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転性夜魔と疾風の英雄  作者: マツキ ヒビノ
2章:新人冒険者編
34/37

32 毒持つ致死の怪鳥

 コカトリス――。

 体長2~3m程もある大きなにわとりのような身体に、これまた巨大な蛇の尻尾を持った魔物。

 気性は荒く、その巨体から繰り出される鋭い爪と嘴による攻撃は、鎧をまとった冒険者でも受けるのは危険だ。


 そして何よりもこの魔物を危険たらしめているのが、コカトリスの吐く毒吐息ポイズンブレスだ。

 石化吐息とも呼ばれるそれには強力な()()()があり、無防備に吸い込めばたちまち身体が麻痺して指一本動かせなくなる。

 まるで石になったような被害者の様子から、そのように呼ばれるようになったらしい。


 兎に角、その毒吐息の凶悪さから、専用に毒対策をできないとまともに戦うことすらできない為に、討伐依頼は通常なら金等級(ゴールド)、毒対策が万全と判断されたときに限って銀等級(シルバー)でも請け負うことができる。

 勿論のこと、普通はこのような街の近郊に現れるはずのない強力な魔物である。


「ここに来るまでにやたらと魔物に襲われたのは、コイツが原因だったのか。だとしても、なんだってこんな所に……ん?」

 洞窟の薄暗さに目が慣れてきて、ライナとユーリは地面につけられた跡が足跡だけではないことに気付いた。

「血だ。怪我してるよ!」

「そっか、どこか別の場所で戦って、ここまで逃げてきんだ!あれ?そういえば……」


 ライナの記憶にある夜のことが引っ掛かる。

 数日前、別の街でドノバンたちのパーティに合流して依頼を終えたあと、酒場で打ち上げをしていたときのことだ。

 ドノバンたちが一足先に酔いつぶれてしまって手持ち無沙汰になったライナは、何の気なしに隣のテーブルの会話を聞いていた。


「彼らは銀等級らしいんだけど、仕事の失敗について皆で愚痴ってたんだ。『コカトリスの討伐に失敗した。毒対策の装備も壊されたうえに違約金まで払う羽目になって散々だ。』ってね。装備のおかげで死者は出なかったらしいんだけどね。」

「じゃあ、その時に逃がしたコカトリスが?」

「此処まで逃げてきた。手負いなのも多分それが理由だと思う。」

 今この場で起こっている事態について、ライナはそう推理した。


「どうする、ユーリ?一旦戻ってギルドに報告するのも一つの手だけど。」


 ライナの提案は、まともな冒険者ならば至極真っ当な判断だ。

 ただでさえ銀等級以上でなければ挑むことさえ許されないレベルの魔物なのだ。

 青銅級や今日冒険者になったばかりの白磁級では、対峙することすら危険である。


「でも、ライナの話だともう数日前のことなんだよね?その間ずっと休んでいたんだとしたら……」

「傷が癒えるのも、時間の問題だと思う。というか、もう癒えてるかもしれないね。」

 だとすれば、とユーリは考える。

「いま、この森には私たち以外にも冒険者が来てる筈。それも私たちと同じ白磁や青銅級ぐらいの人たちが。私たちが一旦ギルドに戻って、報告して、金や銀等級の冒険者が討伐に向かうまで……時間がかかりすぎると思う。」

