144.貴族の体面
「それじゃ坊や。 私も着替えてくるわ」
キョウキも着替えに離れていく。
「それで兄さん。 頼みがあるんだけれど」
「頼み?」
二人がいなくなった事で、シーナのブースの展示物に目を向けながら話を聞く。
「最近ずっと貴族の男子から結婚を求められていて面倒だから、兄の立場を使って追い払って」
短く青い髪のシーナは見た目は歳相応以上で良いのだが、当人は死霊系の魔導を極める事以外興味がない。
祖父が応援しているために、両親もどこかに嫁がせるつもりもなく、貴族としての立ち振る舞いを覚えさせるための女学院入り以外は自由にさせている。
「それは物理的に排除しろと判断でいいのか?」
「実力を証明しようとするはずだから、軽く叩き返してくれればいいわ。 ほら、来たわよ」
中々鍛えこんでいるのか、まだ貴族院通いの若さなのに服から上からでも鍛えているのがわかる。しかし養成学校に入学する年齢前なだけに表情には幼さが見える。
貴族の子息らしくきっちり整えられた茶色の髪と服装から躾ができていることがわかる。
「あいつ、フェリクス・ヴラウン。 子爵家の子なんだけど、しつこく求婚してくるのよ」
子爵となると話はまだ通じる。
人の恋路には口出ししたくはないのだが、妹の頼みとなると仕方ない。
「シーナ嬢、今日もとてもお美しい」
シーナの元にまでくると、その場に跪き丁寧に礼をつくしている。
「本日は親族の方が参られると言う事で、ご紹介願えればと」
シーナの表情はうんざりしており、嫌っていると言うより全く興味がないといったところだろうか。
「こちらが兄のグレンよ」
紹介されると立ち上がり、こちらに丁寧に頭を下げる。
「お兄さまにはお初にお目にかかります。 私はフェリクス・ヴラン、ブラウン子爵家の長男であり、貴族院では訓練騎士団の第三部隊長を務めています」
部隊長と言う事は相応なのだろう。体がしっかり鍛えられているのも納得できる。しかし、貴族として断る女性に対して諦めず、何度も近付こうとするのは少々いただけない。
貴族院にいる子息子女だからこそまだ許されるが、夜装会等でやればやっかい者扱いされるだろう。
「すまないが、シーナに近付かないでもらえるか。 君は妹に相応しくない」
「いえ、私こそ相応しい相手です。 私以外の相手など、シーナ嬢の外見や力に引かれているだけであり、私こそが内面までも愛する事が出来ます」
かなり強めに言ったのだが、どうやら理解してはもらえなかったようだ。
もし内面まで理解できるのなら、シーナが面倒に思っていることくらい分かって欲しいものだが、それ故に面倒だと嫌っているのだろう。
「ならば、私は兄として君を実力をもって排除しなければならない」
貴族の儀礼用の剣を亜空間倉庫から取り出し、フェリクスに向ける。
「貴殿が我が妹シーナに相応しいと言うのなら、我にその力を示せ」
正直示したところで許すつもりはないのだが、これはこの場の周りにいる貴族達が証明人となる。ここで力を示せなければ、公私共に近づくことは出来なくなるだろう。
「承りました。 我が力を兄となるグレン様にお見せいたします」
正直この男に兄とは呼ばれたくはない。血が繋がっていなくとも大事な妹、聞き分けの悪い男の夫にしたくはない。もし結婚する相手が出来たとしても、シーナの意見を尊重してくれる男で会って欲しい。
周囲に居た貴族達が離れ、広場の方に向う道が開かれる。
「早めに着替えて来い。 武具はもちろん持っているのだろう?」
「えぇ、もちろんです」
PC入れ替え作業がありますので、次回更新のあと少し間が開きます。