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転性夜魔と疾風の英雄  作者: マツキ ヒビノ
1章:幼少期編
15/37

15 4度目の偵察

エミリー・オルコットは悩んでいた。

冒険者ギルドの受付嬢である彼女の仕事は、依頼人と冒険者との橋渡しだ。

依頼人から話を聞き、受けた依頼の難易度を精査し、適切な等級ランクの冒険者へ割り振る。

簡単なことのように聞こえるが、出現するであろう敵の数や強さ、それに環境などを加味して総合的な評価を下すのは専門的な知識をかなり必要とする。

判断を誤って身の丈に合わない依頼を受けさせてしまえば、その冒険者はそのまま二度と帰って来ないなんてことも珍しくないのだ。

だからこそ、慎重に慎重を重ねつつ依頼票に適正なランクをつけるのだが……


「――――――というワケで、まず間違いなくでけえ巣穴がある。ゴブリンの数は50匹は下らないだろうし、上位種が率いてやがるのもほぼ間違いねえ。頭がキレるみたいだから導師ロードか、もしくは別種族の上位の魔物か。兎に角、俺個人の力じゃどうしようもねえから、こうして依頼として持ち込んで来た。出来れば金等級ゴールド銀等級シルバーなら複数パーティ欲しいとこだな。」


悩みの種は、目の前の筋骨隆々な男が持ち込んだ依頼だ。

ゴルドー・ストックホルム。

この辺境の街ではちょっとばかり名の知れていた、元・金等級冒険者。

パーティの実力では更に上の白金プラチナ等級に匹敵すると言われ、事実として昇位ランクアップに手を掛ける所まで行ったのだが……。


いや、この話はまた今度にしよう。

今は兎に角、依頼の事に集中だ。


「こんな近郊にそこまで大きな巣穴が……。困りましたね。金等級冒険者のみなさんは丁度みんな出払ってしまってますし、銀等級も先週ランクアップしたばかりの”鷹の眼(ホークアイ)”の皆さんしか手が空いていません……。」


”鷹の眼”は6人から成る、探索に特化したパーティだ。

戦闘技能ではなく索敵や罠感知に長けた冒険者が揃い、危険な戦闘をなるべく避けてお宝を狙う。

勿論、銀等級にランクアップ出来る程度なので戦闘が出来ないわけではないが、やはり同じランクの冒険者たちと比べると見劣りするのは避けられない。


「探索特化型か……丁度いいな」

「えっ?」


「俺も出る。ウチの牧場を荒らそうなんて不届きな輩は、直接俺の手でブっ叩いてやらねえとな。」

目の前の男が、そんなことを言い出す。

確かに、元・金等級の、それもガチガチの戦闘職であったゴルドーが加わるのであれば、これ以上に頼もしいことはない。

何しろ、彼の現役時代をずっと見てきたのだ。その実力にはエミリーだって太鼓判を押せる。


7年ものブランクがあるのが少し心配なのだが……

何故か、今対峙しているゴルドーからは、現役時代のような気迫を感じる。

鍛え上げられた肉体は衰えた様子もなく、纏っている雰囲気はむしろ、あの頃よりも鋭くなってさえいるような気がする。


「あの、ゴルドーさん?貴方、引退してからはずっと牧場を経営してましたよね?陰でずっと鍛えてたんですか……?」

「ああ、コレか?まあ話せば長くなるんだがな。エリックの息子だよ。奴に頼まれて稽古をつけてるんだが、これがアホみたいに飲み込みが早いんだ。教えてるこっちもアイツに簡単に抜かれないために鍛えざるを得なくてな……。」


師匠としての意地だろうか。

どうやら弟子になった少年に負けないように鍛えていたらこうなったらしい。

将来有望な子も居たものだなと思う。あのゴルドーにここまで言わせるとは。

何にせよ、腕が鈍っていなかったというのはこちらとしても非常に良い知らせだ。


「そういう事でしたら心配は要らなそうですね。ゴルドーさんの報酬は、依頼料金から天引きということで構いませんか?放っておいたら街にも被害が出るのは確実なので、緊急任務ミッションという形で補助金も出るでしょうし、かなり安くお請けできるはずです。」


