少女ニルファル(2)
「え、聖人さまの魔法ですか?」
「ささ。お茶をどうぞ!」
「あ、ありがとうございます。クムシュさん」
「いろんな魔術がありますからね。あ、砂糖は結構ですよ。クリチュさん」
「魔法のことなら何でもわかるんだろ。さっき言ってたじゃないか~」
「何でもなんて言ってないです。基本的な理論だけです。応用まではとてもとても……」
「だったらその基本ってやつをさ。素人の俺にちょこっとだけ教えてくれねえですかい?」
「クムシュさん。この手のことは秘中の秘なんです。そう簡単に教えられません」
「うっ……痛つつつつ…」
「ああすいません。まだ痛みますか、そうですよね。ご迷惑もお掛けしたことですのでちょっぴりご教授しましょう」
「やった!」
「やっぱり持つべきは友だ」
「そんなにはしゃぎすぎないでください。そうですね。……いいですか。この世にあるものは何らかの性質を持って存在しているんです。それは生まれたときの星であったりご両親の影響だったりしてです。ところが山に登る修行者たちはその性質から離れて自由になろうとします。山は対立を解消する場なんです。それは無に近づくということです」
「無に近づいたらどうして自由になるんだい?」
「無は何もないことではなく、あらゆる可能性を秘めているのです。つまり山の高エネルギー状態は特定の力を解消させてしまうんです。あらゆる力のバランスがとれている状態ってことですね。だから自由。自然状態で魔術の発生しないのと同じです。だから魔術を用いるには心で干渉させて自然状態のバランスを崩してやればいいのです。心が自然へ干渉して質量を得る。そんな理屈です」
「なんだか分かったような、分からんような」
「いきなりでは難しいかもしれません」
「山から下りたらどうなるんだ?」
「人間の世界に入るということです。ある秩序の下に生きて、性質を持って、目的や運命が生じることになります」
「それで、さっきのカミナリ魔法はどう解釈するんだ」
「え~と、それは…。種を明かしますと、魔術には通常〈攻撃魔法〉〈直接攻撃〉なるものはないのです、火以外は。魔術は呪術を基礎とした間接的なもの。先ほどのものも、火を媒介にあなた方の心に直接〈雷〉と〈雷神〉と〈裁き〉のイメージを叩きこんだのです。だからこの部屋の人以外雷鳴を聞いた人はいません」
「そうか~。俺たちはニルファルちゃんによってコンプレックスを植え付けられたんだな~」
「心にダメージを受けたという点ではその通りです」
「だったらやっぱり幻覚の類じゃないか」
「実が無いと? ん~そう受け取りますか。これだから素人さんは。私は幻覚じゃないと思いますけどね。でも本日の講義はこれでおしまいです」
おそらく彼女が何者であるかに意味は無いだろう。しかし何者になるかは期待できる。そう思うと却って、その生い立ちの運に任せた様が魅力的なのだ。少女は将に天が生み育てた天才だ。
さしづめこの歩く僧院はバティルにとって光明となることだろう。
また単に面白い娘だとも思った。
そう。バティルの心は少しにぎやかになった。