119.精霊
「お菓子を作るのですか?」
「普段世話になっている精霊や妖精にお礼をするんだよ」
作業室に入り、小麦粉やバターに加えて貴重な砂糖を使い、吸う品のお菓子を作っていく。
「レシピは後で教える。 イノも作り方は覚えておいた方がいい」
「はい。 わかりました」
イノも手伝い夕食までにはそれなりの量を作り上げる事ができた。
夕食を済ませ、夜遅く、20mほどの魔方陣を描き、中心に焼き上がったお菓子とお酒を並べる。
「精霊などに捧げるもので、魔石やお酒も喜んでくれる。 これも覚えておいた方がいいこと」
精霊たちの宴で食事を楽しみ舞い踊り、イノはその様子を地面に座って眺めている。神秘的にも見える光景に、初めて見るイノの子供らしい表情をしている。やはり調度品奴隷として小さい頃から厳しく教育を受けていたとしても、やはりまだ12歳、こういった面も残されていたのだろう。
出来れば貴族院に言ったとしても、子供の一面は失って欲しくはない。
少し離れた場所に、丁寧に描いた小さな魔方陣と祭壇を作り、パイロヒュドラから手に入れた魔石を2個捧げる。
「氷の精霊クリュスタロッス、常々なる助力に感謝し、今ここに魔力と魔石を捧げん」
光が祭壇を覆うと魔石が消えていく。氷の精霊女王クリュスタロッスに奉納され、代わりとして小さな氷の結晶が降り注いでくる。これで水氷に纏わる属性に関する精霊と関係が増し、さらに力を発揮する事が出来る。
奉納も終わり、イノと共に魔方陣の外で見ていると、小さな精霊 それも氷と闇の精霊がイノに近付いていく。どうやら適正があるようだ。
「あの……、これはどうすれば」
「契約だよ。 右手を出して少しずつ魔力を流すんだ」
イノはいわれたとおり右手をだすと、氷と闇の精霊は右手に触れその魔力を吸い取り、小さな紋章が浮き上がるとイノの手の中に消えていく。
「これが適正あるものの契約か。 初めて見たが綺麗なものだな」
イノは目を瞬きしながら手をひっくり返したりして眺めている。
「グレン様は見たことがなかったのですか?」
「私は一切適性がない。 奉納を繰り返す事で精霊達から教わった。 それでも繰り返し奉納をしていれば、精霊達は充分に力を貸してくれる。 適正があっても奉納と感謝を忘れないように」
「うん。 じゃなかった はい。 わかりました」
「言葉遣いは気にするな。 今は貴族としてではなく、師弟のようなものだ」
イノの頭に触れ、そのまま撫でる。
義理の両親にされた事は無いが、長兄アークスや育ての教育係にはしてもらった。優しいと言うのは良くわからないが、それでもイノは妹のシーナに近いようなものだ。余り構うつもりは無いが。
そのまま日付が変わるまで、イノと共に精霊の宴を眺め続けた。