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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
1章 王都での戦い
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13.義手とブレーカーガントレット

 さすが冒険者ギルドが斡旋している事もあり、道路の両側は義手や義足だけではなく、珍しい機械の道具などの商店が立ち並び活気に溢れていた。

 商店の前に並べられているお客向けの義手を、いくつか歩きながら眺めるが、どれも装飾が施されていたり見た目重視の良い作りになっている。やはり比較的資金のある冒険者が利用すると、装飾性が求められるのだろうか。

 人通りもさほど多くなく、奥まった場所にある一軒の店、その前に並べられた義手に目が留まった。頑丈な鋼鉄で作られ、重そうだが衝撃にも耐えられるし、そのまま殴りつける事もできるだろう。ラクシャにも見てもらうが、気に入ったのか片手で義手をあれこれ調べている。

 店の扉を開くと中は多くの義手や義足が天井から吊るされ、若干異様ともいえる雰囲気をかもし出している。少し奥まった場所では一人の女性が義手を調整している姿があった。


「ごめんなさい、お客さんですか」


 こちらに気付いたのか作業を止め、テーブルから立ち上がった。30から40代くらいの風貌からして熟練技師と言った感じなのだが、どうやら直接応対もしてくれるようだ。


「義手を願いたい。 程度は鬼人族の実際に耐え得る物を」


「こちらで調べるから来てください。 時間がかかりますのでお連れの方は店内でお待ちください」


 ラクシャの義手を見立ててもらっている間、店の中を見回らせてもらう。どの義手や義足も実用重視なのか、装飾らしいものは何一つ施されておらず、店が対象としている客層は冒険者などであることは間違いないだろう。

 部屋の隅まで見て回ると、がらくたのように積み上げられた、わけの判らないものある。なんなのかわからず眺めているとガラクタの山の置くから人影が現れた。


「興味をもつものはあるかい」


 こちらも熟練技師のようだが、ぼさぼさの髪や無精髭からして、普段は接客などしないようなタイプに思える。


「つまらない武器は、それだけで良い武器ではありえない。そうは思わないかね?」


 実戦で使用する事を考えたら、実用性を無視する事はできないのだが、使い心地が良い武器ならば話は別だろう。


「良いものはあるのですか?」


 どこか狂気さを含む良い笑顔を浮かべ、ガラクタの山の奥に案内される。どれも綺麗に並べられているがやはり限度がある。握り部分まで刃の両刃の剣や棘だらけの杖、二股どころか九又の槍など使いこなせる気がしない。

 いくつも見せてもらったが、一品だけ一際心惹かれるキワモノがあった。見た目は腕に直接取り付けるアームガントレットの刃&シールド付きのなのだが、極めて単純な蒸気機械構造と火の魔石が接続され、30センチ程度出ていた刃部分が60センチまで打ち出される。

 構造としては火の魔石の爆発を利用して杭を撃ち出すだけの杭打ち機。


「この構造、一体どこで思いついた?」


 間違いなく元々いた世界にあった建機の、ブレーカもしくは杭打ち機を模倣しようとしたものだろう。技術的には中途半端な代物だし、発想が途中でこの世界に準拠したものになっている。恐らく発想やデザインなどを誰からか聞いたはずだ。


「8年ほど前、露店で絵描きをやっていた奴と親しくなってな。 ドワーフの蒸気構造や機構に詳しい奴で、こいつはその時一緒に製作したもんだ」


 どうやら古い機械工学に詳しい転生者のようだ。ただ一緒に製作したという事は元の世界の技術を大分隠しているという事だろうか。


「試作一号が完成したらドワーフの国に行くと言って町を出てしまってその後はわからんが、2年前に敷設された魔道蒸気列車を向こうで見たりしてきっと楽しんでいるだろうさ」


 ドワーフの国 ウルツァイトとなるとほぼ隣国を挟んでさらにその先、さらにウルツァイトと隣国は小規模の争いが続き険悪な状態だ。友好国とはいえ、たかだかCやD級程度の冒険者では、国境を通してはくれないだろう。

