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転性夜魔と疾風の英雄  作者: マツキ ヒビノ
2章:新人冒険者編
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31 はじめてのおつかい

「う〜ん、どれにしよっか。」

 小鬼(ゴブリン)退治、大鼠(ラット)狩り、ペット探しに薬草摘み、etc……

 登録を終えて早速依頼票(クエスト)が貼り付けられたギルド掲示板を眺めてみるが、白磁級の受けられる難易度のものといえば、どれも本当に簡単なものばかりだ。


 ライナは青銅級であるためにパーティを組めば青銅までの依頼を受けることも出来るが、それにしたってパッとするものは見当たらない。


「いっそのこと、どっかの銀等級の徒党(パーティ)に混ぜてもらって……」

「あはは、やめといた方がいいよ。そもそも、位階(ランク)が3つ以上離れてる冒険者同士はパーティを組めない決まりになってるんだ。」

「ん?それって」


「よう、"コウモリ"。これから冒険か?」

「ドノバンさん。」

 会話の途中で、ドノバン一行が話しかけてきた。

 先程の会話からも何となくそんな雰囲気はあったが、彼らは本当に、ライナには一目置いているらしい。


「俺らも今から出るとこだぜ。んで、お前の相棒はやっぱりその子ってワケか。」

 さっき会った時には無かったーーユーリの胸の上に光るネームタグを見ながら、ドノバンが言う。

「けどよォ、一緒に仕事した時にも思ったが、これで納得がいったぜ。お前さん、その嬢ちゃんと組めるように、わざと位階(ランク)上げてなかったんだな?」

「えっ!?」

 慌ててライナの方を見ると、申し訳なさそうな、気まずそうな顔をする。

「なんだ嬢ちゃん、知らなかったのか?冒険者はパーティを組む時ぁ、なるべく同じぐれえのランクじゃねえとダメなんだぜ。そうしねえと分不相応な依頼に低ランクを巻き込んだりしちまうワケだからな。」

「じゃあ、ライナは?」

「あと一個でもランクが上がれば、白磁級の今の嬢ちゃんとは組めなくなる。だからホントはもっと上の実力があるってのに青銅なんかに甘んじてたってことさ。」


 そもそもランクの高い冒険者があまり難易度の低い依頼を受けるのは褒められた行為ではない。

 それは自分の後に続く後輩の仕事を奪っていることに他ならないからだ。

 まあ、だからこそ最近のライナは他の冒険者パーティに臨時加入して上ランクの依頼をこなしてきたわけなのだが。


 どちらにせよ、ライナはユーリに気を遣って実力未満の地位に甘んじていたわけだ。

 つまり、端的にいえばユーリは早速、彼の足を引っ張っているということになる。


「あの、ユーリ。これはその、」

「許せない。」

「えっ」

「ライナが優しいのは知ってるけど、そんな理由で立ち止まってるなんて!!」

「いや、だからさ、その……」


「何より、冒険者になれただけで、やっとライナの隣に立てるんだって、勝手に浮かれてた私のことが一番許せない!!!」

「ちょっと、ユーリ!?」


 ユーリはそう言って掲示板から乱暴に一枚の依頼票を剥ぎ取ると、受付嬢の座るギルド窓口へ駆け込んだ。


「これ!!!受けさせてください!!!!!」

 差し出した依頼票には

【郊外の遺跡に住み着いたマンティコアの討伐】

【推奨:金等級】

 と書かれていた。


「ええと、貴女はまだ白磁級ですよね〜?これはちょっと〜」

 "ミレッダ"と書かれた名札を胸に付けた受付嬢はユーリの勢いに押されながらも、あくまでギルドの定めたルールを守るために立ちはだかる。

「そこをなんとか!」

「駄目なものは駄目です〜。たとえ貴女にその依頼をこなせる実力があったとしてもぉ、まずはそれを示してからです。位階(ランク)制度はぁ、その為に存在しているのですからぁ〜。」

「ぐぬぬぬ……!」

 のほほんとした口調に反してミレッダ女史は一歩も譲る気はないようだ。

 どうにかならないかと思案していると、ライナが別の依頼票を持ってやってきた。


「ほらユーリ、あんまり受付嬢さんを困らせちゃダメだよ。すみませんミレッダさん。今回はこれでお願いします。」

「あら〜、ライナ君じゃないですかぁ。今から冒険デートですかぁ?妬けますねぇ。」

「デート!?」


 その単語一つで急に大人しくなったユーリを放置して、ミレッダはライナの持ってきた依頼表に目を通していく。

「ふむふむ、毒消しの素材になるキアリーハーブの採集ですねぇ。かしこまりましたぁ、これで受理しますねぇ〜。」


 当たり前だが位階(ランク)の問題もないためトントン拍子で話が進み、最後に依頼票へ判子が押されると、これでこの依頼は正式にライナの請け負いとなった。


「はぁい、それじゃあ頑張ってきてくださいねぇ。」

 ひらひらと手を振るミレッダに見送られてギルドを後にするユーリとライナ。


「なんか、うまく手玉に取られた気がする……。」

「あはは、ミレッダさんもあれでベテランだからね。」


 まだ先程の件を引きずって表情の暗いユーリに、歩きながらライナが話しかけてきた。

「心配しなくても、ユーリならすぐに追いつけるよ。いや、それどころか僕の方が逆に引っ張られることになる。なんていったって、君は僕なんかよりもずっと強いんだからさ。」