「ああ、それで構わない。”鷹の眼”は巣穴の特定と、内部の把握、あとは後方での援護を頼みたい。親玉は俺が殺る。」

「了解しました。そのように伝えておきます。緊急任務ともなれば報酬はかなり割高になるはずなので、彼らも喜んで了承してくれるでしょう。出発はいつにしますか?」

トントン拍子で話が進んでいく。

現役時代もそうだったが、ゴルドーとのやり取りは非常にスムーズだ。


「ゴブリン退治は出来るだけ急いだ方がいい。今日中に準備を済ませて明日の朝、出発しよう。」

それだけの群れとなれば、攫われた女性も多いはずだ。まだ取り返しのつくうちに助け出せる子も居るかもしれない。

過度な期待をすると裏切られたときが酷いのだが。

「承知しました。では、また明日。」


話が済んだら準備をするからとさっさと出て行ったゴルドーを見送って、一息つく。


兎に角、話はまとまった。

早速”鷹の眼”のメンバーに召集をかけなければ。


丁度良く酒場に入って来て依頼票を物色しはじめた彼らを目聡く見つけ、エミリーは声をかけるために立ち上がった。


※※※※※※※※※


「……というわけで、父さんは今日は居ないの。ごめんねライナ?」

いつものように剣の稽古を受けるため牧場を訪れたライナに、肝心の師匠の不在を申し訳なさそうに告げる。

早朝にあんなことがあって、善は急げとばかりに足早にギルドへ向かったゴルドーを思い、ユーリは溜息を漏らす。

街へ行ったんだからせめてエリックの家に寄って一言ぐらいはあっても良いと思うのだが、スッポリと忘れていたようだ。

「そっかぁ、ゴブリンが……知らないうちにそんな大変なことになってたんだね。」

当のライナは暢気なもので、むしろ即日に行動を起こしたゴルドーを流石だと褒めているような始末。

「それで、今日はどうする?父さん居ないし、もう帰っちゃう?一応、お茶とお菓子は用意してあったんだけど……」

「そう?折角だから頂いていこうかな……それじゃあ、今日は自主鍛錬でもしてるよ。折角広い牧場に来たんだから、ちょっと身体動かしておきたいし。」

「わかった。じゃあ、わたしはお茶の準備するから。」

そう告げて、早速駆けていくライナを見送りつつ、シートを広げてお茶の準備を始める。


ゴブリンが出たといっても、元は優秀な冒険者であったゴルドーのことだ。

またすぐに解決して、元通りの日常が戻ってくる。

そう、思っていた。


『ガランガラガンラガン!』


「えっ!?」

今朝、ゴルドーが仕掛けなおした鳴子が作動し、けたたましい音を響かせる。

音が鳴ったのは、ちょうどライナが向かって行った方向だ。

慌ててそちらのほうを見てみると……。


「――――――っ!」

居た。

おとぎ話に出てくるような小柄でやせ細った身体つきに、緑の皮膚。

明らかに不健康そうなのに、その双眸だけは欲望でギラギラと光っている。


ゴブリンだ。

邪悪で醜悪な姿をした小鬼が5匹、柵を挟んでではあるがライナと対峙している。


「ライナ!!!!」

鍛錬のため彼が丸腰だったことに気付き、あわてて預かっていた荷物から剣を取り出して駆けだす。

修行用の木剣ではなく、万が一のためにライナがいつも持ち歩いている実剣。

鉄で出来たそれは、命を絶つことができるというズッシリした重さを少女の腕に伝えてくる。


ゴブリンたちが柵の一部を破壊してこちら側へ侵入してくるのと、ユーリがライナへ駆け寄って剣を届けるのは、ほぼ同時だった。

「ぜぇ、ぜぇ……こ、これ!使って!!」

息も絶え絶えに剣を手渡すと、受け取ったライナは即座に鉄の刀身を鞘から抜き放った。

普段から木剣しか使っていないとは思えないほど、それは自然な手つきだった。



「ありがとう、ユーリ。ちょっと下がってて。」

剣を抜いた目の前の少年は、こんな状況だというのにひどく落ち着いているように見える。

そうしてゆったりと、まるで目の前の敵など居ないかのように構えをとる。

それは、一刀に全てを込める必殺の構え。


「GYA!GYA!GLAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」

無視されていたように感じたのか、小鬼共が何事か喚きながら一斉に襲い掛かってくる。

その手には錆びついたナイフや石で出来た槍やこん棒。粗悪ながらも、人の、それも子供の命を奪うには充分な代物だ。

そんなものが一斉に振りかぶられ、ライナへと殺到する。


次の瞬間。


「ああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

咆哮一閃。

構えた剣を横凪に振りぬく。

踏み込んだ足の衝撃で地面が抉れ、切っ先は少し遅れて『パァン!』と乾いた破裂音を辺りに響かせた。

その剣が切り裂いたのは、小鬼ではない。


空気(・・)だ。

直後、一陣の風が吹いた。


ライナに言われ、少し離れた場所で見ていたユーリの頭を、その風はふわりと撫ぜた。

冬の寒空の下で自分を見守る思い人を労わるような、暖かい風。


しかして、その切っ先の目の前。

つまり風の発生源にいた小鬼たちを襲うのは触れるものを容赦なく切り裂く死の暴風。

風という見えない剣に切り裂かれた小鬼たちは、断末魔の悲鳴を上げる暇さえなく息絶えた。


空絶くうぜつ

ゴルドーが最も得意としていた剣技の一つだ。

一撃に全ての力を籠めることで、ライナは彼の業の一端をほぼ完璧に再現してみせた。



そして、後に残っていたのは物言わぬ骸と化した4匹の小鬼と、運よく腕一本切り裂かれただけで済んだ個体だった。

力を使い果たし、既にライナは動けない状態であったが、その小鬼はひどく怯えた様子で柵から飛び出して逃げて行った。


「ま、待て!!!!!!」

そう。逃がしてしまった(・・・・・・・・)

このことが何を意味するのか、幼い身ながらユーリもライナも聞かされて知っていた。


自分が攻撃魔術で追撃すれば、容易に倒すことはできるだろう。

いや、それどころか先ほど襲撃してきた5匹を纏めてでも。

そう考えながらも、目の前の少年のこと。

そして、今自分を人間だと思い込んで受け入れてくれている家族のことを考えてしまう。

彼らが見たこともない魔術を操るユーリの姿をみたらどう思うのか。

人間ではない自分の正体を知れば、どうなるのか。



そんな恐怖がユーリの身体を鎖のように縛り付け、結局逃げて行った小鬼が見えなくなるまで、何もできなかった。

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