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オイシイところをいただきます  作者: 池田 ヒロ
第十章 常識に捉われない、非常識な選ばれし者
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64話 ジャスティスは知っていたけれどもバレる

 さて、『鍵』がある遺跡はどこへ行けばあるだろうか。魔族の王である魔王を葬るほどの力を封じ込めているような代物なのである。そう易々と見つかるわけがない、とクロウは言う。


 誰もいないような場所で「見つかるといいですね」とまるで他人事――いや、事実そうである。ジャスティスのことなのであるから。彼しか神様からその話を聞いていないのだから。


「……見つかるといいですねって、あっさりともなんとも言うなぁ」


「『始まりの島』と言っても、小さな孤島でも何でもない場所ですしね。これが意外にも広い」


「なんだ、クロウは初めて来たのか?」


 世界を旅していた測量技師だと聞いていたのだが、予想外の言葉に驚きは隠せないのか二人は目を丸くしていた。


「ここは対象外でしたしね」


「何つーか、クロウ自身のことを訊けば訊くほど謎が深まっていっている感じなんだよなぁ」


「それはどういう意味でしょうか」


 そのような風に思われているとは思わなかったらしい。クロウは首を傾げながらこちらを見てきた。


「別に私は謎めいた魔族ではないと思うのですが?」


「いや、俺としては十分に謎だよ。世界中を旅する測量技師だったり、クローズド・ポーカーに強かったり、鳥人間に変身したり……」


「確かにボクも気になるな」


 ぽつり、と呟くように言ったマリス。その発言がジャスティスの耳に拾われてしまう。


「クロウもクロウだが、マリスもだよな? あんまり、お前の正体を知らないし」


「だから言っているだろう? ボクは『鍵』のかかった魂を持つ者を見つけ出し、共に行動することだって」


「ふぅーん?」


 どうも、こちらから理由を問い質したとしても、その答えにあまり納得がいかないようである。ジャスティスは怪訝そうな表情でマリスを見てくる。これ以上あやしまれるのは危険だ、そのような空気を感じた彼女は「それよりも」と話を逸らすように島の奥の方を差した。


「そろそろ遺跡探しをしようじゃないか。船は一週間後だろう?」


「だなぁ……」


 探さなければならないことは十分にわかっているらしいが、動こうとしなかった。むしろ、動きたくないとほざいている。


「ていうか、クロウが上空から探してくれね?」


「自力で探しましょうよ。それでも『鍵』を探しに来た勇者ですか?」


「おうよ。楽な道を選んで『鍵』を探しに来た勇者様だ」


「久しぶりに言ってもいいですか?」


 クロウが何を言いたいのかはしばらくの付き合いのあるジャスティスはすぐにわかった。それ故に「言ってもなぁ」とあごに手を当てる。


「俺の反応もみんなの反応もたかが知れているじゃねぇか」


「だからこそ、久しぶりに言うんですよ」


「名前負けしているって?」


 そこはクロウが言うのでは、とマリスはさほど興味を失せたようにして一人と一羽を眺めていた。このやり取りもほんの少しは新しいかと思えたが、飽きる。それよりも、こんなくだらないやり取りをしている暇があるならば、遺跡を探しに行った方がいい。そう考えた彼女は独りでにその場から離れて町中を歩いていると――。


『遺跡行き乗り場』


 なんて書かれた乗合場を見つけた。そこには数人の者たちが遺跡へと送っていく何かを待っているようである。まさか、とは思いたい。マリスは彼らに声をかけた。


「あ、あの、ここって遺跡に行くんですか?」


「そうだよ。この島じゃ有名だし、なんだったら観光業に力を入れているよ」


「…………」


 もうすぐしたらば、遺跡行きの馬車が来るよと教えてもらった。これに何も言えないマリスは常識は信じない方がいいと頭の隅に置いておくことにした。いや、最初から置いておくべきだ。こっちには元より常識はずれのアホがいるのだ。


 とりあえずはジャスティスやクロウに報告した方がいいだろう、と踵を返そうとしたところで彼らがやってきた。この状況に一人と一羽は驚いた様子もなく「おぉ」と声を上げる。


「まだ馬車は来ていないみたいだな」


 そのことを最初から知っていた口ぶり。思わず、我が耳を疑う。


「知ってたのか?」


「知っていたって言うか、なんて言うか……」


 どう説明たらばいいのかわからならい様子のジャスティスであったが、クロウが一枚の広告を持ってきて見せた。


『古代遺跡ツアー、昔の雰囲気を楽しみませんか』


 島にある町が出している遺跡のツアーのビラだった。クロウは周りの人たちに聞こえない音量で「宿屋の部屋にありました」と衝撃的事実を告げてきた。


「なんだったら、宿屋のカウンターにも。町中にあるポスターにも」


「え」


「いやぁ、マリスだけ気付いていなかったみたいだから俺とクロウがドッキリを仕掛けてみようって話になって――あ、あれ? マリスさん? 何か、物騒な物が手元にありませんか?」


 絶対気のせいではない。マリスの手には氷魔法で形成した槍だった。


「知っているか? 人を刺すときの証拠隠滅を」


「ちょっ!? ちょい、マリスさん!? 俺殺したら本当にヤバいから!」


「殺しはしないさ。刺されてしばらく悶絶する場所に刺すだけ」


 なんて氷の槍を掲げてきた。それを静止するジャスティスであるが――あれ、これデジャヴ? と考えているだけでも二人の距離は縮まっている。


「悶絶する場所って、お前ぇ! それは下手すれば、苦しんで死ねと!?」


 マリスの目は本気である。それに自分が被害が及ばないように、その場から走り出した。彼女は刺すがために追いかけてくる。なんだったならば、どこまでも追いかけてきそうなほど。


 その後、ジャスティスがどうなったかなんてわかりやしない。ただ、とある団体の者たち曰く、青い髪に眼帯をした少女に引きずられている青年を見た、という噂があっただけである。

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