140.貴族院へ
鍛錬と体の調整を続けながら半月、妹シーナが通う貴族院へと向う馬車に乗り込む。
共に行くのはサーシャ・イノ・ナルタの三人、王都から少し離れたエウローリア公爵直轄地にあり、 朝馬車で出れば昼を少し過ぎたくらいには到着する。
広大な土地に作られた貴族院は戦士養成学校と同じ規模がある。オーディン王国のほぼ全ての貴族の子息や子女が通い、一部だが隣国の貴族も通うこともある。
兵士によって警備される大門を抜け、貴族院の中にある女学院の区域の前に馬車が止まる。
本来は男子禁制なのだが、学園祭の時のみ親族と護衛は入る事ができる。多くの家族連れが娘の様子を見ようと詰めかけ、大混雑をしていた。
「凄い数ね」
サーシャは大混雑している敷地内にため息をついている。これだけの混雑の中を行くのは大変そうだ。
「イノ、手を」
離れないようにイノの手を握る。
「そうね。 そうしておきましょう」
反対側の手もサーシャが握り、そのまま女学園の受付に行く。
「シーナ・ソーディアンの兄、グレン・ヘクサス。 一緒にいるのは婚約者と娘と教育係」
書類に記録され、イノに強く手を握られた気がするが、かまわず門を抜けると、大量の死霊の使い魔たちと共に妹のシーナが待っていた。
周囲にいた他の親御さん達はシーナから遠めに避けて歩いている。
「お兄様、そして義姉様、ようこそいらっしゃいました。 歓迎いたしますわ」
スカートをつまみ、貴族の子女らしく丁寧なシーナの挨拶に感心する。
「義妹からの丁重なお招き感謝いたします。 イノ、あなたもなさい」
サーシャに促され、イノも同じように貴族の子女の礼に乗っ取った挨拶をしているようで、どこかやはり違う。
「グレン兄さんが言っていた子ね。 入学したら私の派閥に入る事になるわ」
シーナの派閥が何をしているのか分からないのだが、何もない所から一人で寮生活をするよりはいいだろう。
「シーナ、どのような活動をしているんだ?」
「これから案内するわ。 それよりグレン兄さん。 派閥の子に紹介するから鎧着て」
「子爵になった兄さんの戦場の話を聴きたがるわ。 その時着ていた鎧なら尚更よ」
あんな苦戦していた戦いを話せというのか。
「洗浄は済んでいるが、まだ修理が出来ていない。 あまり見た目良いものではないが、それでもいいのか?」
「それがいいのよ。 みな戦場なんて書物でしか知らない中、兄さんは戦果を上げて生き残ったんだから」
確かに、あれほどの戦争なんてものは中々起きない。余り気乗りはしないが、シーナの頼みとなれば仕方ない。
「どこか着替えられる所はあるか。 更衣室があるなら借りたいのだが」
「用意してあるわ。 急いでね」
他の貴族の子女達の展示ブースを見に行くサーシャ達と別れ、シーナに案内された場所には他の貴族の男性も案内されていた。
「ここで着替えて、私のブースに着てね」
先に歩いていったシーナを見届け、着替える部屋には貴族達が鎧を身につける作業を行っていた。
どの何かあるように思えるのだが、妹のためなら少々の無理も構わないだろう。
鎧の左肩から左腕にかけてゆがみ、腹部には大きな穴が開いている。脇の小さな鎖帷子の箇所も短剣によって貫かれたあとがある。
やはり見栄えがいいものではないのだが、戦争の跡と言えば間違えはないだろう。
手早く着替えて着用するが、他の貴族から嘲笑のような声が聞こえてくる。実際戦場に出ないような貴族からしてみれば、美しく装飾の成された壮美な装飾の成されていない実戦主義の、ボロボロの鎧など汚く見えるのだろう。