143.狂った母性
巨大な水流の流れがキョウキに迫るも、気合と共に振り切られた魔剣によって真っ二つに切り裂かれ、傷を負わせるまでにはならない。
二つに分かれた水流の一方は地面に、もう一方は空中から飲み込むように広がる。
「掛かったわね」
地面に広がった水流は壁となり、空中に広がった水流は鋭い棘を出しながらキョウキに迫る。
キョウキは冷静に地面に魔剣を突き刺す。
「バスターゲイザー」
破壊の力が地面より噴出し、水の壁と棘をかき消してしまう。
こちらまで飛び散ってきた水をマントで打ち払い、シーナやイノに掛からないように防ぐ。
お互いに加減しているのかと問いたくなるのだが、妹のシーナいわく男は口出し無用の故に見ていることしか出来ない。
「もう少しで終りね」
「命の取り合いにならなければいいが」
「そこまでは……たぶん大丈夫でしょ」
少しシーナが不安そうにしているのだが、最悪の事態だけは避けて欲しい。
「大丈夫でしょうか」
イノも心配しているようだが、正直どちらが優勢なのか判断がつかない。
「応援した方がいい。 イノの応援できっと頑張れるだろう」
「サーシャ義母様! 負けないで下さい!!」
サーシャを義母様と呼ぶとは、いつの間にそんな間柄になったのだろう。居なかった間なのか、それとも女性同士だから仲良くなる事ができたのだろうか。
飛び散った水全てが小さな棘の刃となり、再びキョウキに向って飛んでいく。砕かれても制御を外す事無く、再び全方位からの攻撃。
「風よ。 剣に宿りて疾風となれ《断空》」
キョウキの周囲に強烈な風が巻き起こり、魔剣を振り上げると迫る水の刃を全て空中に吹き飛ばす。しかし水を上空にまとめて吹き飛ばした事で視界が僅かな間覆われ、サーシャは一気に接近しキョウキの頭を掴みそのまま地面に叩き付ける。
「はい。 サーシャ義姉さんの勝ち」
シーナがそういうと、二人の動きが止まっている。
「やられちゃったわね。 仕方ないわ」
キョウキはそう言うと魔剣を自らの倉庫にしまった。
「楽しかったわ。 本当の殺し合いだったらよかったのだけれど」
「ふふふ。 そうね」
「次はそうしましょう。 ふふ」
表向きはとりあえず勝敗を決したとみていいのだろう。しかし二人が笑顔でいると言うのに、寒気しかしてこない。
「グレン、私は着替えてくるから、シーナのブースにいて」
サーシャはそう言うと、シーナの派閥の子に案内されていった。
キョウキは魔法で落とすと服の汚れを落とし、こちらに歩いてくる。
「坊やもいい子を連れてきたわね。 安心して任せられるわ」
キョウキに頭を撫でられる。小さい頃はずっと褒められるときは頭を撫でられていたが、この年になってまでやられると恥ずかしくなる。
「そしてイノちゃん。 あなたが学園に入学したら、私がシーナちゃんと一緒に面倒を見るから、よろしくね」
「はっはい。 キョウキ様 よろしくお願いします」
イノが私の後ろからキョウキにいうと頭を撫でるのをやめ、イノの前に移動するとキョウキはしゃがんで笑顔でイノを抱き締める。
「私を呼ぶ時はキョウキおねぇちゃん ってよぶのよ」
またキョウキの愛情が向けられる対象が増えた気がするが、何があろうと守り育ててくれるのは間違いがないだけに、なんとも注意などを言い難い。