146.覚悟では不可能な事
死霊術を得意としているシーナでも、もう少しまともな剣の使い方をする。鍛え方の差ではなく、戦いに対する心構えの違いだろう。
何かで防ぐ必要性もない。
「それが限界か?」
土壁を崩しフェリクスの前に立つ。
「はぁぁぁっ!!」
フェリクスの気合とともに振り下ろされた剣を避ける事なくそのまま肩で受け止める。しかしめり込む事もなく鎧に弾かれ剣は止まっている。
「なんで、くそ!」
両手に力を込めて押し込んでいるようだが、それだけでは意味がない。
「身体強化は出来ても、無意識下で最低限剣に魔力を這わせる事もできていない。 意図して流してみろ」
所詮剣は剣、それを戦闘に使える段階まで引き上げるのが技術、魔法剣ではなくとも剣に微量に魔力を流して強度と切れ味を増すくらいは冒険者もしている。
フェリクスの腹部を殴り、5mほど弾き飛ばし地面を転がり綺麗な鎧に土がついている。受け身も取れていないようで、すぐには立ち上がれていない。
戦争の中で左腕と肩の鎧を破壊した騎士団員のように、自在に力を制御できていない。
フェリクスは動かないカカシへの訓練と、木剣を使った打ち合い程度で部隊長にでもなったのだろうか。
いや、これが年齢から考えたらこれが普通か。腕を切り落されたり、魔法で傷を癒すからと致命傷にならない程度に全身切り刻まれるほうが異常だ。
今も全身消えない刀傷跡でだらけ、養成学校でも共同の風呂場でどれだけ変な目でみられたことか。
冷静に判断していくと、やはりまだまだ貴族院に留まり訓練が必要な実力。養成学校や見習い騎士に挑める実力には達していない。
「すまないが、その程度であるならば、シーナの相手とは到底認められない」
本当の両親も知らず、祖父レオハートが孤児となった2歳のシーナを連れてきた、その為物心が付くと貴族に相応しくなろうと、技術も外見も能力も性格も、小さい頃から必死で努力を積み重ねてきた。そのことを知らず理解できず、口だけで内面さえも愛せると言われると気分が良くない。
ソーディアン家の5兄弟といわれていても、血の繋がらない兄アークスと私、そしてシーナは沢山協力してきた。兄アークスは学費や生活費の全てを、私はキョウキに魔剣を渡してでもシーナの事を頼み込んだ。
「それでも、私がもっとも相応しいのです!」
あきらめずに剣を握りしめ、立ち上がる姿はなかなか素晴らしく、その気持ちの強さは評価したいが、当人のシーナが嫌と言っている事を理解してほしい。
「ならば、一度命を懸けるという事を体験してみるか?」
口で通じないなら、これ以上かかわるのなら、命を奪うと身をもって教えるしかない。
「陽光に隠れし闇の欠片よ。 我が魔力を喰らいて全てに抗い」
兄アークスに教わってからまったく使っていなかったため、制御が甘くて気絶くらいはさせてしまうかもしれないが、今この場で留めておかなければ、祖父が出張ってきたら本当に殺しかねない。
たとえ殺されたとしてもさほど心は痛まないが、妹のシーナに変な話が付いても困る。
「静寂なる殺意を敵にもたらせ 《クシフォス・スキアー》」
再び剣を振り上げたフェリクスに向かって、一歩踏み込み首に向け剣を振り切る。殺傷力のない影だけの刃だが、身を通過するとき僅かな波動が身を貫通する感覚は残る。
フェリクスはその場に座り込み、立てないでいる。
「もう一度言う、君では余りにも不釣合いだ。 次は影の刃ではなく、本当に斬る」
地面に突き刺しておいた剣を掴み、フェリクスの剣先を向ける。
お待たせいたしました。
無事小説データとともにPC移行ができましたので再開いたします。