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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
1章 王都での戦い
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9.ダンジョンと身を欺こうとする者

 5日後、ダンジョンに潜る為の試験を受ける為申請を出したのだが。


「ディレイ実技教官からすでに承認が出ています」


 どうやら入学の実技試験の相手だった方はそれなりに立場のある人だったようだ。出来ればもう一度手合わせをしたいのだが、入学してから会えていない事を考えると幹部もしくは責任者に当たる人物なのかもしれない。


「では、本日からダンジョンに潜っても良いのですね?」


「ダンジョンに潜る前に書類の提出が必要ですが、本日からも可能です」


 用意された書類に記入を終えると王都を出てダンジョンのある方角に向い始める。まだ明るく街道を使う事から襲われる事もない。


「さて、ジノ。 ダンジョンに着く前に戦いのルールを決めておこうか」


 ジノは相変わらず無口に頷いているが、やはり気心が知れる。なんとなく思考のタイプが近いというべきなのだろうか。


 1.獲物は早い者勝ち

 2.人間の敵はとりあえず黙らせ、そのあと殺すか考える

 3.友好的なら人間だろうと魔物だろうととりあえず話す

 4.勝てない敵は協力する

 5.食事は焼いた肉を可能な限り入れる

 6.汚れたら魔法で綺麗にする

 7.怪我したら治す


 上記を取り決めておく。その場である程度余裕を持った行動を取るには前もってルールが必要であり、非常時への即時対応に関わってくる。相変わらずジノは無言だが納得したのか軽く頷く動作をしてくれるのがありがたい。



 王都から少し離れた場所にあるダンジョンの入り口は多数の衛兵によって守られており、小さな砦の町といった作りとなっている。やはり売買される魔物の素材や武具の修理など入り口周辺が発展するのはどこの世界も同じようだ。ダンジョン入り口で行われている入場登録を済ませ、ジノと共にダンジョンに下る。構造は前世にあった一般的ダンジョンと似た作りで、天井までの高さは5メートルほど、中々広い通路タイプのダンジョンのようだ。

 1階層であるため見かけるのはスライム程度だが、上手く討伐すればコアか粘液部分のどちらかを素材として売れる。スライム自体の素材を目当てにしている専門の冒険者も居るほど素材の需要はある。


「よし、それじゃ10階層まで走るとしようか。素材はこちらで勝手に倉庫に放り込んでおく」


 本来であるならばダンジョンを駆け抜けるなど危険な行為でしかないが、完全に攻略されているため販売されていた魔物の発生表を見る限りではイレギュラーさえ発生しなければ15階層まで敵となりえる魔物は存在しない。ルーンウルフのジノの実力から計れば30層程度まで余裕なのだが、問題は実力を露にし過ぎると身の危険が増えるという事だ。どの世界に置いても一番の敵は魔物ではなく人間。現状では力を隠しながら神託に従って行動を続けるが、後ろ盾や有無を言わさぬ力を得る前に実力を露にすれば有象無象が寄って来て面倒事が増える。はっきり言ってしまえば利用を企む権力者が居ると身動きが取りにくくなってしまう。

 そういえばジノ自体も何かしら事情があるのかルーンウルフだと気付かれないよう魔力や力を人前では極力抑えているように見える。ギルドや学園ではCクラスのソードウルフに思われているようだが。


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 ソードウルフ。最大体長4メートルほどになる魔獣。知性もそれなりに高く刃物も効きにくいためにCクラス認定されている。従魔として冒険者の下にいるのも多い。

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 10層に到達、主の魔物はリザード種だが大して強くは無い。しかし鱗は丈夫で多岐に使用され、肉も売れる上に体内で濃縮生成される魔石は質も良い。ジノと共に休憩を取らず狩り続け片っ端から亜空間倉庫に放り込んでおく。金にはなるがもっとも重要な記憶を呼び覚ます作業にはこの程度では不足のようだ。

 2時間ほど狩り続けた時、ダンジョンに悲鳴が響き渡った。誰かが同じ10階層で死んだのだろう。


「ジノ、いくぞ。冒険者の残骸回収を行う」


 冒険者の死体を回収する義務は無いが、ギルドカードさえ届ければ後はギルド側が親族に死亡を伝えてくれる。冒険者になる者など家を追放されたり、家なしの孤児だったりする為余り意味は無いのだが、少なからず消息を気にする者はいるということだ。

 到着した場所では叩き潰された人間の残骸が残されていた。幸い殺すだけで喰うタイプではなかったようだが、もはや男女の区別さえつかないが一つのモノさえ回収すればよい。冒険者が死亡した時の為に個別判定する為の道具、それがギルドカード。特殊な合金と魔法で作られ溶かす事砕く事はほぼ不可能な代物だ。


「兵どもの夢の跡。笑えはしないか」


 ジノが通路の奥のほうを向くと静かに暗闇の方に移動していく。やはり戦闘に慣れているだけあって気配を殺しながら唸り声一つ上げていない。だが、やはりこういう時の為に堂々と立ち並んでくれる友が欲しい所だ。

 10秒程経った所で通路の置くから人影が現れ、無言で剣を抜くと嫌な笑みを浮かべている。


「ギルドカードと武具は私が回収したが何か用か?」


 背部に手を回してはいるが、恐らく短剣か何かを隠しているのだろう。死んだ冒険者から死を奪う者達。武具の再利用は大事で奪うのは別に罪ではない。しかしギルドカードを奪うのも、意図して死ぬような場所に導くのは罪だ。

 私がテラス様によって送り込まれた理由の一つか。こう言った事を自らの使徒で正せず、外部からただ呼び込んだ転生者で片付けようとした神々では対処しきれないのだろう。結局自らの手駒を教育するのも上手く扱うのも使う神の<力>なのだから。



 誤解無いようにはっきりさせておくが、テラス様は私を最初の異世界に転生させた神ではなく、むしろ反対し監視と試練を与え続けた神。そして自ら格を高める事を怠らず、他の神々を従えた事で新たな最上位神として世界に安然とゆるやかな成長を施した素晴らしいお方だ。

 今思えば、本当に厳しいお方だ。自他問わず厳しく何度も苦難を与えられくじけかけた事か。使徒として認められた時は命を奪われるのではないかと心底畏れたものだ。

 ・・・頭痛がする。余計な事を考えると前世と同様に神罰が与えられるのだろう。それとも楔として転生するタイミングで刻み込まれたのか。やはりテラス様は恐ろしいお方だが、それ故に信頼できる。使徒が道を間違えれば気付くように神罰を与えてでも正してくれるなら、全力で信じて行動し続ければ良いのだから。



 何かをする暇もなく、暗闇に潜んでいたジノの体当たりを食らった死体漁りは壁に激突し気絶してしまっている。


「さて、こいつをどうするかな」


 ギルドに突き出すには10階層からでは遠過ぎる。転移魔法を使おうにもはっきりいって思い出せていない。使えれば便利ではあるのだが、概要は思い出せても肝心な制御部分を思い出せていない。


「殺シテシマエバイイダロウ」


「それが出来れば楽なのだが、仕方が無い。5層にある兵士の巡回路まで引き摺っていく」


 完全に支配化に置かれているダンジョン故に巡回兵士もいるのが幸いと言ったところか。他のダンジョンであれば無法さえ確認する術が無い。前世でもギルドの管轄下に無いダンジョンではそれこそ犯罪の温床だった。

 その為転生する数年前には私以外の使徒や神兵によって徹底的に破壊し尽くしたと伝え聞いている。この世界の神が何を判断しどうするのかは分からないが、願わくば世界に良き導きをしてほしいものだ。


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