120.呪殺
長兄アークス宛てに書状を出し、数日後返信があった。
そこにはパイロヒュドラが生息している場所は、西方を統べる セグレンス公爵家 の領地だという事が書かれている。
これはまさかとは思うが、意図して王都近くの森にパイロヒュドラを放ったのか。
今はともかく、王都近くのダンジョンに潜り、城崩し 鈴風の打ち直しを依頼しなくてはならない。パイロヒュドラとの戦いで刀身に深い傷が付いてしまっている。居なくなってなければ良いのだが。
一人ダンジョンの下層に潜り、記憶を頼りに幾つかの角部屋に入ると、目的の部屋を見つけた。
少し荒れているが、まだ住んでいる気配がある。
「なんだまたお前か」
「人間が何か用かよ」
「久しぶり?」
振り返るとそこには三面女のオーガが立っていた。
以前よりもいくらか怪我のあとが増えているようだが、いまだ健在のようだ。
「打ち直して欲しい。 今のままでは力が足りていないんだ」
城崩し 鈴風 を取り出し差し出す。
パイロヒュドラに噛まれたために酷い牙の傷が付いており、手入れをしていても無茶な使い方で刀身にも幾らかゆがみも出ている。
「随分痛めつけた」
「ボロボロじゃねぇか」
「使い込んだ?」
受け取ったあと6本の腕で刃の状態や刀身を調べている。
「これ以上は命を削るがいいのか?」
「死にたがりの糞野郎だな!」
「覚悟はある?」
命か。どちらにせよこの世界に長居をしている必要はなく、削れたところで問題はない。
「命が削れても構わない。 今よりも力を引き出せるようにお願いします」
「あんた馬鹿だね」
「キャハハハ!」
「馬鹿な人間」
どの顔も笑みを浮かべており、心底楽しそうだ。剣を置くと女オーガは道具や炉の準備を進めていく。
「礼は今回も酒樽と食べ物を」
「「「いらない」」」
どういうことなのか、疑問に思っていると剣を鍛え始める。
「私の仕事もこれでおしまい」
「もう長くねぇんだよ!」
「後数日の命」
何もいう事が出来ず、剣が打ち終わるまで半日程度作業を見続けた。
全てが終わり、炉の火を落とすと女オーガは大きく息を吐き、椅子に座ると剣をこちらに差し出した。
「受け取りな」
「命知らず」
「気を付けて」
受け取った片刃の大剣は、以前よりも刀身に黒い波紋が現れ、傷痛みは全てきれいに直されている。
握ってみてもバランスはさらに良くなり、これなら思う存分振るえそうだ。
「後一つ」
「あたいを斬れ!」
「覚悟は出来てる」
「……なぜ」
さすがに困惑していると、女オーガは上に来ていた服を脱いだ。
体中に酷い傷痕がある。剣や槍の傷が多く、どうやら冒険者とやりあったようだ。深い傷もあり、布で抑えているが癒えるまで耐えられるようなものではない。
「最後の呪いは私だ」
「これで武器は完成する」
「私の魔石ごと貫け」
最後の意を汲むため、剣を構える。
意識を集中させ、魔力の流れの中心点に向け剣を突き刺す。
「呪殺剣」
「鬼喰らい」
「天津風」
最後の言葉を残し、生きたまま魔石を貫かれた為そのまま砂のように消えていく。
剣を背負いなおし、頭をその場に下げる。
「感謝いたします。 そしてその魂に望むべき再来があらんことを」