111.決闘 中盤
大型のゴーレムが地面を叩き付けるたびに噴出す岩石の槍でも、このままでも時間をかければ倒せそうだが、余り戦いを長引かせるのは良くない。何よりもそろそろゼノンが相手を倒してしまいそうだ。
空中に対して優位性を保てる存在を再召喚すべきだろう。
「美しき精霊クリュスタッロス その冷晶なる力を貸し与え給え。 贄として造魔と魔力を捧げ、御身に仕えし氷雪の騎士を、我の敵を汝の敵として御身の部下を遣わせ給え。 《フェンリル・バルキリー・フラウ・セスティア》」
4mを超える巨大なストーンゴーレムを氷柱が覆い尽し、ひび割れ砕け散ると氷でその姿を構成した美しき女騎士が現れる。
頭に触れられると立てなくなるまで魔力と生命力を吸われ、精霊クリュスタロッスへの奉納として光の玉となって空に上がっていった。
「契約は成りました。 汝の敵を我が主の敵として打ち倒さん」
氷の騎士は氷の両手剣を握り締め、大きく上段に振り上げると無数の小さな氷柱の刃が魔法剣士に向け放たれる。
詠唱し普段作り出している氷の両手剣よりも、遥かに高度な力の顕現、まだ奉納している魔力や品々が足りていないのだろう。この決闘が終わったら、使用していない魔石を捧げるとしよう。
ゼノンは槍の間合いよりも内側に入り、フレイムを打ち込んでくる戦士フェリペ相手に苦戦していた。体格もゼノンより大きく、腕力もかなりあるようだ。
「くっ、やりづらい!」
盾を叩き付けるシールドバッシュによって一時的に距離を取るも、重槍の突きは円錐盾によって受け流され、再びフレイルの距離まで詰められてしまう。
「仕方ない」
槍と盾を投げ捨て背中に背負っていた大剣を手に取る。
グレンに負けてから騎士として、剣の技も充分過ぎるほど訓練を積んだ。これでどうにかできないなら、私はこの程度ということだろう。
「うぉぉぉぉ!」
戦士フェリペは雄叫びを上げながらフレイムを振り回すが、相手に当たらないならどうしても振り方が決まってしまう。フレイルの先端が自由に動いて、自分を打たないようにする為に意外と自由度は無い。
大剣のリーチを利用して中段に構え、フレイムを持つ手を狙い打ち払うが、力が弱かったのかガントレットを歪ませる事はなく、一時的に攻撃を控えらせるだけに留まる。
リーチが重槍よりも短く、そして軽くなったことでフレイルに対応しやすくなるが、目的はそれではない。
刃の部分を握り締め、柄のヘリを鈍器のように使うことでフレイルに、そして円盾にとって弱点ともいえる鈍器として使う。
フレイルをハンドガードで巻きつけるように絡めとり、奪い取るとそのまま戦士に向け振り下ろす。
戦士は円盾で受け流そうとするが、槍のように狭い点ではなく面の攻撃は受け流せずを粉々に打ち砕いた。
大剣で切るためではなく、叩き潰す鈍器として使う。鈍い刃で突き殺してよし、重量に任せて叩き潰してよし、鈍い刃を握り締め遠心力を使い、ハンドガードの部分で鋭利な鈍器として使ってよし、とリーチこそ槍に劣るが柔軟性はそれを超える。
グレンのように実力ある剣士が馬鹿正直に大剣を刃の武器として使う方が非常に珍しい。