27 黒き聖なる祝詞
―――日常は帰って来た。だが、ユーリたちにはまだやり残したことがある。
朝食の席でユーリはアリスを見、次にゴルドーを見やった。
彼の両腕は、未だ肘から先が存在しないままだ。治療しようにもユーリの魔力は底をつき、回復を待たなければならなかったから。
そうして一晩だけ不自由な身で過ごし、翌日の朝。
全回復とはいかないまでも食事をして一晩眠ったユーリの魔力は概ね戻っていた。
いや、今回の戦いが起こる以前と比べれば何倍もの魔力が、既に彼女の身には迸っている。
エナジードレインでライナの精力を吸収した影響で、ユーリの魔核は以前とは比べ物にならないほど多くの魔力を扱えるように変質していた。
大量の魔力を得てまた暴走したり気絶するんじゃないかと危惧していたが、落ち着いた今は不思議なほど自分の力として完全に身体に馴染んでいた。
兎に角、これだけの魔力があれば治療を行うに充分余裕があるだろう。
アリスがこれを見越して一晩時間を空けたのかは知る由も無いが・・・。
「それじゃあ、そろそろ表に出ようか。ゴルドーさんもいつまでもそのままじゃあ不自由だろうしね。」
何が起こるかわからないということで、治療は広い牧場のほうで行われることになっている。
先導して出ていくアリスについていくと……。
「―――っ!!」
見慣れない人影が3つ、表で待ち構えていた。
彼らは冒険者用の携帯食料を齧りながら、満足そうに腹をさすって出てきたアリスを恨めしそうに睨みつける。
「やあやあ、待たせたかな?」
「遅いです!!」
「あんたに呼び出されたおかげでウチらの朝食がクソまずい携帯食料になってんけど、どう責任とってくれるんや?」
「まあ、こいつの味わい深さも悪かないが、やっぱ仕事明けは美味い酒と肉が食いてえよ。」
「あははは、すぐ出てくるつもりだったけど朝食の途中だったみたいでさ……ご馳走になってたら遅れちゃった。」
「「「……………………はあ。」」」
食事について嫌味を言っているというのに悪びれもせず自分は美味い飯を食ったと報告する勇者に閉口し、3人は揃ってため息をつく。
「紹介します。彼らが僕の徒党の仲間……イゾルデにリィル、そしてバルザックさんです。」
「初めまして、イゾルデと申します。」
イゾルデと紹介された女性は、彼女らにとっては只の村人といって差し支えない立場のゴルドー達に恭しく頭を下げて挨拶をする。
肩までに切り揃えられた絹のような金髪の頂点に、生命の豊穣と癒しをつかさどる地母神を象った教会紋をたたえた神官帽を被った、美しい女。
身に纏うのは純潔を形にしたような露出の少ない純白の修道服だが、それでも隠し切れない胸や尻のラインが彼女の身体の豊満さを物語っている。
この女性こそが勇者の話にあった”聖女”だと、ユーリは直感する。
「ウチはリィル……リィル・リィルや。魔法使いをやっとる。こう見えても大人のレディやからな、ガキ扱いしたら燃やしてまうで。」
イゾルデとは対照的に不愛想に挨拶したのが、リィルと呼ばれたエルフの少女。
森人の中でもかなり森深くに住んでいたらしく、その言葉は訛りが強かった。
……態度が対照的ならその体型も、さもありなん。
イゾルデの服の上からでもわかる艶めかしい曲線とは真逆の、見事なまでの直線美。
身長も彼らのなかでは一番低く、まさに『ちんちくりん』という言葉がピッタリと当てはまる有様だ。
エルフといえば高身長の美男美女が多い印象だったが、彼女のような者も稀に存在する。
女の子には触れてほしくないデリケートな部分があるものだ。ユーリは特に言及することをせず無難に挨拶を返した。
そして、最後の一人。
強さに見合わず美男美女の揃った徒党の中で、唯一『らしい』見た目をした大柄な男。
「バルザック・フォン・メイルシュトゥルムだ。パーティの中では盾役を務めてる。……まあ、宜しく頼む。」
身長は2m近くあるだろうか?厳つい顔をにっかりとゆがめ、男は笑いながら自己紹介した。
