魔法剣を作る事はできた。問題はこの武器だが、そうそう出回る事の無い物、その為流通させるべきではないだろう。あと30本ほどショートソードを作ってこの武器は偶然出来てとして鍛冶教官に売り払ってしまえばいい。

 余計な手間を片付け、まずはラクシャ専用の武器に取り掛かる。多種類の鉱石を溶かし刃渡り170センチ、持ち手40センチ、幅は20センチ程度の大鉈を構成。根元から僅かずつ刃の部分を反らせ分厚い作りとし、鋭利な切れ味よりも破損しない事を最優先とする。

 ふざけている作りだが、鬼人族のラーラクシャにとって片手ならば充分扱え、比較的慣れた斧に近いタイプの武器となるはずだ。

 次にとっておきの魔石、領地に一度だけ現れたオーガを兄クロムと共に討伐した時に貰ったオーガの魔石、ダンジョンの20層から25層を主とするBクラスの魔物。大鉈に最終工程である魔石付与を行う前に調整を行う。

 推測に過ぎないが、スライムの魔席と同じならば消耗しているのは魔石の生命力と魔力、それならば外部から補充してやればいいということになる。問題は理論が無いために補充をする為の魔法や魔術式が無いと言うことだが、方法がないなら作れば良い。

 残念ながら自分は魔法や魔術を使う側の人間であって、作る側ではないが、白い腕が空間の穴から現れ治癒の魔剣から魔道の魔剣に入れ替えられる。我ながら便利な能力だと思うが、これが全て誰かの命の残照と思うと複雑な気分だ。

 魔剣に魔術式の構成を描かせる。トライ&エラー、大量にあったスライムの魔石がいくつも砕け散って行く中、少しずつだが魔石の中心に光のようなものが、うっすらと宿り成功例が増えていく。

 スライムとリザードの魔石を合計で200個近く使用した後、リザードマンの魔石を連続10個ミスなく充填に成功。ようやくオーガの魔石に取り掛かり、問題なく充填できたようだ。


タイプ 魔石

状態 活性

性質 身体強化

特性 身体能力の親和性

委細 オーガの魔石


 充填するための魔術式も問題がないようだ。朝から作業してすでに昼を回っているが、数時間で安定して成功するようになっただけ良いほうだろう。成功した魔石は全て倉庫に仕舞い直し、元の作業に戻る。オーガの魔石に魔力を充填し、大鉈に魔石の融合処置を行い完成させる。

 外観に見えるように魔石を宝石化してもよいのだが、内部に溶け込ませるのと効果が同じなら、戦いの邪魔にならないようにしたほうがいい。貴族騎士など立場があるものならば話は別だが。付与を掛けたあと最後に軽く研ぎ上げ完成。


タイプ 大鉈

付与 強靭・耐久・鋭利

状態 新品

特性 筋力・毒耐性・魔法耐性を大幅に増幅させる。

委細 魔石を持つ付与の特殊魔法剣


 硬質化も加えたい所だが、柔軟性がなくなると強い衝撃で折れてしまう。武器はただ硬ければ良いわけではなく、折れない為には適度な柔軟性が必用であり、材質によって適正処置がある。次にガントレット、こちらはリザードマンの魔石の特性を殺して付与する。


タイプ ガントレット型義手

付与 耐久・強固・硬質化

状態 新品

特性 なし

委細 付与の特殊武具


 次にリヒト用として斧を鋳造、壊れにくいよう基本的なものを付与する。魔石を使って特別な作りにしても良かったのだが、肝心の魔石に良い手持ちがなかった。リザードマンの魔石があるが、水の属性と皮膚合成の強化がいいところのようだ。同じように特性を殺して付与を行う。


タイプ 片手斧

付与 強靭・耐久・鋭利

状態 新品

特性 なし

委細 付与の魔法斧


 鉈や斧ももちろん切れ味は大事だが重要な事は 折れず・歪まず・欠けずの三つ、技術で斬るのではなく力と重量で切断する武器であるということだ。ラクシャは出来上がった大鉈を握り、軽く振り回し調子を見ている。中々様になっているようだが、馴れるにはいくらか時間がかかりそうだ。

 

「凄いな。 銘はないのか?」


 武器に銘を与える事は命を吹き込む事でもある。銘とは人にとって名であり今後の行く末と有様となりえるのだが。


「武具に銘をつけたことがないんだ」


 魔剣も産まれると同時に自ら名を持つ、そのため前世でも武器に銘を付けたことは無い。

 

「なら私が付けても文句は無いね。 ん~、 岩断ちの大鉈」


 鬼人族固有の言語はなんとなく元居た世界の言語である日本語にニュアンスが似ているためか少しずつだが記憶と能力が一瞬過ぎる。それだけでも仲間にした価値があるというもの。


「さて、リザードマンの外皮を貰うよ」


 ラクシャとリヒトは倉庫部屋に積んであったリザードマンの外皮を持ってくると手早く鞘と止め具を作り背負う。


「それで次はいつダンジョンに潜る? 早くこの武器を試したい」


 やはり鬼人族が荒っぽい武器を持っていると絵になるのだが、やはり戦っている方が一番だろう。


「あんたの魔剣用に鞘をふたつ作っておいた。 使ってくれ」


 リヒトが投げ渡してきた鞘は少し大振りなものだが、腰に納めていた魔剣を差し込むと柄元まできっちり納める事ができた。今までのものはいまいち合っていなかったのだが、どうやらそれに気付いていたようだ。感謝しつつ腰と背中に新しい鞘を留め直す。


「しかし、こんなものを一日足らずで作れると、あんた自身が高値で売られるね。 気をつけたほうがいいよ」


 力の事を知ったら大抵の者が数の暴力、そして権力を持って昼夜問わず捕縛しようと手を尽くす。捕まりはしないが、実家にも迷惑がかかって面倒な事になる。鬼人族の二人は契約もあるしエルとリーアナが選んだ以上信頼できるだろうが。


「そんな事にはさせないけどね」


「そうですね。 人見は私達がきっちりします」


いつのまにか居ついていたエルとリーアナが、人見を任せろと胸を張っている。


「予定がないなら18層か24層に、狩りに行こうじゃないか。 少しばかりまともな奴で武器を試したい」


 18から24層。この範囲はリザードマンがほとんどだが、買取価格としては1割程度上がる大型のダイルリザードマンや小型だが、俊敏なゲーターリザードマンが徘徊し始める。恐らくラクシャの狙いはそのさらに上、稀に出現するエーリッヒリザードマンだろう。

 稀に現れ、体長約3メートル近い巨体で凶暴かつ極めてタフ、強靭な鱗は非常に刃を通しにくく、槍や斧を武器として持っていることが多いため非常に厄介だ。

 それ以上の獲物と成ると、25層で極々稀に発生するリザードマンのユニーク種のカリアだが、ギルドの発見暦を見る限り十数年に一体現れるかどうかだ。


「14日を目処にエーリッヒを狙う。 ダメなら25層まで行こうじゃないか」


 やはりエーリッヒリザードマン狙いのようだ。その階層に棲む他のリザードマンも売れる為問題はない。

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