「ユーリ。」


 普通の新人冒険者ならば、ここは逃げる以外の選択肢しかないだろう。

 勇気と蛮勇を穿き違える愚か者に待つのは悲惨な死だけだ。


 だがユーリには戦う力がある。サキュバスとしての異能が。

 そしてライナもまた、元金等級冒険者の師に皆伝の太鼓判を押された実力者だ。その力量は青銅級ブロンズの器に納まるようなものではない。


「毒は?コカトリスの吐息ブレスをなんとかしないと、戦うのは難しいよ。」


『造作もないことだ。なあ《図書館》』

『ええ、全く問題にもなりません。』


 コカトリスと戦うことをユーリが決心したとき、既に《図書館》の起動ブートは済んでいた。

 ユーリの口から、別人の声が漏れる。

 何度か見てはいるものの、瞬時に3人別の声色で話す様子は中々ショッキングな光景だ。


 夜魔の女王(サキュバスクイーン)のリリスと、情報統合補助スキルである《図書館ライブラリ》が自身ありげな様子で会話に割って入って来た。


「リリスさん……お久しぶりです。」

『久しぶりだな、坊や。前に会ったのは1か月とちょっと前だったか。ユーリは男――特に坊やの前だと中々私を呼んでくれないからな。』

「そうやって甘い声で誘惑さえしなければもっと呼んであげるよって、前にも話したよね!?」

『まあまあ、怒るな怒るな。サキュバスのさがというものだ。』


 リリスは相変わらずだ。自由奔放で高慢で、そして妖艶。

 存在するだけで男を惑わせるサキュバスクイーンは、ライナの情操には少々毒が強すぎる。


『話を戻しましょう。コカトリス程度の毒ならば全く問題なく無効化レジスト可能です。未だユーリには教えていない呪文を使うので、わたくしがサポート致しますね。』

『いやあ~、それにしてもコカトリスか、懐かしいな。知っているか?アレは実は大きな鶏に見えて尻尾の蛇のほうが本体でな?初めてことに及んだときはちょっと舐めて掛かってたんだがあの逞しい蛇に全身を締め付けられながら何十時間も連続でサれたときは流石に失神しかけて』

「やめて。ライナの前で私の口からそんな話をしないで。お願い。」


 強引に意識を奪い取ると、ユーリが半泣きでリリスの猥談を遮った。

(前から思ってたけど、夜魔リリスさんって何の種族なんだろう?)

