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転性夜魔と疾風の英雄  作者: マツキ ヒビノ
2章:新人冒険者編
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33 スピード昇格(仮)

――冒険者ギルドでは、所属する冒険者たちを厳正な審査によって10段階の位階(ランク)に振り分けている。


第1位:覇鋼級(オリハルコン)

第2位:聖銀級(ミスリル)

第3位:白金級(プラチニウム)

4位:金等級(ゴールド)

5位:銀等級(シルバー)

6位:鉄等級(アイロン)

7位:銅等級(カッパー)

8位:青銅級(ブロンズ)

9位:黒曜級(オブシディア)

そして10位:白磁級(プレーン)


上にいけばいくほど昇格に掛かる貢献度や審査の厳しさは加速度的に増していくのだが、そもそもとして最初の白磁級から昇格するのだって容易ではない。


黒曜級に上がってようやく一端の冒険者と認められるというのが通説だが、そこまで行く前に命を落とす白磁級冒険者は後を絶たないのだ。


ある者は勇者の英雄譚に憧れて、またある者は自分も英雄になれるのだと野心を持って……

そうして冒険者になった者ほど、自分の身の丈というものを履き違えるものだ。


功名を焦って勝ち目のない戦いに挑んで――或いは、ダンジョンでほんの一歩の引き際を誤って。

冒険者というものはあっさりと命を落とすもの。




だからこそ、ギルド職員は持ち込まれた依頼内容を穴のあくほど確認して、適正なランクを付けて冒険者へ斡旋する。

少しでも彼らが安全に、五体満足で帰って来られるように……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ギルド職員たちがそうして冒険者たちの安全を守るために苦心しているところ、ランクに見合わない行為……所謂「スタンドプレー」は特に嫌われる傾向にある。



ここはギルドの応接室。

「人目があるから」と連れてこられたわけだが、室内には朝来たときには無かった重苦しい空気が満ちていた。


部屋に入ってから…いや、正確には裏庭で顔を合わせたときから。

エミリーは柔和に微笑みながらも尋常ではない威圧感(プレッシャー)をユーリに浴びせて来ている。



一言も喋らないのが逆に怖い。これではまるで蛇に睨まれた蛙だ。こちらとしても迂闊な言葉を発することも出来ず、その重苦しい沈黙は受付嬢のミレッダが各人の前にお茶を運び終えるまで続いた。


「……ふう。さて、十分に反省してくれたところで、本題に入ろうかしら。」


運ばれたお茶を一口啜り、長い息を吐いてから、エミリーはゆったりと話し始めた。


ユーリたちの肩からどっと力が抜ける。

エミリーから放たれていた威圧がようやく解かれたのだ。


(伊達に冒険者ギルドのマスターはやってないってことか。)


勿論、実際に剣を抜いて戦えば腕力ではライナどころかユーリですら楽々と彼女を取り押さえることが出来るだろう。

何せエミリーは冒険者上がりなどではなくガチガチの事務方の出身だ。


しかして、先程感じた得体の知れないプレッシャー。

長年に渡って、粗野で野蛮な荒くれ者も多い冒険者たちの相手を真っ向から努めてきた者だからこそ、戦う力を持たぬ彼女でもあそこまでの迫力を出せるのだろう。


そこまでを感じ取った様子のユーリたちを満足気に眺め、エミリーは連々と本題を述べる。



「まずはギルドマスターとして、貴方達に感謝をしなくちゃいけないわね。あのコカトリスを放置していれば、間違いなく周辺の冒険者たちに大きな被害が出ていたわ。」


「いえ、僕たちもたまたま居合わせただけで。」

「謙遜はいいわよ。ユーリちゃんは兎に角、ライナ君の実力はもう折り紙付きなんだから。何なら、すぐにでも昇格ランクアップできる程度には。」

「前にも言いましたけど。それは……」


「わかっているわ。貴方がいつまでも青銅級から昇格しない理由……ユーリちゃんとパーティを組むためよね?でも、ずっとこのままというわけにはいかないことぐらい、貴方もわかってるんじゃない?」