「それでも、あなたが私のせいで昇格できてなかったことは変わらないわ。」

 あくまでもそこにこだわるユーリに対して、ライナは少し顔を赤くしながら、意を決したように答える。


「あのねユーリ、僕は別に気を使って待ってたわけじゃないよ。ただ、冒険者になった君のとなりに最初立つのは僕じゃなきゃ嫌だった。……だからこれは、僕自身の我儘なんだ。」


 こんなこと、ミレッダさんやドノバンさんたちの前じゃ言えなかったけどさ。と付け加えて、これ以上はライナも恥ずかしかったのか、顔を背けて押し黙ってしまった。


「そん、な、言い方は……卑怯だよ……。」

 ボフン!と音が聞こえそうなほど、今度はユーリが顔を赤らめる番だった。



 ※※※※※


 ――およそ1時間後。



「ガウッ!グルルルルルゥゥゥアアアアアアアアアアア!!!」


「ライナ、そいつで最後!」


「――シッ!」


 群れの仲間を殺されて怒り狂ったウォルフが、人体の急所――首筋を正確に狙って飛び掛かってくる。

 だが、その顎がライナを捉えるより早く、袈裟懸けに振り上げた剣の切っ先が狼の首へ吸い込まれ、その首を跳ね飛ばした。

 悲鳴を上げる暇もなく、狼は絶命した。


 都合5匹から成る群れは瞬く間に全滅し、森の中は再び静寂に包まれた。


「ふう、お疲れ様。」

「まだけっこう浅い所のはずなんだけど、今日はやけに魔物モンスターが多いなあ。」

 血で濡れた剣を一振りして鞘に納めながら、ライナが愚痴る。


「冬眠から目覚めてきた巨熊ダイア・ベアでも出たのかな?」

「出来れば遭いたくないんだけど、その可能性はありそうだね。」


 たまにイレギュラーに強い魔物が弱い魔物の生息地に出現して彼らを追いやってしまう事態が発生するが、今回はそのパターンかもしれない。

 一応警戒を強めながら、二人は再び歩き出すのだった。そして――



「あったあった。これかな?」

「そうだね。前も来たことがあるから間違いないよ。それにしても、思ったより時間かかちゃったね。」


 街を出て、依頼のあった薬草の群生地を目指して森の中を歩くこと、およそ1時間。

 本来なら30分もあれば到着するのだが、道中でやたらと魔物に絡まれたために大分時間が掛かってしまった。


 キアリーハーブは日の当たらないジメジメした場所にしか自生できず、丁度ここのような洞窟がそれにあたる。

 鬱蒼とした森の中に存在するため青銅級ブロンズ以上でないと請けることは出来ないが、それでも街からそれほど離れていないため、強い魔物モンスターと遭遇することも滅多にない。

 せいぜいが角兎アルミラージ野狼ウォルフ程度のものだ。

 新人冒険者でも装備をしっかり整えていればまず苦戦しないような魔物しか生息していない。


 故に、薬草採取は冒険者の間でも”おつかい依頼クエスト”などと呼ばれるくらい、簡単な仕事のひとつだ。

 勿論、中には一部のとても危険な地域にしか咲かない希少薬草などもあるにはあるが、青銅級が請けられるようなレベルのものはどれもたかが知れている。


 そう、だからこの依頼も、ただ行って、薬草を採って、帰ってくるだけの簡単な”おつかい”であるはずだった。


「さあ、さっさと薬草を摘んで帰りましょ――」



 ――洞窟の中に充満する臭気と、無残に枯れ果てた草花を目にするまでは。


「ライナ、止まって。」

「これは……ただことじゃないね。」


 酷い臭いの正体は、恐らく毒。それもかなり強力なものだ。

 毒消しの素材となるはずのキアリーハーブがこうもあっさりと枯れていることから、そう推測できる。


「これだけ強力なものとなると、この辺りの魔物だと……」

 そう言いながら、ライナは足元を見遣る。

 無残に枯れた草たちの中央に、よく見ると()()()()()()()()()()()()。そして、大きな()()()()()()()がある。


「大きなにわとりみたいな足跡に、多分これは()()()()()()()()()だね。そしてこの毒。」



 確信をもって、ライナは告げる。


「こいつは、”コカトリス”だ。」


戦闘パートも入れようかと思いましたが長くなっちゃうので次回に続くということで


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