155.感染腫瘤
「オーディン王国の継承者戦争で、君が開発したゴーレムの兵士と、爆弾が介入しかけた事に言うべきことはあるか?」
少し黙った後、彼は首を横に振った。
「そんなはずはない。 ちゃんと見張っているし、信頼できる人に渡しているんだ」
人を見る目がなかったのか、それとも物品の最終運用方法の抜き打ちチェックをしなかったのか、どちらにせよ結果は見えている。
「では、信頼できなかったんだな。 手を打たなければかなりの数が死亡していた。 それで、ここから南に行ったところにある施設で、大量のゴーレム兵士が用意されているのは知っているのか?」
剣に手をかけようとしたとき、人形の少女が目の前に現れ、壁に向け腹部を蹴り飛ばされる。
壁にたたきつけられるが、傷みそのものはさほどではない。
「お父様に手出しはさせません」
シンは驚きと恐怖の視線をこちらに向け、人形の少女は小さな短剣を握り主のシンを守っているようだ。
剣やマスケット銃を持ったゴーレムの兵士、そして教団の近衛兵と思われる者達が集まってくる。
「いったい何を……」
「命で責任を取らせるだけだ。 この国の住民全ての死へのな」
グレンの背後の空間が砕け、小さな穴から白い腕が不気味な植物と肉塊が蠢く魔剣を取り出す。
「有機無機を区別せず、絶対の死たるミアズマ、全てを侵食する死の息吹、禁忌なる黄金の花よ、その花蜜に宿りしクロラールにより安寧なる眠りをもたらせ《ミクソゾア》」
小さな水疱のようなものがゴーレム兵士に付着すると、急速に広がり溶け落ちる。
そして水疱が弾け飛び、次々と周囲の物体に付着し広がっていく。
近衛兵たちも水疱が全身に浮き上がり、そのまま倒れると溶け落ちながら水疱が弾け、周囲にさらに広がる。
「急いで医療用ゴーレムを派遣! ウィルスを隔離するんだ!! レーコはその男を捕まえてくれ!!!」
転移者シンの声と共に、少女人形が短剣を構えこちらに向かってくる。ミクソゾアも無効化しているようで、水疱がかかっても消滅している。
蠢く魔剣で短剣を受け止めるが、妙な振動と共に魔剣から体液が噴出し、短剣によって切り裂かれかけていることがわかった。
魔剣を引きながら後ろに下がり、魔剣を見ると蠢く肉と植物が切り裂かれている個所は、ただの短剣じゃないことを伝えている。
「超振動ブレード……か? まさかSFの物を魔法と科学を組み合わせて作ったのか」
「お父様の力は偉大です。 出来ないことはありません」
表情を変えず、自らの創造者を父と呼ぶ人形は短剣を握っていない手に、以前見た拳銃が握られている。
最大まで身体強化を施し、銃口から撃ちだされる6発の銃弾を切り飛ばすも、二発が腹部と左腕に当たってしまう。
力はあまりないようだが、それを補う速さと超振動の短剣と銃で補っているようだ。転移者ではないが、目の前の人形相手に力を押さえて戦う余裕などない。
踏み込んできた少女人形に右腕が切り飛ばされ、蹴りが肋骨にめり込み、骨が砕ける音が響く音と共に蹴り飛ばされ、その勢いのまま山のように積まれた機械に体をぶつけ、全身の骨がきしむ。
「制限解除」
全身の古傷痕が黒く変色し、転生者と戦う体制に入る。
「魔剣よ。 力を貸してくれ」
背面の空間がひび割れ、無数の白い腕が魔剣を持って少女人形に切りかかる。
無数の魔剣の攻撃をかわすが、僅かながら少女人形の髪を切った。
その様子をみた転移者シンは表情を変え声を上げる。
「レーコ! 無理をせずにゴーレム達にも任せるんだ!!」
転移者シンの言葉に従い、扉が開くと次々と新たなゴーレムが次々と出てくる。
人間が居ないのは、ウィルスによる死を防ぐためだろうが、無機有機区別なく感染し広がっていく以上、分厚くない限り壁も床も感染拡大を防ぐ事は出来ない。