見ているだけで重そうな全身鎧に身を包み、大盾と戦棍を掲げた30歳前後といった見た目の戦士。
その下には鍛え抜かれた巌のような肉体が在ることが優に想像できる。
鋼の肉体から繰り出される重い戦棍の一撃は如何ほどの威力か、考えるだけで身震いがしてくるというものだ。
以上の3人が、アリスと普段の行動を共にしている冒険者たち。
……単独でも覇鋼級の階位を持つアリスには一歩及ばないものの、全員が練達した腕前と確かな才能を持つ超一流の英傑であった。
「大体の事情はみんなには話したんだけど、自分たちも立ち会わせろって聞かなくてさ……。」
「当然です!四肢を再生する魔法など、地母神様より賜った奇跡の中にも存在しません!そんな怪しいモノを黙って見過ごすことは出来ませんから!」
イゾルデがそうまくしたてる。
確かに、治癒術を専門に学んだ聖職者であっても失われた身体の一部を再生することは出来ない。
魔法が存在するこの世界の医療水準でも、無から有を生み出すことは不可能だと考えられている。
彼女がそう疑いを持つのも当然といえるだろう。
「だからこうして集まって貰ったんじゃないか……それじゃ、始めようか。準備はいいかな、ユーリちゃん?」
コクリと頷く。
そもそも人間ではないことももう知られているのだ。疑わしい目で注意深く監視してくれるならむしろ好都合。彼女の言うところの奇跡を存分に起こしてご覧に入れようじゃないか。
「ではまず、情報処理の補助スキルを使います。《起動せよ、図書館。汝の鍵は我である。》」
火を起こすように、身体の中で小さく魔力が弾ける。
種火はたちまち大きくなり、体内を駆け巡り、脳の一部に定着した。
『おはようございます、ユーリ。そしてお集まりの皆様、ごきげんよう。《図書館》と申します。』
「うん、おはよう《図書館》。」
少女の口から、明らかに別人としか思えない凛とした女の声がした。
にわかに騒めきが起こるが、即座に何が起こったのか理解したのは魔法使いであるリィルだった。
「アホな……自律型の情報処理スキル……しかも短縮詠唱!?そんな代物、大賢者とか呼ばれるような一部の人間しか扱えるもんちゃうで!?」
『私はユーリがこの世界に生まれ落ちた瞬間からお側に居るのですよ。それに、この程度で大騒ぎされては困りますね、お嬢さん?』
「ほぉう……お前もウチをガキ扱いするんか?ええ度胸やんけ……。」
青筋を立てて笑いながら、リィルが魔力を練り上げようとする。
自分の方が小さいくせにリィルをコケにしてきた、この女を焼き殺すために。
……が、そんな暴挙が容認されよう筈もなく。
小さなエルフは仲間である3人によって簡単に取り押さえられてしまった。
「邪魔すんな!!!ウチより身長の高い女は皆殺しにしてやる!!!!!!」
しまいには見た目相応の子供みたいに喚き散らす始末。
冗談みたいな話だが、彼女の小さな身体には本当に国1つ2つは燃やし尽くす程度の力が備わっていることを知る徒党の3人にとっては、何一つ冗談では済まない。
……たとえ彼女が日常的にこんな事でキレていたとしても。
「まあまあ、落ち着けよ。イライラすんのは身体に悪いぜ?ほら、俺の秘蔵の焼き菓子をやろう。これ食って機嫌直せ。」
そう言って本当に子供をあやすように焼き菓子を懐から取り出すバルザック。
「…………にふぉめふぁふぁいはらら。(サクもぐもぐもぐ)」
『……続けても構いませんか?』
「ええ、どうぞ。すみませんね、騒がしくて。」
一部始終を他人事のように眺めていた《図書館》が、そう切り出す。
『では、ゴルドー様。此方へ。』
「おう、やっとか……。」
自分の娘の姿をした人物に"様"付けで呼ばれることに若干のこそばゆさを感じながら、ゴルドーが《図書館》の前へ歩み出た。
『始めに言っておきますが、私が今から行う術式では、完全な再生は成し得ません。喪われた肉体を一から構成するには膨大なマナが必要になるためです。』
「あん?それってどういう……。」
『つまり、無くなった腕の代替となる別の肉体を用意して、貴方に移植するということです。』
