112.決闘 終息
剣を握りなおし、腰に下げている予備の剣を握ろうとしている戦士フェリペの体を貫き、そのまま地面に押し込むように倒す。
体を貫いた剣から血が流れ出し地面に広がっていく。
代理とはいえこれは決闘、止めが入るか殺すまで勝敗はつかない。躊躇なく頭を踏み潰しこれで勝敗はついた。
「ふぅ……思ったより強かったな」
思ったより苦戦してしまったが、グレンの方はまだ戦っているようだ。
どうやらゼクスの方は倒したようだ。これで伯爵家の顔は立てる事が出来たため、これ以上加減する必要はなくなった。
「《サンダークラック》!!」
相変わらず空をゆっくりと移動しながら、複数の雷球をこちらに撃ち下ろしてくる。地上を走りながら至近距離で撃てばいいものを、距離があり軌道が丸見えの雷球など避けるのは難しくない。
そんなに空から見下ろすように戦うのが得意なら、対空魔法の中でも対ワイバーンようのきつい物を使うとしよう。
「風の精霊 シルフ。 いま魔力を譲渡し、対価として巻き上げる強風を起こしたまえ 《トルネイド》」
「《アイスエッジ:スゥアウザン》」
こちらの魔法に氷の騎士セスティアが魔法を合わせ、無数の氷の刃を取り込み、鋭利な刃を内包する竜巻が魔法剣士を包み込む。
声にならないような絶叫が響き渡り、竜巻が収まると人の残骸が落下してきた。細切れになるまで切り刻まれてしまい、元が人だったのかさえ判別が難しい。
「……けっ、決着です! このたびの決闘はゼノン様及びグレン様の勝利となります!!」
闘技場の支配人が決闘の勝敗を伝え、観客からは拍手が起きる。
闘観覧席に居たゴルノス侯爵子息は不満そうだが、多くの貴族の観客がいる以上認めなくてはならない。
「ゼノン。 私に何を求める!」
「何もだ。 騎士として求める事など無い」
金品でも奴隷でも、必要であれば命でさえ要求する事が出来るのだが、ゼノンは誇りを選んだ。さすが代々王家に仕える騎士の家系、これでゴルノス侯爵子息のメンツは丸つぶれだ。
他の貴族達から話が広がり、長くかかからず長子としての立場と継承権を失うことだろう。
待機室に戻ると鎧を脱いで体の汚れを魔法で落とし、着替えて闘技場の外に出る。
そこにはローニャとサーシャ、そして多くの貴族の子息達が待っていた。
「おかえりなさい ゼノン様」
「ローニャ、この勝利を君に捧げる」
その場に跪くと、用意していたのだろう宝石を捧げている。ローニャは笑顔でそれを受け取り、その手に触れるとゼノンは優しく握ったままゆっくりと立ち上がった。
ゼノンを見ているとが礼節を備えた正騎士と言うものがよく分かる。
「それでは帰りましょうか。 この子達の事も決めないと」
サーシャは一番大きいソードウルフに腰掛けている。ソードウルフが酷くおびえているのは力関係を理解しているせいだろうか、それとも本能的に濃厚な血の香りに気付いているのだろうか。
なんにせよ、我々やジノと共に屋敷で暮らすのなら、上下関係を理解しておいた方が良いのは確かだ。