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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
1章 王都での戦い
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11.鬼人族

 日が傾き始めた頃、あまり行きたくはなかった場所に到着した。多くの奴隷が牢獄の中に繋がれ、虚ろな目で座り込んでいる奴隷市場。やはりここはイライラする。

  男にしろ女にしろ、人は道具として扱うべきものではない。だが、世界の奴隷制度を壊すのは、一朝一夕や一人では不可能な事だ。それこそ世界の神々の使徒達が、長い間かけて教育と矯正を施していくしかない。

 前々世でも奴隷制度はなくなっても、奴隷のような仕組みは残されていた記憶がある。世は発展しても、大して変わっていないという事だろう。だが奴隷制度はともかく、どうしようもない人間がいるのも間違いないこと、その人間の有効活用方法とも言える故に難しいところだ。

 国の保護施設に移送される予定の者達が、集められているところまで行くと、目当ての二人を見つける事ができた。額から伸びる二本角、そして姉は片方の角が中頃から折れていた。

 二人から聞いている特長と一致している。檻に掲げられている価格は、用意していた予算でも充分足りる。策を弄して強奪する必要はなさそうだ。


「その二人を購入したいのだが」


「損壊奴隷をですか?」


「購入するのに理由は必要ない。 そうでしょう?」


 金の入った袋を出すと、すぐに値段交渉の話にはいった。商人はやはり商人、ルールに則った取引さえ出来れば、相手が何者であろうと関係は無い。奴隷の取り扱いの説明と税金、そして主従契約を確認し終わりとなる。


「では、二人は貰い受ける」


 檻から出された二人を連れ、王都や学園内を通る間、警備兵や学生にじろじろとみられたが、別に恥じる事ではないと気にせず二人を寮に案内する。部屋に通された二人は室内を見て驚いた後、ジノを見て怯えているが確かに警戒態勢のままでは仕方ないだろう。

 だがジノは仲間で部下ではない。止めろと命令する事は不可能だ。テーブルの上で待っていた精霊の二人をみてある程度落ち着いたようだ。どうやら治療する話もしてくれているようだが、治療できるかどうかははっきり言って不明だ。

 

「積もる話は好きにしてくれていいが、先に治療を施したい」


 空いていた椅子に座らせ、状態を調べていく。弟の方は手や足の裂傷も酷い物だが、幸い姉よりは程度は軽いだろう。問題は足の腱を損傷しているところだろうか。

 姉は右腕を肘から先の部分で喪失、長い前髪で隠しているが、顔の半分は毒液系だろう爛れ傷、残っている左手も、腱を損傷してしまっているようだ。ただ姉弟共に喉が大分潰れてしまい、意思疎通も若干困難なほど。

 私は壊したり殺すのは得意だが、治癒的なものはどうしても苦手だ。水術で重症では無い限りどうにかできるが、重傷となると水術で治す事はできない。

 神聖術を使うしかないが、私の属性は魔逆の暗黒側、反動覚悟で治療するしか無いだろう。何か他に手段があったはずだが思い出す事はできない。


「まずは顔を治療する」


 爛れた顔に直接触れると、やはり嫌な感じを受けるのか、身が硬直しているのがわかる。だが直接触れずに治せるほど器用ではない。


「動かないでくれ。 神聖術は得意ではないんだ」


 力が優れていようが本来は暗黒側、神聖術は精神を激しく乱す反術でしかない。神聖治癒術によって顔の傷が消え始めたときには視界は暗転し、もはや制御をするだけで、状態を視認することはできない。


「あぁ・・・・・・、そう、か」


 意識が薄れていく中、固有能力を思い出した。複数の魔剣を所持し、その中には治療に特化した魔剣がある事を。なんとか薄れていく意識を引きとめ、視界が再び開けてきたときには二人は心配そうにこちらを見ていた。


「顔は治った。 後は残りの治療だが、信頼はしてくれるか?」


 顔のただれは完全に治っている。そのことからどうやら二人は信頼してくれたようだ。僅かに意識を傾け、前世で生成した無数の魔剣の存在を確認、どうやら転生した今も無事保有できているようだ。これを失っていたら力の9割以上なくした事になっていただろう。


