145.一手
先に広場で待っていると、その間に一種の見世物として貴族やその家族が集まりだす。
「兄さん。 周りに被害が出ないように抑えてよ?」
「分かっている。 なんにせよ、体がまだ万全ではなく激しい戦いはできないが」
激しく動けばまだ貧血に成りかねないため、余り無茶をすることは出来ない。
「あら、何か起きるのかしら?」
サーシャとキョウキが戻ってくると、シーナとイノが説明している。少し呆れているようなサーシャと異なり、キョウキはため息をついている。
以前からそれなりに断りを入れていたのだろう。
「キョウキ……姉さん、フェリクスはそれほどしつこかったのですか?」
「ほとんど毎日お手紙やお食事の誘いがありました。 書面でお断りを入れてもしつこく、女学院を出なければならないときは、派閥のお嬢様達で近付かないようにしていました」
かなり諦めの悪い男子のようだが、さすがに貴族の端くれとしても兄としても認めたくはない。やはりシーナには選ばれるのではなく、自分の意思で相手を選んで欲しい。
「状況は理解した。 必ず断り、近付かないようにしよう」
そのまま10分近く待っていると、装飾過多な鎧を纏ったフェリクスが歩いてきた。
「そのようなボロボロの鎧を纏ったままですが、それは私が戦うに値しないと言う事でしょうか」
総アダマンタイト作りの為、数千万の修理費がかかるため、ドワーフの国にまだ修理に送れていないだけなのだが。これは失礼に当たってしまったか。だいぶ気分を害しているようだ。
なんにせよ、これ以外鎧一式を持ってはいない。
「その様にしか見えないのなら、そうなのだろう。 シーナ、合図を」
広場に向かい合うように立つ。
訓練用ではない剣を抜き、しっかりと構えている姿は様になっている。
「剣を抜かないのですか?」
ふらつかない程度には体は落ち着いているが、まだ激しい負荷に耐えられほどではない。だが、それでも兄として、妹の為に戦いを避ける事はできない。
背負っていた大剣を地面に突き刺す。
「君相手に必要だとは思えない」
剣を強く握り締める手が軽く震えているため、相応に怒りを抑えているようだ。
「はじめ」
フェリクスは妹シーナの声と共に大きく剣を振り上げる。
「《ウィンド:スライサー》」
フェリクスは剣に風の魔法を宿し振う。剣から放たれた風の刃は、弓矢よりも遅く投擲くらいの速度、そして冒険者や騎士達が練習でも攻撃に宿す鋭く殺意がまったない。
迫ってきた風の刃に右腕をぶつけ打ち消す。対魔属性の高いアダマンタイト製の鎧に、発動精度の低い魔法攻撃などなんら意味はない。
「攻撃魔法の形はなしてはいるが、まだ実戦レベルではない。 殺すつもりで来ないなら、これで終わりだ」
「《ウィンド:スラッシュ》!!」
再び風の刃が放たれ、今度は明確な殺意が込められているが、やはり速度はそれほど速くはない。しかし風の刃を放つと同時に踏み込み、振り下ろした剣を下段から切り上げる体勢に入っている。
「《アースウォール》」
地面から土壁を作り出し二歩下がる。
風の刃がぶつかる音が響き、気合と共に土壁を切りかかったようだが、剣が食い込んだだけで振り切れていない。
「くっっ!」
声と音から予測すると剣引き抜いたようだが、そのまま何かをするわけでもなく一旦距離を取ったようだ。
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