 当のライナは話の半分も理解できていないのだが、ユーリには知る由も無かった。


『ああ、お前の口で思い出したが、この前話してたアレ、やってみないか?』

「……絶対変なことしないでね。」


 そう言ってユーリは自分の髪を一本だけ引き抜いた。

 ライナとコミュニケーションを取るには今までユーリの口から言語化していたが、それも不便だろうと別の策を用意していたのだ。


「ライナ、これを指に巻いて。髪の毛を媒介パスにしてリリスや《図書館》と念話ができるようになるから。」

「髪の毛?わかった……これでいいかな?」


 ライナが右手の小指に髪の毛を括り付けて固定すると、すぐさま頭の中に直接声が響いた。

『はい、結構です。いつまでのユーリの言葉をお借りするのも不便でしたからね。』

『あー。あー。あめんぼあかいなあいうえお。聞こえているか?』


「あ、はい。聞こえますよ。念話ってこういう風に聞こえるんだ、便利ですね。」

『ああ便利だとも。ちなみにこれ、色々と調節が利くんだが、例えばこうやって右側に偏って囁き声で話すと、まるで本当に耳元で囁かれてるみたいだろう?ふーーーー♡』

「うっ……あっ!?」

 耳に息を吹きかけられるようなくすぐったさに、ライナの身体が思わずビクンと撥ねた。


「ストップ!!!!!!!!ストオオオオオオオオオップ!!!!!!そういうことしないって約束したでしょ!?!?」

 顔を真っ赤にしたユーリが大音量で叫んでリリスの声を掻き消す。無論、念話の中でだ。実際に大声何て出したらコカトリスに気付かれてしまう。


『なんだつまらん。ここからの耳舐めが本番だというのに。』

「禁止。絶対禁止。ライナにそういうことしたらリリスでも絶対許さないからね。」

 本気のトーンで警告すると、一応『はいはい』と承諾するリリス。勿論反省の色はない。


「まったく……リリスが入るとすぐ変な方に話が飛んで行っちゃうんだから。《図書館》、そろそろお願いできる?」

『かしこまりました。では、ライナ様も此方へ。』


「へ、僕も?」

『当然です。2人まとめて無効化(レジスト)します。因みに、コカトリスの神経毒は皮膚からも侵入しますので息を止めても無駄ですよ。』

「そうだったんですか!?」


 最悪は無呼吸で戦えば何とかなるかと考えていたライナは慌ててユーリの前までやって来て姿勢をただした。

 必然近付いたユーリの整った顔にドキリとしながら、なるべく顔に出さないように真剣な顔を保つ。


『……では始めます。《防毒被膜(アンチドート・コート)》』


 《図書館》がそう唱えると、ユーリとライナの体を薄い膜のようなものが覆った。

 全身をくまなく包み込む光の膜はその名の通り、毒素の侵入のみを防いでくれる。

 パッシブスキルである為に一度発動すれば解除するまでずっと効果を発揮し続けるのだが、その分魔力を消費し続けるというのが難点か。


 ユーリにしてみれば24時間365日発動していても問題にもならない量だが、並みの人間の魔法使い(マジックキャスター)なら複数人に使えば3分と保つまい。人間という種族はそれだけマナを扱う力――魔力に乏しい。

 結局、大抵の冒険者は装備や道具に頼るしかないわけだ。


「これで良し、かな?」

『洞窟内は少し薄暗いですね。こちらもおまけしておきましょう。《暗視(ナイトアイ)》』

 暗い洞窟が、まるで昼間のように明るく見えるようになった。


「すごい……」

『どうだい坊や?一家に一台《図書館》が欲しくなってきたか?』

「変な勧誘しないでよ。」



 リリスが無駄に緊張感を削いでくるが、ここは一応危険な魔物との戦いの最前線だ。



 足音を極力殺して慎重に歩きながら奥を目指すと――居た。



 枯れ草を鳥の巣のように丸めて、その中央に横たわる巨大な怪鳥。

 そして巣の周りに飛び散った、乾いた血の跡。

 間違いない、こいつがコカトリスだ。


 《暗視》のお陰ではっきりと見えるその姿は、なまじ鶏の外見をしているだけにより一層おぞましい。

 だが、目を閉じていること、そして規則正しく胸が伸縮していることからまだ眠っていることが分かる。


「チャンスかな?今なら一気に……」

『待て。』




 ――いや、たしかに鶏の身体は寝ているように見える。

 だが、先程リリスも言っていたではないか?


 コカトリスの本体は蛇の方だと。





「シュウウウウウ」


 その時、コカトリスの身体に隠れていた蛇の頭がゆっくりと持ち上がった。

 蛇の頭はチロチロと舌を出しながらこちらを見据えてくる。


「こっちが視えてる?そうか、ピット器官!」

 蛇には目の他にも()()()()()()()感覚器が備わっていると、前世の理科の授業で聞いたのを何となく覚えている。

 このコカトリスも、おそらく同様の器官を備えているのだろう。


「シャアアアアアアアアアアアアア!?」

 こちらを完全に敵だと認識したのか、蛇は不快な破裂音のような鳴き声を上げた。

 それを聞いた途端、眠っていた鶏の方も目を覚ましてゆっくりと体を起こし始める。


「KOKE......KOKOOOOOOOO!!!!!」


 休息を邪魔する闖入者に怒り狂い、コカトリスは得意の毒吐息ブレスを吐きかけてきた。

 閉所ということもあり、毒々しい気体がたちまち辺りを覆いつくす。


 うまいこと充満した毒ガスをみてコカトリスは勝ちを確信した。

 先日、生意気な人間たちと対峙したときもこうしてブレスを充満させてやったらあえなく動けなくなり、その隙にうまく逃げおおせたものだ。あの時は傷を負ってしまったが、それも癒えた今度は毒を喰らったこいつらを嬲り殺しにしてやろう、と。


「う~ん、これじゃあ見えにくいね。《つむじ風(ワール・ウィンド)》」


 だが、突如巻き起こった風が跡形もなく毒の空気を巻き上げてしまった。

 そして晴れた視界のなか、毒吐息をまともに吸い込んだはずの人間たちは何事も無かったかのように立っている。


「KOOOOOO……KOKE!?」

 勝ちを確信していたのに、自分の毒がまるで通じなかった事実にコカトリスは狼狽した。

 だが、そこは彼も魔物モンスターだ。

 攻撃が通じないことによる驚愕よりも、怒りが勝ったらしい。


「KEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!!」


 怒り狂ったコカトリスは地を蹴り、真っすぐにユーリへ飛び掛かった。

 毒が通じずとも、自分にはこの鋭い爪とあぎとがある。

 そして、雌というのはどの種族でもひ弱で脆弱なものだ。再び勝利を確信したコカトリスは目を細めた。



「ユ……!」『問題ない。』

 あまりに迷いのない動きにライナの反応が一瞬だけ遅れた。

 叫びかけたライナだが、落ち着き払ったリリスの念話が遮る。




「……。」

 ――《図書館》に()()()()()()()()()()()

