表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
3章 戦争へ
154/176

154.転移者の国

 身を隠しながらソフィール神聖王国の町を進むが、どこも日本と酷似している。走っている蒸気車両も右ハンドル左側通行に信号、駅に蒸気機関車も走っており、文明的なものだ。

 静かに歩きながら町を観察しても、通り過ぎる人々の服装から振る舞い、そして警察らしき人まで、国家すべてが転移者によって、日本に似せられて作られているとしかおもえない。


「グレンあっちだよ」

「あちらから強く感じます」


 エルとリーアナの言葉に従いながら日本に似た町中を走り、丸一日走り続けた後、軍事基地と思われる場所にたどり着いた。

 ゴーレムがフリントロック式銃を持ち、未完成ながら複葉機似たものまである、その数は多く戦争の準備を整えているとしか思えない。


「きっと戦争をするつもりだよ」

「これだけの力、オーディン王国もきっと苦戦するでしょう」


 エルとリーアナの言葉に冷汗が流れる。

 普段のオーディン王国ならまだしも、後継者争いで弱った現状ではかなりの被害が出るだろう。

 その中には妹やイノも含まれるかもしれない。


「……その前に国ごと滅ぼすさ」


「覚悟は出来てんの?」

「数千人の命を奪うことになりますよ」


「前世では……、何度となくやった。 今世もまたやる事になった、それだけだよ」


 前世の嫌な記憶、神命で国家を丸ごと滅ぼさねばならなかった。

 下手に気付かれるわけにもいかず、何もせず基地から離れて走り続け、三日たった時ようやく転移者が居ると思われる場所にたどり着いた。

 

 巨大な教会、周囲には信者と思われる多くの人々が出入りしている。

 中に入ると装飾のなされた荘厳な建物には、美しいステンドグラスや誰かはわからないが、神と思われる像も建てられている。

 像の前で祈る者も居れば、懺悔室に入っていく者もいる。

 ただの教会のように見えるのだが、ロウソクではなく電球が光り、空調らしきものがあるのか温度も一定に保たれている。


「ようこそ 転移者様。 シン様がお待ちです」


 魔剣の力で気配も姿も消しているというのに、声を掛けられ、こちらを向いている人間のような物体があった。

 見た目は12から14歳程度の女の子に見えるが、人間の気配や魔力の流れをしていない。恐らく科学のと魔法を合わせた人形なのだろう。


「そうか。 案内を頼む」


「どうぞこちらへ」


 聖堂の横にある扉をいくつも潜り抜け、エレベータに乗り最上階へと向かう。

 案内された場所は、多くの機械が置かれた工房のような場所だった。


「シン様、お客様がお出でになられました」


 人形の言葉に、奥から作業服の男が出てきた。

 愛想のよい表情を浮かべ、どこか苦労の見える影があるが、20から24くらいの日本人だろうか。


「ようこそ僕と同じ転移した人」


 武器のようなものを持つどころか、前々世でみた作業服のようなものを着用し、油らしきもので顔も少し汚れている。

 そのまま握手を求められ、敵意と悪意を感じないため応じる。このような事はこの世界に来てから初めてだった。


「良い町でしょう。 平和で文明的で、文明を発展させるのには随分苦労したんだ」


 案内した人形によって窓を覆っていたカーテンが開かれる。

 手を放し、シンという男は窓のほうに歩いて行った。


「見てください。 みんなは教会と言ってるけれど、この工房で沢山開発してこの国はとても発展したんです」


 唯一ともとれる高い教会の窓から見下ろせる景色には、オーディン王国とは異なり文明的に発展した街並みがみえる。

 ただ異質で歪としか自分の目には映らなかった。


「魔獣にも銃とゴーレムの兵士が居れば、怪我をすることなく倒せるし安全も保てる。 竜だって最近作った爆弾で一撃で倒せ、量産できるようになればこの大陸も魔物の怯える事なく平和になります」


 こちらが話す暇もなく、とめどなく話し続けるシンという男に呆れつつも、自らの技術が何をもたらしているのか、何一つ見えてない事にイラつきを超えて哀れになってきた。


《時代に合わない天才の出現は、逆に文明を衰退させてしまう》


 彼はまさにそういった存在。彼一人に依存した歪な発展、他の発展の可能性が全てが消えうせ、ソフィール神聖教国は日本もどきとなってしまっている。

 彼はそれに一切気付いている様子もなく、ただ純粋な善意と感情でこの世界の為に努力している。それが他者に悪用されていることも、人々の可能性を消していることも、一切気付いていない。


「あぁごめん。 転移者と話すのは久々で自分ばかり話してしまった。 自分はサトウ・シン、2019年の東京からきたんだ」


「君が、このソフィール神聖王国を?」


「工房でみんなの為に色々作っているんだけど、いつの間にか教皇なんて言われているよ。 恥ずかしいから大体のことは大司教の人がやってくれているけどね」


 照れながら話す様には、彼の技術がどのように使われているか気づいていないようだ。


「君が開発した鋼鉄技術で剣が作られ、その剣によって邪教徒狩りの死者が出ている事に思う事はあるか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 科学が発展すればどうしたって兵器に転用されるよ、だからって科学を発展することを止めようとするなんて傲慢な事だ。
2022/03/18 12:42 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