130.転移者 介入の証
敵陣に突入するも状態は乱戦になりつつあり、半刻もした頃には数の差によって徐々にエウローリア公爵側の騎士や兵の数が減っていた。
「サーシャ! 大丈夫か!」
「えぇ、でも幾ら私でも数が多過ぎるわね」
どの方向も正騎士や正規兵だけであり味方の姿などない。
囲まれ同時攻撃を受けないよう気をつけながら戦っているのだが、アダマンタイトの防具は度重なる刃を受け流したことでぼろぼろになっている。
サーシャも避けきれず、ドレスの裾や袖が少し斬られている。
「不味いながら下がれ! 防具を付けてないだけ危険だ!!」
「そうね。 一旦着替えに戻るわ」
目の色が赤色に代わり、体を霧に変え消えていった。
吸血鬼の力を変異しないでも自在に使えるのは凄いとは思うのだが、余りに使いすぎて完全に変異してしまわないか心配になる。
「グレン! 転移者の道具!!」
「あれです!」
いつの間にか居たエルとリーアナの指し示した方向には、鉄の塊と思われる物体。記憶の片隅にある、あれは映像で見た航空機などが積む爆弾。
「なんてモノを作ってるんだ! あんなものが広がったら世界のバランスが崩れるどころじゃない!」
それに基本的な用途を分かっていないのか、爆弾の前に大きなハンマーを持っている。あれで先端を叩いて起爆するつもりだろうか。
ということはまだ電子機能がないレトロな作りだが、どちらにせよ危険なものであるに違いない。
1トンくらいはある巨大なサイズ、この戦争にいるもの殆どを吹き飛ばす事くらいは出来るだろう。
「突撃する! 二人とも隠れてくれ!!」
呪殺剣 鬼喰らい 天津風の力を限界まで引き出し身体能力は大よそ6倍、常時回復の魔法が掛けられているのに全身が軋み悲鳴を上げる。
一般騎士の6倍近い身体能力、剣の重量と強度も利用し、騎士達の武具ごとなぎ払いながら距離を詰める。
爆弾の横に居た人並みはずれた大柄の騎士、それが立ちふさがる。
人でも魔物でもない気配だが、監察し調べている余裕ななどない。
「どけぇ!!」
気合と共に大剣を叩き付けるが鋼鉄の鎧を貫き、何か鋼鉄の物体を切り裂き途中で止まる。
切り裂き開かれた中から火花が散り、対象の存在が何であったか分かった。
「これは……機械人形か! どこまで世界を狂わす気だ転移者!!」
機械の騎士は両腕で握る大斧を振り上げる。
構わず剣に力を込め斜めに両断したが、両腕から血が噴出し限界を超えた影響が出始めていた。
斜めに両断したのに、頭部とそれに繋がる右腕がまだ動いている。
「大地に伏せる死者達よ。 今奈落への風穴を開き我が敵を飲み込め《トレマ・ゲー》」
直径1mほどの底が見えないほどの穴が機械人形の真下に開かれる。
本来は落とし穴のようなもののためにいくらおちても破壊することはできないだろうが、その上に爆弾を落下させる。
機械人形は予想外であったが、もとより爆弾を処理するためには、大穴をあけてそこに落とすしかなかった。
全力で離れると振動と爆発音が響き渡り、天まで火柱が上った。
何事かとこちらをセグレスト公爵側の騎士や兵士達は顔を向けるが、そんなこと戦闘中にやるのは自殺行為。隙を見たエウローリア公爵の騎士達が体制を整え直し、僅かながら陣形を整え再び攻勢に出始めた。
「腕が……」
6倍の負荷を取り除くが、まだ腕が自由には動かない。震える両腕で大剣を背中に留めなおし、自陣の方向に走る。
このまま戦い続けられるような体の状態ではない。一時的でも体を休め腕を治さないと継続して闘うのは不可能だ。