 スローモーションすぎて止まって見える灰色の世界で、ユーリはその怪鳥の姿をハッキリととらえていた。


(遅い。)

 これが、超人的な情報処理能力を持つ《図書館》が臨戦態勢に入った際にいつも見ている風景。

 高性能な一部のPCパソコンには負荷をかける代わりに一時的に処理能力を爆発的に上昇させる機能が備わっているが、《図書館》に接続したユーリの脳はそれを遥かに高効率・低負荷で行う。


 《知覚加速オーバー・クロック

 身体の制御権を引き渡すのとは逆に、《図書館》を自らの()()()()()()

 加速した《図書館》と思考を共有することで、自らの知覚を加速させるという発想の下に生まれた、新たなスキル。

 元々は、身体はサキュバスであるものの普通の人間並みの思考力しか引き出せなかったユーリが、壁を破るために思案していたときに偶然生まれたものだ。


 エナジードレインで得たスキル同士を組み合わせて新たなスキルを造り出すのはリリスもよくやっていたそうだが、ユーリがそれをやったのは、これが初めてであった。


 そして加速した思考で、ユーリはもう一つスキルを発動する。


「《流転する女神の盾リィンカーネイション・アイギス》」

 見えない力場が、両手をグローブのように包み込む。


 その右手を、迫りくる怪鳥の鋭い爪に差し出した。


「KEEEEEEEEEEEEEE!!!!」


 コカトリスの爪が触れると同時、ユーリはその手を()()()()()

 そのまま時計回りに、独楽こまのように身体を回転させ、コカトリスの突進の勢いを載せて反対の手――左手を突き出す。


 《混合魔武術ハイブリッド・アーツ/合気アイキ

 合気とは力の流れ――”気”を見極め、それと同調することで相手の力すら操り自分のものとする武道だ。

 警察官であり、合気道の師範代であったユーリ、いや、木崎悠里の父は、身体が小さく弱い悠里にこそ、この業は合うのだといつも言っていた。

 そんな父の教えが本当に活きる日がくるとは皮肉なものである。もっと真剣に教えを乞うていれば、彼との関係や前の人生の幕引きも、少しは違ったものになっただろうか。



 パアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!


 斬撃が空気を切り裂く破裂音が響き、コカトリスの両脚が()()()()()()()()()


