8話 ジャスティスは割とせこいことをする
このようなことがあってたまるものか。ジャスティスは口を尖らせながら、マリスが選んだ依頼書のある『依頼の村』へと向かっていた。協会があった『案内の町』から一つ山を越えたところにある村である。
「どういう場所なんだろう?」
地理関係は全くと言っていいほど詳しくない二人は木の上で羽を休めているクロウに訊ねた。マリス曰く、彼は説明書だそうだ。本人は案内役と断言しているのだが。
「『依頼の町』は至って普通、平凡な町です。強いて言うならば、中継の町でしょうか」
「うわ、何もなさそう」
「一応、レストランや宿屋もあるんですけれどもね」
「だとしても、問題は金だ、金。ご飯に関してはそこら辺に生っている木の実で過ごせばいいんだろうけれども」
「なんだ、野宿でもいいじゃないか」
マリスは野宿でも一向に構わないらしい。いや、それ以前にジャスティスのもとに辿り着くまで宿屋を使わなかった、と発言をする。
「よく襲われなかったな?」
率直な感想。魔族はもちろん、盗賊や変態だって道を歩いているのに。
――そもそも、こいつはどこから来たんだ?
見た目からして、南部にある『南の国』辺りの顔立ちをしている。髪の毛も青い。そちらから来たのだろうか。などと考えているジャスティス自身は自分たちが今いる国『中央の国』生まれの育ちである。
「何も問題はなかったぞ。どうせ、ボクたちはお金を持っていないんだから野宿でも構わないはずだろ」
色々と考えていれば、マリスは勝手に野宿にすると決定しようとしていた。いいや、それは困る。ジャスティスにとっては困る話なのである。彼は反対する。
「俺は嫌だ」
「なんでだよ。経済的じゃないか」
「地面に寝るだなんて考えられねぇよ。不衛生」
「一丁前に潔癖かよ。勇者のくせに」
「勇者が潔癖で何が悪い?」
このまま放置すれば、けんかに発展するだろうなと目論んだクロウは二人の間に入った。
「ジャスティス殿、これから旅をする中で町や村に巡り会わないときだってありますよ。だからこそ、こうしてマリスの言うように野宿を経験するべきだと私は思います」
「えっ、そうなの!?」
「いや、普通に考えてそうでしょ。基本歩きなんだからさぁ」
「えぇ、嫌だなぁ……」
ジャスティスは盛大にため息をついた。その直後、道の向こう側から悲鳴が聞こえてくるではないか。何事かと気になる二人と一羽はそちらの方へと向かう。悲鳴の発信源はそう遠くはなかった。そちらの方へと来てみると、そこには小汚い太った中年男性二人にどこか連れ去られようとしている少女がいたのだ。
ここで動いたのはジャスティス。一人の男に向かってドロップキックをかました。
「な、なんだ、お前は!?」
華麗に蹴りが決まったことが嬉しいのか、どこか頬を綻ばせながらも「俺が誰だって?」とカッコつける。遠巻きで見ていたマリスとクロウはばからしいな、とは思うし、手助けをしようとも思わない。彼女たちができることはジャスティス、なんか頑張って。
なんとも他人事である。元より、魔族側にいるマリスたちにとって、この状況はどうでもいいものであるから。
「俺の名前はジャスティス! 世界中の神官たちが聞いたお告げで『鍵』のかかった魂を持つ――」
自己紹介を終える前に、蹴りを食らった男が復活し、拳骨を食らわせた。痛そうな音がその場で鳴る中、「間に入ってくるなよ」とジャスティスは少し怒り気味。
「人の自己紹介は最後まで聞けよ! 正義のヒーローの自己紹介を聞くのは悪役の鉄則だろ!?」
男たちのやることに不服を申し立てる自称正義のヒーロー、にはあんまり見えない。しかし、そのようなことはマリスたちだけでなく、彼らにとっても、どうでもいいことなのであって――。
「正義のヒーローなら、不意打ちなんてやったらダメだろ」
ダメ出しを食らう。正論を言われた。それにジャスティスは言葉が詰まったような表情を見せた。
「というより、邪魔するなよ坊主。俺たちは俺たちで忙しいの」
少女をどこかへと連れ攫おうとすることを男たちは再開し出す。再び彼女は悲鳴を上げ出した。そんな四人のやり取りを見ていたマリスはどうして、あの子は隙をついて逃げないのだろうか、という疑問を抱いていた。囮が、なかベラベラ言っていたのに。
「いいから、止めやがれ! この変態ロリコンどもが!」
少女の手を掴んでいる男の顔面を殴った。そのお返しに、と二人掛かりでジャスティスをリンチにする。見ていて痛々しいな、と思っていたマリスはうろたえているとしている少女に手招きをした。彼女は隙をついてそちらの方へと逃げ込む。
いつの間にか少女がいなくなったことに気付いた男たちは、更なる腹いせに殴りかかろうとする。だが、その手は止められてしまった。いや、手だけではなく、体中が動かない。
「なんでっ!?」
その理由を殴れ、蹴られていたジャスティスはわかった。というよりも、見えていた。マリスの魔法であるつる性の植物が。
「……おせぇよ、マリス」
それらは、もがこうとしても、どんどん絡みついていく。ぎちぎちに空中で捕まった状態で決着はついた。そして、その手柄はいかにも自分であるかのようにして、してやったりの顔をする傷だらけのジャスティス。
「お前っ、何をした!?」
「ふふふっ。そんなこと、おっさんたちが知る必要などないっ!」
誰が教えるものかと、どさくさに紛れて男たちから財布を盗み出す最低勇者。そういうことはしてはいけないという天罰なのか。二人の体重に耐えきれなかった植物が千切れてしまい――ジャスティスの上に落ちてしまった。
気絶する三人組。それに対してマリスとクロウは大きなため息をつくしかなかった。