151.協力
「《スティリ:フロスト》」
小さな氷が地面を走り、アースドラゴンの足が凍り付く。一時的な効果しかないだろうが、それでも近づいて一撃を加える程度の隙は出来た。
ゼノンが踏み込みながら突き出した重槍は、アースドラゴンの左前足の竜鱗を突き破るが、暴れまわり足を固定していた氷を破壊、ゼノンに尻尾が襲い掛かり、大盾で受け止め5mほど程度後方に弾かれる。
「さすがドラゴン。 前足を貰うはずが少し出血しただけだ」
ゼノンの大盾は少し歪んでいるが、無理に受け止めずに力を逃がしたようだ。
「壁を作り、視界をつぶします。 《アイスウォール》 《アヴァランチ》」
いくつもの氷の壁を作り出し、雪崩とアースドラゴンが吐き出した岩のブレスとがぶつかり合うことで視界は完全に塞がれた。
氷の壁にゼノンは大盾を置き、両手で重槍を側面からアースドラゴンに迫る。
アースドラゴンの腹部に重槍が突き刺さり、激痛の声を上げるアースドラゴン、さすがにゼノンともなると突貫力が違う。だが竜麟を砕き肉を貫いても、骨までは砕けない。
アースドラゴンに突き刺さった重槍から手を離し、ゼノンは離れ亜空間倉庫から新しい重槍を取り出し握りしめる。
「あと6本用意はあるが、グレン殿、そちらは行けるか?」
「もう一度雪崩を起こすと同時にこちらは左側から仕掛けます」
「こちらは同じ足を狙い転倒させる。 それができたら、首を同時に狙うのはどうだ」
「わかりました。 《アヴァランチ》」
雪崩を作り出すと同時にアースドラゴン左側に走り込み、ゼノンは右側から再び腹部を狙う。
「凍てつく意思、冷鋭なる刃、《アイスツーハンデットソード:クリュスタッロス》」
透明に光り輝き、大型両手剣の形状として精細に作り上げられた氷の剣を握り締める。
以前とは異なり剣から冷気が溢れ出し、大気の水分を凍らせ小さな雪の結晶を作り出す。
雪崩が囮であることに気付いたアースドラゴンは身を大きくおこし、巨大な大地の刃による波を作り出す。円形に広がる岩石の刃の波はやっかいだが、ゼノンもわずかに迷うことなく氷の壁に飛び乗り、狙いを傷を負った足から背中へと即座に変え、とびかかると同時に振り下ろされた重槍は背に深々と突き刺さる。
さすがゼノン、重槍の特性と使い方をよく理解している。
「これで落ちろ!」
両手で重槍の柄をしっかりと掴み、暴れるたびにアースドラゴンの傷口が開ていく。
グレンもアースドラゴンの左側面に走り込み、腹部を切りつけると浅くではあるが、竜麟を切り裂き内部に届いている。
剣を引きながら竜麟を切り裂き、無防備となった腹部にアイスツーハンデットソードを突き刺す。
突き刺した周辺から凍り付いていき、アースドラゴンの動きが急激に鈍くなっていく。
「氷の精霊女王クリュスタッロスに感謝を!」
氷と竜麟ではさすがに強度が違いすぎるが、極限まで鋭くなった氷の刃ならば、竜麟さえも切り裂ける。
ついこの前魔石と魔力を奉納したこともあり、かなり氷の精霊が力を貸してくれている。
「凍てつく美しき氷の精霊女王クリュスタッロス、汝に我が敵の魂を贄として捧げん」
アイスツーハンデットソードに魔力を流し、力を込めてさらに押し込む。
絶叫の雄たけびを上げ、アースドラゴンはその場に倒れる、止めとばかりにゼノンは新たな重槍をつかみ、アースドラゴンの首に突き刺した。
「……さすがに、アースドラゴンは強いな。 共同でなければ危なかったかもしれん」
「いや、時間さえかければ、ゼノン殿なら問題なく倒せたでしょう。 素早く倒すために、お互い少々無理をしてしまっただけですよ」
「そうはいうがな。 この大きさでなかなかの速さで動く、楽ではないぞ。 槍もだいぶ歪んでしまった」
ゼノンは突き刺さっている重槍を引き抜き、布で軽くふき取ると亜空間倉庫にしまっていく。
確かに身体強化と合わせて竜麟を貫くのは、重槍にかなり負担がかかるだろう。
「それでも、胴体にあと3本も突き刺せば、出血でアースドラゴンは死んでました。 ゼノン殿だけでも十分ですよ」
「そうか。 だが今後戦うことがあった場合、慎重にやらなくてはな。 それでこいつはどうする」
ゼノンは重槍をしまいなおし、アースドラゴンの死骸を軽くたたく。
「頭部はゼノン殿が持ち帰り、重槍の素材にしてはどうだろうか」
「いいのか?」
「それ以外をもらえるのなら、それで十分です」
いくらか減ったとしても、数千万にはなるだろう大部分を貰えるのなら問題はない。
「わるいな。 だがこれで丈夫で良い槍が作れる」
竜の丈夫な頭骨と、角や牙があれば非常に強固な槍が作れる。
いまのゼノンには必要な物だろう。自分はアースドラゴンで予算さえ得られればいい。