「GEA!?!?!」


 地を蹴って支える脚をいきなり両方とも失ったコカトリスは、そのまま成すすべなく顔面から地面へたたきつけられた。


「ライナ!!」

「はあああああああああ!!!!!」


 ユーリが叫ぶより先に、ライナの身体は動き出していた。


 一閃。

 ただ一太刀の斬撃がはしり、ニワトリとヘビの首を同時に撥ねた。

 ……首を失った身体がまだそのことに気付かないようにジタバタともがいていたが、数秒遅れて糸が切れたようにパタリと沈黙した。



「ふう、お疲れ様。ユーリ。」

「うん。ちょっと疲れちゃったかな。」

 ライナがパチンと剣を鞘に納めると、二人してようやく緊張を解いた。

 《図書館》との同期も解除して、世界が色彩を取り戻す。

 軽いとはいえオーバークロックは脳に負担をかけるので、あまり長い時間は発動していられないのだ。


 そうして少し休んで落ち着いたあと、二人は地面に横たわるコカトリスの死体を見遣った。

「これ、どうしようか?毒袋があるからこのまま置いておくわけにもいかないけど、僕じゃあここで解体もできないし……」

 死体だけならば置いておけば自然に分解され土に還るだろうが、草花を枯らすコカトリスの強力な毒は土壌を汚染してしまうだろう。

「このまま持って帰るのはどうかな?ギルドへ引き渡せば専門の人が解体もしてくれる筈だよね?」

「いや、運べないでしょ……。」


「ううん、こうすれば。《亜空収納ストレージ》」

 手を添えて一言唱えると、そこにあった死体はきれいさっぱりと消えてしまった。


「うそ!?ストレージなんてレア中のレアスキルだよ!?」

『私を誰だと思ってるんだ?こと珍しいと言われるスキルなど、この私が納めて(うばって)いないわけがないだろう?』

「改めて思うけれど、リリスさんって一体……。」

『どうだ?やはり一家に一台』

「それはもういいから!」


 兎に角。

 厄介な魔物であるコカトリスは倒し、死体の搬送もこれでめどが立った。あとは――


「そういえば、薬草はどうしようか?」

「あっ」


 枯れ果ててしまった薬草たちをみやって悲しい気分になり、結局代わりを求めて別の群生地へ足を運んだために余計な時間が掛かってしまったのだが、ここでは割愛しておくとする。



 ※※※※


「と、いうわけで。これが依頼分の薬草です。」

 麻袋に詰めたキアリーハーブを渡すと、受付嬢のミレッダが中身を査証する。

「はい、確かに~。でもぉ、近場なのに結構時間かかったみたいですねぇ?」

 嫌味ではなく単純に疑問に思っていることを、ミレッダは訪ねてくる。ユーリだけならともかく、青銅級以上の実力をもつライナが一緒にいたのだ。何かあったのではないかと、そのおっとりした目が語っている。


「ええ、ちょっとトラブルがありまして……詳しくは裏で。」

「はい~。」


 ミレッダを伴ってギルド裏の広場へ出てきた。

 少し広くスペースが取られている此処は、新人の訓練や冒険者たちが持ち込んだ魔物の解体など、様々な用途に使われている。


「それでぇ、トラブルというのは何でしょうかぁ?」

「直接見てもらった方が早いと思う。《亜空収納》」


 再びスキルを発動して、亜空間にしまったコカトリスの死体を取り出す。

 いきなり現れた巨大な怪鳥に、ミレッダが目を回して慌てふためいた。


「な、ななななななな!?」

「数日前に隣町のギルドで、討伐に失敗したコカトリスがいましたよね?そいつが森の中の洞窟まで逃げ込んできてたんです。」

「倒したんですか!?あなたたち二人だけで!?装備も無いのに一体どうやって……」

「毒は私の魔術スキルで無効化しました。手負いだったみたいなので、すぐに決着をつけられると思って。」

「そんな無茶なぁ~。」


 手負いとはいえ白磁と青銅の二人パーティで挑むなど正気の沙汰ではない。

 コカトリスとはそれだけ危険な魔物なのだ。


「はぁ~……どうするんですかこれぇ。私には手に負えませんよぉ。」

「あらあら、ミレッダちゃんを連れて行ってどうするのかと思ったら、大変なことになってるわねえ。」


 と、困り果てた様子のミレッダに助け舟を出す人物が現れた。


「マスタぁ~!」


 冒険者ギルド・ユヅリハ村支部のギルドマスターであるエミリーが、いつの間にかそこに立っていた。


「ランク以上のことを()()()()ひとたちは時たま居たけど、流石にこれだけのことをやったのは貴女のお父さん以来だわ。あの時は私も新人だったから大変だったわ~。」

 エミリーは柔和に笑っているが、目が笑ってない。

 きっとものすごく苦労をかけたのだろうなと、父の破天荒さをして容易に想像できる。


「父さん……」


「兎に角、ミレッダ。後のことは私に任せてくれていいわ。苦労を掛けたわね。」

「いえ、そんな……それじゃあ、失礼します。」

 いつもの口調さえ忘れて畏まり、ミレッダはそのまま退散していった。



「さて、それじゃあ二人とも、覚悟は良いかしら?」


 こちらへ向き直り、「ゴゴゴゴ」と効果音が聞こえてきそうなエミリーの笑顔は、コカトリスなんかよりもよほど迫力のあるものだった。

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