「はっきり言っておく。 眼球が残っているから失明した目も元に戻せるが、体に無数にある古傷は消せない。 そして欠損した右腕を元に戻す事はできない」


 強力な治癒魔法を行使できるといっても、時間が経った傷は治せないし失ったものは戻せない。最高位の神聖術や神術なら可能だろうが、今現在の実力では不可能。


「だが、靭帯と筋は治せる。それ故に治ったら二人と戦士契約を行いたい。 奴隷ではなく 鬼人族の戦士 としてだ」


 二人は驚いた表情でお互いを見合っている。本来は戦士としてはすでに死んでいる身、それを態々治して戦士として契約するなど奇特な考え方だ。


「事情があるし、精霊の二人は」


「エル!」


「リーアナです」


「エルとリーアナが君達二人は良い戦士だと言っている。 最大限治療する代わりとして完全守秘が出来る仲間として契約したい」


記憶を思い出し力を取り戻し続ければ、失った腕も戻せるかもしれないが、どちらにせよ今現在の能力では無理に違いは無い。二人はエルとリーアナを通して、考える時間が欲しいと伝えられた。


「好きに考えてくれ」


 二人が部屋の隅でエルとリーアナと共に考えている間、調合室兼調理場で夕飯の準備を始める。寝床から起き上がったジノも夕食を手伝うつもりのようだ。


「よし、焼肉だな」


「骨ナシ焼肉ダ」


「塩かタレか」


「塩」


「では、作ろうか。 野菜は、たっぷりのスープで」


 適当に刻んだ野菜を大なべに次々と投入し、出来る限り調味料を使わずに味を調える。網の上に置かれた肉の焼き加減はジノ任せだ。主に食うのだから当然ではあるが、拘りもあるジノが焼いた方が一番いい。

 自らの火の魔力で、じっくり炎を調整しながら焼き上げ、横で他の料理を作っているこちらまで良い匂いが漂ってくる。器用に魔法で壷の中から少量の塩を浮かべ、肉に振りかけていく。食への拘りは凄い。

 15分程して焼き上がった肉をジノ用の皿に取り分け、氷魔法で冷やした野菜スープを並々と丼に入れて部屋に持っていく。ジノは肉の皿だけは器用に魔法で浮かび上がらせ持って行くのだから、いずれ丼運びもできるだろう。

 ジノの丼を運び終わったあと、二人の鬼人の分と自らの分をテーブルに運ぶ


「大したものじゃないが、二人も食べてから考えてくれ。 エルとリーアナもどうだ?」


 二人は控えめに椅子に座り、食べるかどうか悩んでいるようだが、エルは構わず肉を掴むとほおばり出した。エルを見た二人も少しずつ食べ始め、数分もすれば遠慮がなくなり凄い勢いで皿の上の肉が消えていく。考えてみれば損壊奴隷は生活は保障されるが、生活全般は最低限のモノになる。

 実力のある冒険者だったのなら短い奴隷生活でも辛かったのだろう。


「好きに食ってくれ。多めに焼いたから余裕はあるしな」


 エルは大き目の肉を一切れ食べ終わったようだが、体の体積の半分近くを、腹に収めているはずなのに見た目に変化が無い。一方でリーアナはどこから取り出したのか、小さなナイフとフォークを使って肉を切り分け、スープも小さな器に取り分け行儀良く食べている。


「あと甘い物が食べたい!」


「エル、そういう我が侭は止めた方がいいよ」


「特に用意して無いんだが、ちょっとまってくれ」


 調理場に戻ると、小さくちぎったパンに砂糖をたっぷり入れ、牛乳に浸したものを器に載せて持ってくる。言葉を思い出した事で元居た世界の事をいろいろ思い出し、簡単な料理のこともいくらか思い出す事が出来た。

 問題は私の技術的にも、世界の食材的にも作れるかどうかは別だし、今回も果実もあれば良かったのだが生憎買ってきていない。


「エルの我侭を聞いていただいてありがとうございます」


 丁寧に頭を下げる。どうやらリーアナの方は礼儀正しいようだ。作法も見たところ私より良いかもしれない。二人は食事を終えた後、満足げにジノの所まで移動するとその身に寄りかかり眠り始める。ジノが気にしていない様子からして、敵意や悪意は全く無いのだろう。

 食事が終わったあと二人には、客間がないため空室に毛皮を置いて寝た貰った。翌朝、エルとリーアナから契約するという意思を伝えられ、二人をテーブルに案内すると、治療を行う前に最終確認を行う。


「では、本格的に治すが、今後契約に基づき守秘はしてもらう」

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