あまり早く昇格しすぎるのも他の冒険者とのやっかみを生むが、実力以下のランクでいつまでも燻っていられるのも同じくらい心証が悪い。

なにせ、同ランクの冒険者からしてみればそいつは同じ仕事を取り合うライバルなのだし、分不相応に楽な依頼ばかり受けて楽に生きているというような噂だって立てられかねないのだ。


まあ、だからライナは傭兵として上位ランクの冒険者パーティとばかり仕事をしていたのだが。


そんな具合で、ライナが窮屈な思いをして過ごしているのは動かしがたい事実で、それが自分の所為だというのも事実である。

ユーリとしては申し訳ないやら悔しいやらで、非常にやきもきする状況なわけだ。


「ユーリちゃんも、ミレッダから報告があったわよ。いきなり金等級の依頼を請けようとしたんですってね?今回は笑って済ませられたけど、これからもこんなことを繰り返すなら他の冒険者とのトラブルにもなりかねないわ。」

「う……ごめんなさい。」


こればかりは全面的にユーリが悪いので素直に謝らざるを得ない。



「……まあ、あなたたち二人の事情が複雑なことぐらい私もよくわかってるつもりよ。何せゴルドーさんの愛弟子と娘さんですもの。」


眉間を抑えて、エミリーはテーブルの下から二枚の書類を取り出した。



「だから、決めました。あなたたちには、銀等級シルバーへの昇格試験トライアウトを受けてもらいます。偶然ではあるけど、受験の条件は満たしてることだし、ね。」


「「トライ……アウト?」」


聞いたことのない単語に、二人揃って目を丸くする。

しかもいきなり銀等級とは、いくらなんでも飛び級しすぎではないのか?


「前例が無いわけじゃないの。実際あの有名な《勇者ブレイバー》アリスフィール氏だって、この試験を経て飛び級で昇格したわけだし。」


広く情報を公開すると、スピード昇格を狙って無茶をする者が増えるために、一般の冒険者には情報統制を敷いているらしい。

それでも、アリス以外にも前例はそこそこあるそうだ。


「今、ギルドでは冒険者……特に、上位ランクに位置する人材が不足傾向にあります。これを受ける条件は、そのランクに見合った魔物の討伐、もしくは危険地帯にのみ自生する希少な植物の採取など……色々あるけど要するに、高ランク向けの依頼を達成しちゃった冒険者への特例措置よ。試験を課してその実力が本物なのか、或いは偶然だったのかを見極める――そして、実力を証明できれば目出度く昇格ってわけ。」



実力のある者を悪戯に低ランクで遊ばせておく余裕はない――。


エミリーがふと、窓から外を見やる。

そこから見える裏庭の広場では、ギルドの職員たちが5人がかりでコカトリスの死体を解体している。

保存状態が良いため、かなり上質な素材が採れそうだと、彼らはかなり張り切っていた。


……アレを倒したことで、もしかして条件を満たしたことになったのだろうか?



「――やります。」

「ユーリ……?」


ライナが期待と不安のこもった眼差しでこちらを見つめてくる。

もちろん、コカトリスと戦ったことには、そんな下心があったわけじゃない。

けどこれは、千載一遇のチャンスなのではないか?そう考えたユーリは、思わず肯定の言葉を口にしていた。


「その試験、受けさせてください!」


その瞳に、一時の興奮だけではない、本物の意志を見出したエミリーは、微笑んで頷いた。


「わかったわ。ライナ君も、それでいいかしら?」



「――ええ、わかりました。僕も受けます。是非受けさせてください。」


戸惑い半分、決意半分といった様子だが、ライナもしっかりと首を縦に振った。



「よし!そうと決まれば、二人ともこの書類にサインして頂戴。中央ギルドへの紹介状、これで昇格試験トライアウトの申し込みが出来るわ。」



「中央ギルド……!?」




「ええ、辺境のギルドから勝手に昇格させるわけにはいかないの。試験は一括して中央ギルド――世界迷宮王都ルート・イグドの冒険者ギルドで行われるわ。」

大変遅くなりました。長い間放置してしまったのにはまあ、色々理由はありますが……これから少しずつでも更新していければと思います。

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