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オイシイところをいただきます  作者: 池田 ヒロ
第十三章 選ばれし者だって子ども
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85話 マリスはジャスティスの○○を見てびっくりする

「あ、あんたは……!」


 突然中に割って入ってきた一人の旅人の男性。いや、一人だけではない。一歩後ろには中年女性がこちらをにこにこしながら見ていた。一体誰なんだろうか、とマリスとクロウ、そして邪魔をされて苛立っているエイムが彼らを見る。


 ジャスティスはそんな彼らを見て狼狽をしている。ということはだ、この二人とは知り合いと見れる。実際にそうなのかもしれない。この男性、どこか彼に似ているのだから。


「ジャスティス。その人たちって、もしかして――」


 まさかと言わんばかりに口を開こうとすると、ジャスティスが「ああ」とそのもしかしてがアタリのよう――。


「どちら様ですか?」


 緊張感あるその場が一瞬にして崩れ去る。知ったかぶりしているんじゃないよ、とこの場で大声を上げたい気分だった。しかし、ジャスティスは知らないと言っているが――先ほどはあの男性、彼のことを名前で呼んでいたはずだ。名前を知っていたはずだ。初対面ではないはずだが、この期に及んでしらをきるつもりか。ジャスティスは「誰?」とどこかわざとらしい言い方をしているようである。


「俺を知っているんですか?」


「おいおい、俺たちを忘れたとは反抗期かよ」


「えぇ……本当に見覚えがないんですけど」


 そこまで言ったときだった。一歩引いていた女性がにっこりとした笑顔を絶やさずして「ジャスティス」とこめかみに拳骨でぐりぐりと地味に痛いやつをやってのける。


「おふざけはそこまでにしなさい」


「いたたっ!? 痛いっ! 痛いっ! ごめんなさい、母ちゃん!」


 やはり、わざとだったか。この男女の旅人はジャスティスの両親。ぐりぐり攻撃を止めてもらった彼は涙目ながら自身のこめかみに手を当てて小さく悶絶している間、母親は「お父さん」と傍観して苦笑いをしていた男性に声をかける。それにその男性――ジャスティスの父親は片手に巨大な火の玉を出現させた。


 それを撃ち放つかと思えば、形を変え出す。これは見覚えがあった。No.A戦で見た水のヘビと同じような状況。そう、火の玉から火のヘビが生まれ出す。


「自分の息子が苦戦しているんだ。手助けをしてあげよう。――お母さん」


 ゆらめく火のヘビに向かって母親は雷魔法をまとわせた。これぞ、二人の魔法使いがいるからこそできる合わせ業。そのようなことができる者など、世界で少数の者なのに。彼らはそれを平然とこなす。


 紅炎ほのおにまといし紫雷いかずちは威嚇の証。


「さて、魔王軍の四将だっけか? きみは俺たちと戦うとあらば、これをぶつける。このまま何もしないで魔王がいる場所へと帰るとあらば、攻撃はしない。どうする?」


 ジャスティスの父親は余裕たっぷりにエイムに話しかけた。だが、そこで折れるほど、彼の心変わりは激しくない。


「誰が人間に屈服するものかっ!!」


 望みは人類滅亡。歓喜するは魔族の世界。この世から人間一片たりともなくなってしまえ。


 圧倒的な威圧にも怖けつかず、火と雷のヘビに向かって爪を立てる。流石は魔王軍四将がNo.Vの席を引き継いだ者よ。その鋭い黒色の爪でいとも簡単に普通の魔法よりも上級である合成魔法を打ち消すとは。


 これにジャスティスの両親は表情を引きつらせた。


「ひえっ、きみは強いなぁ。これはおじさん本気を出さないと、死にそう」


「お父さん、最初から本気を出してくださいな」


 今度は、と先ほどよりも周りを驚愕させるような魔法を見せてくるかと思えば――そうではなかった。二人とも植物魔法でエイムを拘束した。こちらも合体させた業のようで、ちょっとやそっとでは抜け出せそうにない。体が自由に動かせない彼は「放せ」と唾を飛ばす勢いで怒声を上げた。


「クソっ!」


「おいおい、あんまり暴れるなよ。余計絡まるんじゃないか?」


 なんて言うジャスティスの父親は地面に転がっているエイムを傍観している。止めを刺そうとはしない様子で、彼と話すためか。しゃがみ込んだ。


「落ち着けよ」


「落ち着けだと!? だったら、こうして生き延びる選択はしないっ! 早く、俺を殺せ!」


 そのために戦いに割って入ってきたんだろう? そうでなければ、このようなことはしないはず。何度も見てきた、人間どものその見下すような目。これだから、嫌いなんだ。自分が優位に立てば、下の者をばかにしたような――憐れみを見るような煩わしい視線を送ってくる。


 エイムは歯軋りをする。


「人間の奴隷となるくらいならば、ここで自決でもしてやる」


 殺す気がないならば、と舌を噛みきるつもりか、大口を開けて勢いよく歯を下ろそうとするが――ジャスティスの父親に剣の鞘を口の中に突っ込まれた。そのせいで、死ぬに死ねない。


「勝手に死なれては困るんだけどな? そりゃ、確かに自分の子どもを殺そうとするやつを生かすなんて考え方はおかしいけど……ジャスティスだしなぁ」


「今聞き捨てならないことを言いやがったぞ、このクソ親父」


「ジャス、クソ親父じゃないでしょ。お父さん、でしょ」


 またしてもジャスティスは自身の母親からこめかみぐりぐり攻撃を受ける。これに再び悶絶する彼は今にも泣きそうである。


「俺たちが訊きたいことは一つだけ。残りの四将の居場所を吐け」


「……ほんはほほひひはへへは、ひふんほはひひひへほ(そんなことを訊きたければ、自分のガキに訊けよ)」


「どういうことだ?」


 口を塞がれているエイムではあるが、それを普通に理解できるのか――いや、できていない。もう一回入ってくれない? とお願いしているぞ。訊くぐらいならば、それを止めてあげればいいのに。


 エイムが口の中に鞘を突っ込まれた状態でもう一度言ってあげようとする律義さにクロウは痛まれないな、と思いながらも「あの」と声をかける。


「四将のことならば、私たちも知っていますよ」


「……えっ? こういうのって、下っ端とかが知っていそうな情報なのに?」


「知っているも、何も彼自身は前の四将の埋め合わせですし。残りは一人だけです。その一人は魔王の城にいるということは確実ですので」


「残り一人!?」


 クロウの言葉に驚いたようにして、目を見開いた。


「えっ!? 四将って、まだじゃあ?」


「まだどころか、これで四戦目だし」


 ジャスティスの答えに父親はどこか恥ずかしそうにして、両手で顔を覆う。どうも、情報が入れ違いか何かで勘違いをしてしまっていたようだ。


「うわっ、恥ずかしぃ!」


 そう油断した隙に、エイムは鞘を吐き出すと、舌を噛みきって――絶命してしまった。これにより、情報を聞き出せなくなってしまう。そのせいで、自身の妻からジャスティス同様にこめかみぐりぐり攻撃を受けるのであった。

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