158.家へ
ソフィール神聖王国が消えたことで大きな騒ぎとなった。
原因不明であり、国境の城壁を守っていた騎士たちの話では、全てが溶け落ち大量の水が全てを押し流していったという。
国境城壁にいた兵士たちも、ソフィール神聖王国の者達だけが水疱に侵され、溶け落ち死んだという。
再び地下を通ることでオーディン王国に戻り、北西の魔道蒸気列車の終着駅へと向かう。
その間ずっと気は晴れない。
数えきれないほどの、何も知らなかった人間の命を奪った。覚悟を決めていても、精神的負担は小さくない。
「残りがよくわからないんだよねぇ」
「あと一人の気配はほとんど感じません」
「どうにかなりそうか?」
エルとリーアナはそう言い、すでに死んだ人々に興味を失っている。
神命であるあと一人の転移者のいる場所が判らなければ、排除しようがない。
「少し時間がかかると思う」
「最後の標的は、簡単にはいきそうにありません」
「そうか、二人も大変だと思うが頼む。 今回みたいに対処が遅れ、国ごと亡ぼす事になるのは避けたいんだ」
かすかに聞こえた悲鳴と絶叫が、数日経っても耳から離れなかった。もうあんな真似はしたくはない。
命の取り合いならまだしも、一方的な虐殺は戦争どころか戦いですらない。
「そうだ。 帰る前にイノにお土産用意しなきゃ」
「そうですね。 何か用意しましょう」
「そうだな。 強い使い魔にでもなりそうな獣を」
二人に耳が引っ張られ言葉を止められる。
「違うって」
「これだから男は困ります」
否定されてしまった。こういう時男はやっぱり弱いというか、適切な判断がしにくい。
前々世と前世と今世を合わせて、主に女性と関りが薄い自業自得ではあるのだが。
「イノは精霊の知り合いを欲しいと言ってたんだよ」
「この周辺にいる精霊を探して」
護衛としてはソードウルフ達がいるのだから、それを考慮すると弱くても常時身を守れる精霊がいいのだろうか。
新しく用意するのは小型で戦闘に向くとなると、猫に類する精霊となるのだが、契約するのは難しい。こればっかりは運に左右される。
森に入って小さく魔方陣を描き、その場で待ち続ける。精霊と契約を望む以上、相手に無理強いをしてはならない。
一昼夜待ち続けると一匹の蛇が現れた。
「蛇……か」
白く美しい肢体をくねらせ、魔方陣の中央に置かれている魔石の上にたたずむ。
じっとエルとリーアナが見ていると、魔石が小さく光る。
「力を貸してくれるってさ」
「イノに守護の力を与えてくれるそうです」
エルとリーアナ、そして蛇の精霊とどう会話が成り立っているのか、さっぱりではあるが問題がないならそれでいい。
「感謝する。 イノは、……大事な娘なんだ よろしく頼む」
蛇の精霊に対して頭を下げる。
理解してくれたのか、とぐろを巻くと小さく舌を出し、魔石の中に消えていった。