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オイシイところをいただきます  作者: 池田 ヒロ
第十五章 選ばれし者は裏切り者
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94話 ジャスティスは母親のお仕置きを痛がる

 白の都へと近付いてきたとき、一足先に町中の状況を確認しに行っていたクロウがジャスティスたちの元へと戻ってきた。彼はどこか焦った様子で「このまま町へと行くのは難しそうですよ」と報告してくる。


「風の精霊が言ったのかは定かではありませんが、すでにジャスティス殿の首の懸賞金すらも掲示板に」


「うわ、怖っ」


 もう行きたくないと言わんばかりの顔を見せた。それもそうだろう。こればかりはマリスも同情する。町中へと入っていって、いきなり御首頂戴だなんて言われるのはごめんだからだ。


「それに、マリスも似たようなものです。あなたの場合は生きて捕えよ、ですから」


「ボクを生かしておいて、ジャスティスの首を獲るってことかな?」


「これじゃあな。親父たちに会う術もないし」


 それでも行くか、と思っていると――。


「もう面倒になってきたから、魔王のところに行くか」


 本来のやる気のなさは作られた性格ではない様子。これはジャスティス本来の性格らしい。なんとも紛らわしい改造された性格。いや、いい意味で言っているのであるが。


「これから他の町や村にも入れなくなってしまうからなぁ」


「まあ、それが一番賢明でしょうね」


 ともかく、白の都から離れようか、とひたすらに北の方角を目指すことに決めるのだった。段々と遠ざかっていく町を見てイーザは小さくため息をつく。これに気付いたマリスは「どうしたんだ?」と声をかける。


「イーザは一応ジャスティスの肩に乗っているから、疲れはしないだろ?」


「そうだよ、本当。自分で歩いてくれよ」


 ジャスティスは少し煩わしそうにイーザを自分の方から引きはがそうと試みるも、己の足で歩くことを拒んでいるようであった。その方を握りしめた手を離さんとしている。


「なんだよぉ! あっしがKIZETSUしたらどうするんだよ! お前ら、絶対わざとあっしの墓とかふざけ半分で作るじゃないか!」


「ンだよ、お前。面倒な」


 改めて、イーザは「そういうことじゃない」と否定した。


「これでもあっしは動物に似た魔族。だが、見た目からして害獣としてしか捉えられていないんだよ。こう見えて、町すら立ち入ったこともできないんだ。害獣対策でな」


「前の勇者と一緒にいたんじゃ?」


「それは事実だ。だが、一緒にいたと言っても、そいつはこれから魔王のいる島へと行こうとしたところで出会ったからね。向こうに行っても、町はないからね。魔族パラダイスが待っているのさ」


 魔族がいっぱいのパラダイスと聞いて、ジャスティスは行く気が失せるな、と鼻白んだ。ここまでにおいて、行く気をそぐわれる発言が聞けようとは思いもよらなかったからだ。


「けど、今回ばかりはしょうがない。もっと早くに勇者君たちと会いたかったと後悔しても遅いしな」


「それでもイーザはKIZETSUって得意技しか持たないじゃん」


 もうちょっと、クロウみたいな鳥人間になれるなんていう特技はないのか、とない物ねだりをするジャスティスが岩場の方を通りかかったときだった。


「おっ、ジャスティス」


 岩場の陰で呑気に昼食を採るジャスティスの両親、ディケオとユーリスがいた。これに拍子抜けする一同は驚いている。


「えっ!? 親父たち、都の方にいたんじゃ……」


「いやぁ、お前が懸賞金にかけられているし、空飛ぶ魔族もいるだろうからあっちに行かないだろうなって思ってさ。こっちで張っていたら、本当に来るとは」


 自分の息子が懸賞金にかけられているのにもかかわらず能天気にグレイントーストを頬張るディケオ。そんな物見せられると、お腹が空いてきて仕方がないじゃないか。実際、彼らのお腹から音が聞こえてくる。これにユーリスが「あらあら」と肩で笑う。


「みんな、ご飯まだでしょ? よかったら一緒に食べましょ」


 その厚意がありがたかった。もうジャスティスたちに食料なんてないに等しかったのだから。彼らはありがたくそれをいただいていると――。


「ほら、一応一週間分の食料あげるから」


 ディケオからもありがたい物をもらった。それが素直に嬉しくて、ジャスティスが「ありがとうな」と恥ずかしそうにお礼を言う。


「親父たちは伝言神官だって言うから、てっきり」


「一応風の精霊と会って聞いたの。でもね、言ったでしょ?」


 ユーリスはすっと、ジャスティスの前に来て優しく頭をなでた。


「私たちはあなたを愛している。それはどんなときでも変わりないのよ」


「世界と自分の息子だったらば、自分の子どもを選ばない親がどこにいるって言うんだ?」


 正直言って、とんでもないことをしでかしているけどな、とディケオは苦笑いをした。だとしても、ジャスティスの味方であることには変わりないのだから。


「世界を変えるならば、行ってこい。どの道、世界の命運の『鍵』はお前が持っているんだから」


「親父……」


 この言葉にジャスティスは小さく笑うと――。


「本当はその台詞を言ったかったんだろ?」


 なんて緊張感をなくしてしまう最低勇者。流石だ。この流れ――風の精霊とのやり取りでも見たが、このような非常事態であっても、親子の感動的シーンであってもぶち壊してしまうとは。


 急に現実に戻されてしまったディケオ。彼が注意をしようとするが、それを先にユーリスがお仕置きしてしまう。こめかみに拳を当ててのぐりぐり攻撃だ。


「ジャスティス、空気を読みなさいな。空気を」


「いたたっ!? ご、ごめん! ごめんってば! お願いだから、手を離してよ、母ちゃん!」


 そんな親子を見て、マリスは思わず小さく笑った。羨ましい、とは思う反面微笑ましいと思えた。何もそれは彼女だけではない。クロウやイーザもである。


 笑うマリスたちにジャスティスは「マリス!」と声を上げる。


「笑うヒマがあるなら助けてくれぇ!」


 その場にジャスティスの悲痛の叫びが聞こえるのだった。

グレイントースト・・・これまでにおいて度々登場してきたこの世界の発酵していないパンみたいなもの。これの登場は今回が最後となるが、あえて言わせてもらおう。描写はないが、作中のどこかでジャスティスがジャムを塗ったグレイントーストをマリスと食べています。さて、それがどこなのかは秘密です。


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