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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
3章 戦争へ
133/176

133.区切り

 胴プレートが歪んだ騎士団長が立ち上がる。それなりに怪我を負ったらしく少し動きがぎこちないが、それでも大した時間も掛からず治癒するだろう。今の内に止めをささなければ。

 大剣を構えようとするが、腹部に痛みが走り上段や中段に構えられそうにない。

 無理な身体強化の負担と治癒呪文の効果、それがほとんど打ち消しあっている状態では、出血を止める以上の効果は見込めない。

 その時、他の騎士が投擲していたランスが胴体を貫通し、両膝を地面についてしまう。

 臓器をかなり傷めたようだが、幸い背骨も外れ即死は免れた。


「がぁぁぁぁ!!」


 ランスを掴み、激痛を覚悟する声をあげながら無理やり引き抜く。ランスによって大きく開いた傷口、そして口から血が吹き出しもはや治癒が追いつかない。

 一対一で戦うのはただの騎士や貴族同士の礼儀に過ぎない。

 戦場において背後から奇襲をかけて殺したとしても、蔑まれる事はあろうが功績であることには違いはない。

 首だけで後ろを見ると、投擲しただろう騎士は白鳳騎士団の魔物に倒されていた。


 前に向き直るがもはや立つ余裕もなく、敵騎士団長が長剣を構えこちらに走る。

 呪殺剣 鬼喰らい 天津風は片腕で持ち上げられるほど、軽い大剣ではない。左腕は傷口から離すわけにもいかず、身の程を弁えず無茶をしすぎた代償。


[これ以上は命を削る]


 3面鬼が言っていたことをなんとなく理解し、単純に身体強化の倍率を挙げる事だけに使っていた。今それを使わなくては、生き残る事はできそうにもない。

 剣にのみ纏わりついていた黒いモヤ、それが体にまで纏わりつき体の痛みが消えていくが、嫌な実感がある。

 治ったわけではなく、痛みを感じなくなっただけだと。

 大出血を覚悟で認識できる限界の8倍まで身体を強化、両腕で大剣を掴み全力で振り上げ、敵騎士団長を肩口から斜めに振り下ろす。敵騎士団長の剣を砕き鎧を僅かな間をおいて両断、地面に大剣がめり込んだ。

 地面に叩き付けると同時に両腕の筋が千切れ、腕から肩口まで酷い出血を起こす。

 剣を握るどころか腕を上げていることも出来ず、出血のし過ぎによるふらつき、痛みは無いがもう体は自由に動かない。

 全ての身体強化を止め、その場に両膝を着いて動けなくなってしまった。


 「無理をしたな グレン」


 兄アークスが敵騎士団長を倒したことで、アルンフォル公爵とクラノウス公爵は撤退した。不利な戦いをせず、戦況をしっかり見据えている。

 結局戦況が見えていなかったのは自分だったようだ。


「グレンを連れて下がれ」


 白鳳騎士団に所属する魔物であるリザードマンに担がれ、自陣へと戻ると治癒術士によって治療が行われた。

 かなり酷いものだったが、騎士団に所属する一流の治癒術によって傷だけは塞がり、出血によるふらつき以外は大した時間も掛からず治療が完了された。



 自分の治療が終わる頃にはセグレスト公爵の兵の半数以上が討ち取られ、勝敗は決したと言える。

 まだパルム公爵家の当主は状況を警戒し前線に出ておらず、必要であればセグレスト公爵家当主に剣を向けることも可能だろう。

 地響きと共にセグレスト公爵家の陣営中央の地面が盛り上がり、土の中から巨大な影が姿を現した。


「あれは、まさか……」


 王都近くの森には幼体と成体になりたてのヒュドラがいた。そこから予想すべきであった。

 5つに分かれた頭部、全長30mを超える巨体、完全な成体のヒュドラ。


「騎士や兵士は退け!」


 疲弊した騎士や兵士達では、戦っても餌になるだけで戦力にはならない。

 陣中央で待機していたエウローリア公爵が立ち上がろうとしたとき、いままで状況を静観していた龍がその身を起こした。


「つまらん。 下等な蛇如きが我が前に姿を見せるな」


 上位竜は大きく息を吸い込み、吐き出されるブレスには雷と炎が混じり合わされ全てを消滅させていく。


「もうよかろう。 我が見るべき戦いは終わった。 継承者争いを見届けるは他のモノでよい」


 そう言うと龍は姿が光の中に消えていく。

 さすがに龍のブレスを予期していなかったのか、セグレスト公爵側の騎士や兵士達が戦意を失い逃げていく。


 「逃がすな! 民に害を成す者達を野に放ってならん!」




 これでようやく王位継承争いが行われる。

 もちろん各騎士団長や公爵家が、王位継承権を持つセグレスト公爵と戦い、疲れさせたり手傷を負わせても良いのだが、格の違う相手に命を無駄に失わせることをエウローリア公爵は好しとはしなかった。

 あくまで王位継承権を持つ自らの手によって、血を別けた弟の命を絶つ覚悟であった。


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