123.貴族
「おぉ、グレンではないか! 久しぶりじゃな!!」
声の方向に視線を向けると、白髪に特徴的な刀傷のある顔、常に戦いに飢えている様な目に年齢にそぐわぬ筋骨隆々とした姿があった。
「お爺様!」
現役冒険者 祖父レオーハト。自分を拾ってくれた恩人。
「良い面構えになったのぅ!!」
「どうしてここにお爺様が?」
「まぁ、話すと長くなるがな!」
祖父の話では以前、放浪してたエウローリア公爵をそれと知らずに戦いを挑み、18歳の公爵に完膚なきまで叩きのめされた事があるそうだ。
余りの強さに感服し、事が起きればはせ参じると誓ったそうだ。弱者に興味がなく力こそ全ての痔に祖父らしい理由だ。
「お爺ちゃん一体何を・・・・・・」
「若気の至りって奴じゃな!」
さすがに妹のシーナも疲れた顔で祖父を見ているが、兄達はいつものことなのか呆れ顔で済ませている。70歳を超える自由人であり危険人物、それが現役冒険者であるレオハートその人。
「おぉ! そちらはグレンの婚約者相手じゃな!! ワシはレオハートじゃ!!!」
サーシャに気付き、近付いて声をかける。
「えっえぇ、 サーシャと申します。 以後宜しくお願いしますわ」
突然の驚きながらもサーシャは丁寧に挨拶をすると、祖父レオハートは上機嫌に
「孫を頼むわ!」
祖父レオハートはそう言うと両親の方に向って歩いていく。
「代わった祖父ね」
「あれでも冒険者としては超一流なんだ。 小さい頃は良く鍛えてくれた」
祖父が居なければ今の自分は居なかった。これも運命の一つなのだろうけれど、不思議な感じだ。
「きたぞ! セグレスト公爵の軍だ!」
誰かの声に陣の外側に移動し状況を確認する。
平原の先には視界を覆うように多くの兵が並んでいる。
「数万は居そうだ」
「これは厄介だな」
「何を言っとるか。 切り放題ではないか」
エウローリア公爵に付き従うのは数千、十倍以上の差がある。
「おい、魔物が食べているのは、……人間じゃないか?」
名も知れぬ冒険者が指差した方向には、魔物の集団が人間の手足と思われるものを貪り食っている。残っている布切れから領民だと思われる。
「……くそ。 ここまでセグレスト公爵は領民を試みないとは」
「エウローリア公爵が戦いを決意するはずだ」
領民を試みず、魔物を従える為に食料にさえする。強さが大事な王族とはいえ、領民を試みないのでは意味がない。
セグレスト公爵の兵の質もあまり良くないらしく、侵攻してきた領地からは避難民がかなり出ている。女は犯し食料や金品を奪っていくと、避難民は語っている。
「全員武器を取れ! 声をあげろぉ!!」
「畏れるな! 我らが領民を守るのだ!!」
「報酬は高いぞ!」
自らを鼓舞し、戦意を高めていく。
数が劣っていても、誰も元より志が高く自主的に集まった貴族や冒険者、ここにいる賞金稼ぎさえも、どちらに付く方が今後にとって利があるかを理解している。
「リーゼルハルト家に仕えし白鳳の騎士達よ! エウローリア様の為に、そして国家の為に戦う時!!」
「民の為に!」
義姉でありクォーターエルであるロータス・シリエジオ・イールス・ヒューレ・デュークウーマン・リーゼハルト公爵が団長を務める白鳳騎士団、そして副長の兄アークスも同じように鼓舞し、白鳳騎士団に仕える騎士の名を冠する多数の魔物達が雄叫びを上げる。
ドラコケンタウロス、深遠の魔道士、首無し騎士、アラクネ、レントウルフ、レイヴンなど、全てエウローリア様やリーゼルハルト様の人柄に惹かれ、本能と欲を捨て去った者達だが、その力は衰えては居ない。
「パルム家に使える騎士達よ! 我と共に国家の為に戦うのだ!!」
フルプレートメイルを纏い、重装備の騎士達がパルム公爵の声に従い、ウォーハンマーを掲げる。
エウローリア公爵に仕えるのはリーゼルハルト家及びパルム家、どちらも国家創設当時から延々と続く名家であり、代々エウローリア様の一族に付き従ってきていた。
王家の血を継がなくとも誇り高く、国家の為、民の為に生きる四大貴族。それがリーゼハルト家でありパルム家であった。