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オイシイところをいただきます  作者: 池田 ヒロ
第二章 選ばれし者であるということを証明してみせよ
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6話 ジャスティスは己におかれた状況を把握する

 勇者、もしくは救世主の定義とは何か。そう考えるまでに至るほど、ジャスティスの弱さは浮き彫りになっていた。自分たちは元より幻滅しているからいいけれども、彼に期待をしている人たちが見たならばどうなるのだろうかとマリスとクロウは旅立ち三日目にして思う。


「マリス? そっち側に魔族っている?」


 こんなにも物陰に隠れながらびくびくとしている時点で、魔王からの使命が面倒に感じてくる。ああ、力を解放するという条件さえなければ、すぐにでも殺せるのにな。マリスは鼻でため息をついた。


「いないから、普通に歩いてよ。ボクたちが恥ずかしいじゃないか」


 今、この場にいるのは自分たちだけではあるにしろ、道は道である。だから、誰かとすれ違うことはあり得るのだ。当たり前。そのため、マリスは羞恥心に駆り出されていた。なぜにこんな弱っちいやつと共に行動をせねばならんのだろうか。なぜにこいつは『鍵』を持たないのだ。不満は募るばかりである。


「クロウ、ジャスティスのやつはどうしたらいいだろう?」


 用心深過ぎてちっとも前に進めやしない。


「このままじゃ、力を解放するどころか、『鍵』すらも見つけられそうにないぞ」


「そうですねぇ、困りましたねぇ」


 クロウもまたあの挙動不審さに頭を抱えている様子である。この状態で足を進めていると、神官たちに言われた王都に辿り着くまでどれほどの時間がかかることやら。


 何かいい方法はないか、しばらくの間頭を悩ませる。すると、とある提案を思い浮かべた。これならば、ジャスティスは強くなる上、お金も稼げるはずだから。彼はお金がないと言っていた。こんなゆっくり進行だと多額のお金も必要になってくること必至だし――。


「私にお任せあれ」


 クロウは翼を広げると、ジャスティスの方へとやって来た。それにほんの少しだけ肩を強張らせていたのは内緒である。


「ジャスティス殿」


「何?」


「『保安協会』というのをご存知でしょうか? 近くの町にあるのですが」


「……聞いたことはあるけれども……えっ、俺が入会しろと?」


 話が見えてくると、途端に眉根を寄せ始めてくる。それに入会することに何の不満があるのだ。強くなれて、お金も稼げる。一石二鳥ではないか。


 クロウは「どうされましたか」と訊ねる。


「何か不都合でも?」


「俺的には、ぱぱっと魔王を倒したい。ちまちまと雑魚相手に戦って経験積むのが面倒」


――雑魚相手って、あなたの方がよっぽど雑魚かと。


 言いたいことはあるが、そこは黙っておく。


「いや、ぱぱっと倒したいならば、なおさら協会に入会した方がいいと思いますよ?」


「いや、だからそこはマリスの魔法で――」


「これで何度目だ。いい加減にしろ」


 流石のマリスもキレる。当然だ、ここまでだらしない者としばらくの間共に過ごさなければならないのだから。こんな屁理屈捏ねるようなやつを勇者だの、救世主だの認めたくないのだから。


「これじゃあジャスティスに託した世界が泣くよ。それでもいいの?」


「いいんだよ。それでも。これは俺が望んだものじゃないから」


 もっともな話ではある。ジャスティスの発言には一理ある。世界に選ばれて、偶然にも『鍵』のかかった魂を持つ者としているだけ。ただ、それだけなのだ。


「望まないわけにしろ、ジャスティス殿の使命は何ですか? 世界を魔族の手から救うことじゃないのですか?」


「使命はどうだっていい。俺はただ、楽してオイシイ生活を望めたらば、それだけでいい」


 もう何も言えなくなる。


「そもそも、じいちゃん一人置いて来ているしな。足も目も悪いのに」


「だったならば、おじいさんのために戦うことは望まないのですか?」


「……戦う世界に俺は似合わないよ」


 鼻でそう笑うのだが、マリスは胸倉を掴むと「冗談じゃない」そう、一喝する。


「ジャスティスの羨望は戦わずして得られない世界だ。今のこのご時世に戦いから逃げる者は『死』あるのみなんだぞ」


 ジャスティスに戦え、と言ってくる。


「さもなくば、世界はきみの手によって滅びるだけだ」


「…………」


「ジャスティスが選ばれし者であるということを証明してみろ」


 その場にしばらくの沈黙が続く。ジャスティスは何かを考えてはいるものの、反応が読めなかった。ややあって、彼は小さく鼻でため息をつくと「悪かったな」そう、呟くようにして言う。


「弱っちい、臆病者で悪かったな。少しは改めるよ」


『戦う』意思を少しばかり見せてくれたようだった。どこか反省をした表情はある。それにマリスは手を引く。ジャスティスは立ち上がって「行こう」と一人と一羽を促した。それでも多少の怯えはあるようだった。頻りに辺りを見渡しつつ、武器のまきわり用の斧を構えているではないか。


 ようやく動き出して、クロウはマリスの肩へと乗ってきた。じっと視線を感じる。何か言いたげではあるようだ。


「なんだ?」


「いいえ。ただ、魔族側とおっしゃっていた割には人間らしいことを発言されていたので」


「だったら、安心しろ。ボクは人間の味方じゃない。あいつが人間の代表だと言われて、戦ったところで何も得る物はないと感じたから発破をかけただけだ」


「それは信じてもいいので?」


 その言葉にマリスは小さく口元を歪めた。


「……今更信じようが、信じまいがクロウはただの歴史的事実の傍観者にしか過ぎない」


 愁貌を見せるジャスティスに手の平を向けた。そして、その手を――彼を握り潰す勢いで拳を作る。


「人の時代が終わる瞬間を括目せよ」


 その言葉がジャスティスに届くことはない。

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