147.私の母親は
「敗北を認めろ」
向けていた剣を上段に構え最後の言葉を伝えると、フェリクスは剣を捨てヘルムを地面に置いた。
いまこの場で見ていたすべての貴族やその子達が証人であり、ソーディアン家にとっての意思表示となる。
これ以上無理に関わろうとするならば、貴族としての名を貶めることになるが、そうなれば貴族として正当に排除することができる。
親も家の名を保つ為に勘当する以外手はなくなるだろう。
フェリクスに背を向け妹のもとに向かう。
「兄さんご苦労様」
「あぁ、でも弱っている体では加減はぎりぎりだった」
万全ではない体では適切な手加減はできない。魔法で片付いたから良い物の、それ以上であったならこの場で命を奪う以外方法はなかった。
「殺してしまっても良かったのだけれど、グレン兄さんの考えならまぁいいわ」
「穏便に済ませないと、今後のシーナの名に響く」
「気にしなくていいのに、でも感謝はするわ。 グレン兄さんありがとう」
丁寧に妹に礼を言われるならこの程度の事なんということはない。血が繋がらなくても大切な妹なのだから。
「坊や、止めを刺さないのは悪い癖よ?」
キョウキが笑顔でそう言うのだが、ここで未熟な子爵の子を殺したとなればあまり聞こえがよくない。
しかし証人が多くいる中で公言した以上、今後挑んでくるならば命を奪っても問題はない。
「必要であればそうするが、今度言い寄ってきても片付けてくれるだろう?」
「可愛いシーナの為ですもの、坊やがそう望むならそうしてあげるわ。 でも報酬はちゃんともらうわ」
「今度はなんですか」
すでに魔剣を持っていかれているのだが、いったい何を要求されるのか予想がつかない。
「そうね。 坊やの子供を一人私に」
「イノが行く。 実子ではないが」
貞操を報酬として支払うつもりはない。
「なら坊やの剣をまた渡しなさい」
少々異常だとしても、キョウキもまた凄腕の戦士、強力な武器には目がない。
一本作るのに数日かかりきりになるけれど、それくらいで妹に集る面倒な男の事を任せられるなら大したことではない。
「数日以内に作って贈るよ」
キョウキは自らを義母と呼ばせないと期限が悪くなる。実際育ての母親は彼女といっても間違いはないので、それほど違和感はない。
「愛しいキョウキ義母様に心を込めて作るのよ?」
笑顔を浮かべながら自らを義母というキョウキを見ていると、マナーや言葉遣いなどの教育をしてくれていた昔を思い出す。
やはり私にとっての母親とはキョウキなのだろう。
「わかっていますよ。 義母さん」
「ふふ、いい子ね」
キョウキは微笑むとシーナのほうをむく。
「シーナ、そろそろ発表会が始まる時間だから移動しましょう」
「サーシャ義姉さんも一緒にいかが? 私が所属する派閥の研究内容が発表されるの」
「いいわね。 イノ、あなたも入学したら入る派閥になるのですから、一緒に行きましょう。 ナルタあなたもいくわよ」
「はい」
5人が発表会場に向かうのを見つつ、後ろをついていく。こういう時男には発言権がないのはどこも同じことだ。