152.契約解除
ゼノンとアースドラゴンの部位を分け合い、討伐証明書を騎士から受け取りわかれた。
その足で冒険者ギルドにより、ダンジョンで狩った魔物の魔石以外の素材を売り払い、得た金銭を受け取り屋敷へと戻る。
屋敷に戻り、得た金銭を全て金庫室に保管したのち、用意されていた風呂に入り体の汚れを落とす。
体の調子も取り戻してきたので、そろそろ屋敷を離れ転生者討伐に向かうべきかもしれない。
しかし、長くなる可能性もあるため、イノの入学前に戻れない可能性もある。先に色々済ませておいたほうがいいだろう。
イノとはいまだ奴隷契約がつながれているが、学園に行くまでに解除しておく必要がある。
身だしなみを整え直し、風呂を出て貴族の服に着替える。
外で待っていた執事にイノが居る場所を問うと、庭でサーシャと共にお茶をしているという。
庭に出ると、庭園のすぐそばに設けられているテーブルに、サーシャとイノがお茶をしていた。
「あら、グレンどうしたの?」
近くまで行くと、サーシャは椅子に座りながら、静かに庭園を眺めている。
血の匂いを感じさせないサーシャを見るのは随分と久しい。
「良い機会だから、奴隷契約の解除をしておこうと思っていてな」
「そう、貴族院に行く前には必要な事ね」
椅子に座るイノの近くに行き、イノの手に右手を乗せる。
「所有者であるグレンの名において、イノを奴隷から解放する」
奴隷魔法の黒い影が消え、白い光が覆っていく。
「グレン・ヴァイカウント・ヘクサスは、イノを正式な娘として迎え、ヘクサスと名乗る事を許す。 血が繋がらずとも、汝は我が一族の一員であり」
堅苦しい、こういうのは好ましくはない、最後の一文くらいかえてもいいだろう。
手を伸ばしイノの頭に触れる。
「大事な娘だ。 怪我無く健やかに、ソーディアン家ではないが自分の為に強く生きろ。 我が兄アークスも、私も、そして妹のシーナもそう生きたように」
「えっ、あの」
困惑しているイノをそのままに、サーシャもまたイノの頭の上に手を置いた。
「私サーシャもまた、イノが私の娘である事を認めます。 自由に生きなさい。 貴族なんて堅苦しいもの、名を守れる最低限でいいのよ。 私達もあまり気にしてないし」
笑顔でそう告げると、サーシャはイノを抱き寄せる。
「あなたの悲しみは私の悲しみ、あなたの成長は私の喜び、血が繋がらなくてもあなたは私の娘、自分を大事にしなさい」
イノは目をつぶり、そのままサーシャに抱きしめられている。
サーシャにこのような一面があることには驚きではあるが、血に飢えていなければこれだけ女性らしい一面もあるのだろう。
サーシャはゆっくりと抱きしめていたイノを離す。
「それで、用件はそれだけじゃないでしょう?」
笑顔でこちらをみるサーシャには、こちらの
「当分屋敷を空ける。 ダンジョンで狩った魔物の金銭は金庫に入れてあるが、あとで確認してほしい。 不足ならばもう一度狩りに出る」
「夕食までに確認しておくわ。 でも、できる限りイノの入学式には戻ってきなさい」
「あぁ、わかった」
「分かって居るならいいわ。 たまにはあなたもお茶に付き合いなさい」
サーシャに言われ、自らの亜空間倉庫から椅子を出して席に着く。
テーブルの上には小さなお菓子と本が置かれている。
「最近は取引のある村から香水も仕入れているのよ。 あなたも少しは稼ぎ方を考えなさいな」
商才という点では、サーシャに頭が上がらない。魔物狩りで多く稼げてはいるが、それは商取引による安定した稼ぎではなく、一時的なものでしかない。
今後は王国付きの騎士になるため、ある程度の給金は出るのだが、ないかしら稼げる手段が合ったほうがいい。
「あ~いや、面目ない。 少し考えてみるよ」
苦笑しながら答えると、サーシャは呆れた表情を浮かべ、イノは小さく笑っている。
「イノも、こういう男を夫にしないように気を付けなさい。 強くて融通が利いても、稼ぎが不安定で大変になるんだから」
「はい。 お義母様、気を付けます」
「おいおい、イノもサーシャの味方にならないでくれよ。 これでも頑張って狩りをしているつもりなんだ」
始めてだろう家族となった人達との落ち着いた会話に、とても心が安らいでいくのを感じる。
新しい物語を書いてみました。
転生や無敵ものではありません。
死者蘇生への道
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