そう言うや、ユーリの身体に変化があった。
頭の両側面からズリュリと角が生え、背中からは蝙蝠のような翼、そして最後に、尻尾が生えた。
人間ではない異能の力を行使するための、異形の姿へとユーリは変貌する。
そしてその尻尾の先から、《図書館》はそれを吐き出した。
浅黒い色をした、邪悪な気配を漂わせる肉の塊。
丁度人間の拳ほどのサイズであるその肉塊は、生命の祝福をあざ笑うかのようにドクンドクンと脈打っていた。
ざわめきが一層大きくなった。
冒険者としていくつもの修羅場をくぐり抜けてきた勇者の仲間たちには、それが何なのかハッキリと判る。
判ってしまうのだ。
この肉塊は、悪魔……それもかなり上位の者の身体の一部である、と。
「うそや……アレ、まだ生きてるで!?」
「おいおいおい、正気か!?お嬢さん、その怪しい肉を一体どうするって……」
「やはり正体を現しましたね、邪悪な魔族!だから言ったのです、アリスさんは甘すぎると!!」
他のメンバーは動揺するだけだったが、聖女イゾルデは既にこちらへ明確な敵意を向けてくる。
アリスに向けられたとき程ではないにしろ、並みの人間を遥かに越えた超越者たる彼女の放つ殺気もかなりの濃度だ。
そして、彼女がユーリのことをハッキリと敵であると認識したことで、残る二人も臨戦態勢に入る。
元より、ユーリが悪魔公爵を単独で退けたことはアリスから伝えられている。
そんな存在が敵であるのならば、一瞬の油断が命取りだ。
アリスの仲間である3人は、いざとなれば目の前の幼い娘のようにみえる悪魔を殺すためにここへ同行してきていた。
すわ戦闘になるかと、ゴルドーやライナも身構えたところで……
「ちょっとちょっと、みんな落ち着いて」
『騒がしいな。いいから黙って見てろよ、人間。』
少女から、また別の女の声が辺りに響いた。
そして、アリスが制止するよりも早く、イゾルデたち3人はガクリと膝をついた……いや、立っていられなかった。
臨戦態勢に入った3人のトップランク冒険者を、ただの殺気だけで黙らせ、今も顔を上げられないほどに強烈に押さえつけている。
魔力の総量だけ見て言えば、3人がかりなら苦戦はするだろうが決して負けることはないだろう。
だが、それだけでは目の前の女を到底説明しきれない。彼女が発するオーラからは、信じられないくらいの血生臭さと鮮烈な死の匂いがする。
”経験値”
この女は最上位の冒険者として経験を積んで来た自分たちが尚、頂上さえみえない程の高みへ手を掛けている。
彼らはただただ、今の成すすべがない状況が信じられないという表情で固まっていた。
そして、この出来事にある意味この場に居る誰よりも驚愕していた人物が―――ユーリである。
「ちょっと、リリス!?一体何して……ていうか、どうして出て来られたの!?」
『ああ、いやなに。昨日入れ替わったことで、私とお前はより深く混ざり合ったみたいでな。《図書館》の権限を通じてこうやって干渉できるようになったらしい。』
「らしい……って、またこんな無茶して……。」
『許せよ。そこのチビとカマトトとデカブツが、あんまり失礼なもんだからさ……。』
「馬鹿な……何なのです……お前は一体、何を飼っているのですか!?」
ガクガクと膝を震わせながら、杖を頼りにイゾルデが起き上がる。
他の2名も同じようにして、なんとかふらつきながらも立ち上がることに成功した。
これほどの脅威を見逃すわけにいくまい。刺し違えてでも、この場で決着を…………
「そのへんにしといてくれないかな、リリスさん?それにハルザックさんたちも。」
と、一触即発の両人……その間にアリスが割って入った。彼もまた同じ殺意をリリスから向けられていたはずだが、平然としている。
「全く……こうなるだろうから立ち会い人はボクだけで充分だって言ったのに……彼らも悪気があるわけなじゃないんです。許してくれませんか?」
『躾がなってないんじゃないか?それに、お前が昨日ユーリを脅してくれたのも私は見ていた……これで二度目だ。』