 最悪国境を破るか密入国でもすればいいのだが、最後の一人ならともかく一人目で最終手段を行うのは避けたい。何よりも重要なのは神命であり、それを果たせなくなるような立ち振る舞いは避けるべきだ。


「変わった発想をしているとかじゃなくて、ドワーフの技術に詳しいだけなのか?」


「詳しいといっても、所々抜けてるようでな。 私が説明した物を、まとめなおす方が得意な感じだったな」


 まとめなおす か。どうやら積極的に元の世界の情報を出すのは控えているようだ。技術レベルを探っているのか、それとも影響を与え過ぎるのを控えているのか、どちらせによ急いでどうにかする必要性はないようだ。


「購入したいのだが、あなたとその一緒に作った者の名を彫ったらどうですか。せっかくの一品物なのでしょう?」


「それもそうか。 よし ちょっとまってくれ。 まずは俺の名前をと」


 正直興味はないのだが、二人目の名前が刻まれるところを確認しておく。彫られた名は ムダン・ラジャム なんとなく人名以外として聞き覚えがあるのだが、元の世界の記憶を失いすぎた影響だろう。


「よし、それじゃ装着するから動かないでくれよ」


 装着してみると思ったより大掛かりだった。右手から肩口までを安物とはいえフルプレートアーマーを纏い、その上にブレーカーガントレットを装着。人間が直接試験するのは始めてなのは分かるが厳重にし過ぎな気がする。

 軽く動かして調整していると、ラクシャの義手も出来上がったようだ。右腕と肘を基点に取り付けるアームガントレットタイプ、全体が盾のような構造と鋼鉄で頑丈に作られ、振り切ればハンマーの代わりにもなるだろう。

 極めて簡単な機械構造を取り付け、武器は握れないがコップ程度なら掴める用に仕上げられている。関節の調整など行っている事から機構術士としての腕は良いようだ。


「問題はなさそうね。 鬼人族だけあって重さを苦にもしてないし、良い材料があれば、もっと良い物が作れるんだけど」


 予算もなければ材料も無い。一度ダンジョンの15層程度で数日滞在して稼ぐしかないだろう。幸い二人は奴隷になったタイミングでランクは消失しているが元はBランク冒険者、怪我の治療さえ上手く言い逃れれば問題は無い。


「ブレーカーガントレットは壊しても構わないが、問題点の抽出には気をつけてくれ」


 店を出たとダンジョンに潜る為に武具店を回るが、購入できたのは革の防具だけで武器はなしとなった。とりあえずは15層程度に居るリザードマンの武器を奪って使うそうだが、今後のことを考えると、やはりちゃんとした鋳造と付与技術を思い出したほうがよさそうだ。

 魔剣の事を思い出したので不要だと思っていたのだが、考えてみれば武器は無事だったが防具を失っているので製作する以外方法が無い。

 残金は約2万フリス、正直すぐにでもダンジョンに潜らないと拙いのだが、残った2万フリスで食料を買い込みそのままダンジョンに潜る。二人は元Bクラス、深い層まで潜ってもなんら問題は無いし、大量に狩りを行っても怪しまれる事は無い。

 急いで寮に戻りジノを呼んだのだが、何故かエルとリーアナはジノの背中に乗り共に行く気のようだ。


「二人とも、ダンジョンに行くのだが大丈夫なのか?」


 戦えというつもりはないが、安全を保障できない。しかし二人は問題は全然無いと頷くとしっかりジノにつかまる。確かにジノの強さなら大抵のモンスターなど相手にはならないのだが、二人が問題ないというのなら大丈夫なのだろう。


「ジノは二人が背中に居てもいいのか」


 ジノが静かに頷き問題ないというならこれ以上は不要だろう。町を出てダンジョンまで移動すると入場登録を済ませ15層まで寄り道せずに下っていく。

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