104.品性
「たかが子爵家の者が、不敬であろう!」
相手は少々良くない噂のあるグランブ侯爵の馬鹿子息と囁かれているゴルノス・グランブ。でっぷりとした体格と口ひげがなんとも嫌な感を受ける。
確か、ゴルノスは幼児愛好の趣味があるので、そういった奴隷を沢山所有していると聞いている。まだ10代前半の男爵の娘を妻にせず、妾にでもするつもりだろうか。
「淑女に対して相応しい声の掛け方も知らない身で、近付かないでくれるかしら」
どうやらあの女の子に強引に声でも掛けようとしたようだ。さて、男爵という立場からしてみれば、妾だろうと侯爵の家に取り入る良い機会でもある。
サーシャが止めている事から、女の子の方は嫌がっているというか恐怖を覚えているようだが。
「なんだと貴様!」
「品のない言葉ね。 それでも侯爵様の子息なのかしら?」
相手がいくら恫喝をしようと、サーシャは実力的にはB級もしくは正騎士相手でも互角以上、力を解放していればAやS級にだって匹敵する。武器を持たない侯爵の子息など、蟻を踏み潰すかのようにたやすく惨殺できてしまう。恐怖など微塵も感じていないだろう。
サーシャは余裕を持って挑発し、離れてみている貴族の子達の方が焦りの表情を浮かべていた。侯爵家の息子相手に大きく出られないというのもあるのだろう。
一方で女の子はもうすでに泣きそうで、止めに入った方が良い。
「何をしている」
ゼノンと二人で間に割り込み、ゴルノス子息の前に立ちはだかると、さらに機嫌を悪くし、睨むようにこちらを見た。
「ふん。 伯爵家の面汚しではないか」
「正騎士にも慣れぬ見習いの分際でほざくな。 なんだその太った体は、騎士の端くれなら鍛えろ」
「貴様! たかが伯爵家の分際で侯爵家の私を侮辱するつもりか!!」
「鍛錬がたりんのを指摘しているだけだ。 それに子息であってお前はグランブ侯爵様ではないだろう」
ゼノンもかなりきつく言っているが、爵位も無く正騎士でもない私は何も言う事はない。実質的な行動に移るなら、話は別だが今のところそこまでではない。ゼノンと共に立ちふさがるだけで充分だろう。
「侯爵家を長男である私はいずれ侯爵となるのだ! すなわち私が侯爵といっても過言ではない!!」
馬鹿にも程がある。オーディン王国は厳しい規律があり、相応しくなければ王もしくは公爵家の名において爵位の没収が行われるか、別家に移管される。
巨大な王国領地内で暴動が起きないのも、王家に対して信頼が厚いのも、王家や公爵家が厳しく他の貴族達を見張っているためだ。以前リーゼハルト公爵から命令され、違法行為を働いている伯爵家を襲撃し、取り潰しになったように極めて厳しい。
長男だろうと、実力や人格が伴わない者など後継者と認めないだろう。
「その振る舞いで侯爵とは笑わせる。 お前のような馬鹿に継がせるようではグランブ侯爵家も終わりだな」
「きさまぁぁぁ、決闘だ! その命かけてもらうぞ!! 取り巻きの貴様もだ!!!」
一括で括られてしまったが、どうやら私も決闘に出なければならないようだ。