「ゔっ……そこを突かれると痛いんですが……あれも仕方ないことだったんですよ。怖がらせちゃったお詫びはまた埋め合わせますから……。」
『……はあ〜〜。お前らはいつもそうやって……まあいい。仏の顔も三度まで、だ。次にまたユーリへさっきみたいなおいたを働いたら、お前らが幻視した通りにして殺してやる。』
「あはは、気を付けますよ。ええ、本当に。」
「…………ぬぅ。」
バルザックは低く唸る。殺すなどという安い脅迫は、しかして、この女の殺気に当てられた今ならそれが脅しでは済まないことが容易に想像できる。
だが、勇者のこの気安さは何だ……?まるで、ずっと前からの知り合いみたいに…………
『さて、邪魔が入ったがこの際だ。《図書館》に代わって私が分かりやすく説明してやろう。』
危ないところに入りかけた思考は、リリスの声に中断された。
「本当に頼むぜ……こっちはもうアンタと勇者様たちの間で板挟みにされて生きた心地がしないんだ。」
「なんだか、ものすごく貴重な体験をしてるような……でも全然嬉しくないです。」
『まあまあ坊や、これもまた試練というやつさ。さて、本題だ。この肉だが……もう分かっているとは思うが、昨日私が喰った悪魔公爵の肉片だ。別にこの中にあいつの意思が宿ってるだとかそういうこともない、ただの新鮮なだけの肉塊に過ぎない。』
「……わざわざ悪魔の肉を使う理由は?肉体の代わりにというなら、その辺りの家畜の肉などでも代用出来そうなものですが。」
高位の治癒魔法には、実際に羊や牛の肉を生贄に捧げて失われた血液などを急速に補うものなども存在する。
『お前、聖女だとか言われてる割にはモノを知らないな?』
「な、なんですって!?」
『動物やなんやの肉で代用できるのはせいぜい血や骨の補強なんかが限界。なんせ、通ってるマナが少な過ぎるからな。人間の、それもここまで鍛えた男の肉体を構成するには、それこそ同じ人間の肉なんかが必要になる。』
「そ、それは……。」
『そうだ。お前らの界隈で禁忌扱いされてる所以だな。ヒトを生贄にヒトを治療する……まったく、本末転倒な話もあったものだ。』
教会が一般には隠している禁忌の法も修めているイゾルデには、その言葉が痛いほど突き刺さる。本末転倒だって?かつての自分もそう言って激しく教会を非難したものだ。
『だが、高位の悪魔ならば条件は十分以上に満たせる。まあ、拒絶反応やら魔力暴走やら厄介な問題はあるが、わたしと《図書館》にかかれば心配は無用だ。そうだな……超高性能な義手を着けてやるとでも考えればいい。』
『お任せ下さい。』
「義手ね……まあ、元々でも何かしら着けるつもりではいたが……その肉片ってのは、あいつの、だよな?」
『ええ、個体名"ベリアル"。貴方が対峙し、貴方の腕を奪った張本人です。……やはり拒否されますか?』
悪魔の肉を移植されるというだけでも抵抗があるだろうに、そいつはゴルドーの腕を消しとばしたばかりか、そのまま土手っ腹から胴体を真っ二つに斬り裂いたのだ。実質、命を奪われたに等しい所業を許せるわけがない。
だが…………
「いや、いいよ。やってくれ。…………実を言うとな、アイツとはちょっと話が合いそうな気がしてたんだ。今回はたまたま敵同士になっちまったけどな。」
"殺すに惜しい高潔な魂だ"
ベリアルはたしか、ゴルドーとの決着の前にそんな事を言っていた。
彼がそう感じたように、ゴルドーの中でも彼に対する、敵意とは別の感情が芽生えていた。
『成る程な。よし、それでは始めようか。』
周りの面々はざわついたが、リリスはゴルドーがそう結論付けるのがわかっていたように笑って、術式の準備に入る。
左手で肉片を掲げ、右手をそっとゴルドーの額に添える。
紡ぐ祝詞は闇の呪法。
しかしてそれは、聖なる光を讃えながら暖かく言祝がれる。
『回帰せよ。汝の記憶の潮流に、其の本来の姿を。回帰せよ。其の為の血と肉は、此処に。回帰せよ、回帰せよーーー』
輪廻る。螺旋る。回帰る。
邪悪な肉片が二重の螺旋を描いてゴルドーの肉体へ埋まっていく。
そして、全てが埋まったと同時、両腕に異変が起きた。
ぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこ…………
肘から先が無かった筈の先端から、沸騰した湯のように新たな肉が勢いよく隆起する。
それは生命の誕生とは程遠く、酷く醜悪で冒涜的な光景であった。
だというのに……
「どうして……?なんで私は泣いているの……?」
聖女であるイゾルデには判ってしまう。
目の前で起きているこの奇跡こそ、一度は拒絶し非難した禁断の呪法…………その完成形だと。
どうしようもなく邪悪で、醜く、冒涜的で……
どうしようもなく美しい聖なる祝福に、イゾルデのみならずその場にいる全員が息を飲んだ。
――そして全ての詠唱が終わると、ゴルドーの両腕は完全に元通りになっていた。
『…………どうだ、感想は?』
「すげぇな。まるで、ずっと前からこうだったみたいだ。」
手を閉じたり開いたり、腕をぐるぐる回したりしながら状態を確認するゴルドー。
その様子には、わずかな違和感すら感じているようにも見えない。
『ま、私にかかればざっとこんなもんだな。さて、久々に集中して疲れたし、そろそろユーリに替わるとするか。ではな。』
「ああ、その……アンタには感謝しなきゃな。今回のことも……それに、ユーリを守ってくれたことも。」
フッ、と微笑して、そのまま糸が切れるようにユーリの身体が倒れる
「っと。」直前で、ライナによって受け止められた。
今回は意識があったこともあって、ユーリもすぐに目を覚ました。
「……ありがと。」
「いや……うん。」
「あ~~~……ゴホン。」
アリスが咳払い一つすると、密着していた二人は急いで距離を取った。
「ごめんね。二人の邪魔はしたくないんだけど……。」
「こっちもあんまり時間がねえんだ。次の仕事もあることだしな。んで……」
「で、聖女さん?結局この娘はどうや?確かに人間じゃなかったけど、あんたの眼には邪悪な者に映ったか?」
「あまり意地悪を言わないでください……。あんな奇跡を見せられて尚彼女が邪悪であると判断する者は、聖職者……いえ、だれであってもあり得ません。」
「じゃあ……?」
恐る恐るユーリが訊くと、その頭に手を載せて髪を撫でながらイゾルデは言う。
「貴女に祝福を、ユーリ。種族の違いなど些細なことです。このイゾルデの名に於いて、貴女が潔白であると裁定します。」
――認められた。
勇者アリスだけでなく、今度は自分の行いによって、彼の仲間たちにユーリは認められたのだった。
ゴルドー、ライナ、そして、母リリィも我がことのように喜んでくれた。
しばしの間その光景を眺めていた勇者一行だが、思い出したようにバルザックが切り出した。
「そういえばお前さん、これから先はどうする気だ?それだけの力があれば、冒険者になっても名前を上げられるだろうぜ。」
「ああ、そうそう!それ聞くん忘れとったわ。まあ、見たところまだ登録可能年齢には達してないみたいやけど、15になったら冒険者になるんか?」
「わ、私は……。」
考えたことが、無いわけではなかった。
だけど、冒険者なんて危ない仕事、リリィにだって心配を掛けてしまうだろう。
女の子に生まれ変わることが出来た以上、普通に村娘として人生を全うできればユーリにはそれ以上を望むべくもない。
――そう、思っていた。
「でも……。」
ライナを、そしてゴルドーを見遣る。
自らの命を顧みず、ユーリを助けにきてくれた。勝てない戦いに身を投じて、本当に死にかけてまで守ってくれた。
そしてライナは、こんな自分を好きだと言ってくれた。
「私は――――――。」
願えるのならば、自分は彼の隣に立ちたい。
牧場の娘として冒険者になる彼の帰りを待つのも良いだろうが、自分はもっと近くに寄り添っていたい。
「私は、冒険者になりたいです。」
彼が自分にしてくれたように、今度は自分が彼の側で、彼を守りたい。
そのための力が、ユーリにはあるのだから。




