52話 ジャスティスはこういうときだけ共闘戦線が好きである
昼食を食べ終えて、五人と一羽は早速スカイハンターの捜索を始めた。依頼書に記載してある魔族の巣は湿地帯の西側付近。そちらの方へと歩を進めてるが、地面はぬかるんでいるために泥が跳ねる。
「うわっ……」
あまり好ましいと思わないのか、ジャスティスはしかめっ面を見せていた。
「こういうところで戦うのか」
「こればかりはね。一応勇者君たちには報酬を分けるよ。ね、イザイア」
「うっ……」
手伝ってもらっているのだから、という言質にイザイアは怪訝そうな顔を見せた。何かが気に食わないとでも言うような様子。
「ぼ、僕は認めないからな。お前が救世主だなんて」
「はいはい。ここで剣を抜いて戦う気にはならねぇからな」
戦う気満々のイザイアに、そういうことは一切気を向けないジャスティス。二人の温度差にひやひやしているのはマリスとクロウだけだが、他の二人は全く気にしていない。その精神的態度が逆にすごいと感心せざるを得ない。
そうこうしている内にレイシェルが「そろそろよ」と火花散らす勢いで視線をぶつけ合っていた二人にそう促してくる。
「だから、仲良くなりなさい」
「無茶を言うな、無茶を! 僕は絶対にそのようなことをするものか!」
「俺だってヤだよ。ずっと突っかってくるアホ相手したくないし」
「なんだと!?」
「あぁもう、さっきまでは真剣に話し合っていたのに面倒な二人だな」
互いの胸倉を掴み合う寸前ほどの緊張感にリリノは大きくため息をつく。
「全く、もぉ……。マリスたちが困っているじゃない」
肩を竦めつつも、マリスが苦笑いをしていると――彼らの眼前に巨大な翼を広げて威嚇するように鳴いている猛禽類が姿を見せた。この状況に誰もが硬直し、周囲にいる鳥たちは逃げるようにして飛び立つ。
「ひえっ!?」
唐突の登場にびっくりするのも無理はないだろう。ジャスティスは目を大きく見開いて、イザイアを盾にするようにする。それが気に食わないとして、彼は怒声を上げた。
「何をしているんだ!?」
「見てわからねぇのか!? お前の後ろに隠れているんだよっ!!」
「誰も現状を訊いてないっ!!」
「うるせぇな、事実だろうが!!」
「マリス! ばかたちは放っておいて、早く誘致しよう!」
こんなどうでもいいやり取りは無視して、自分たちだけで進めようと、レイシェルは言ってくる。それにマリスは大きく頷いて、手始めに炎系の魔法を撃ち放った。
しかしながら、場所が離れている場所にいるらしく、その魔法が当たる前に消えてしまった。それは炎系だけにあらずして、氷系や雷系と言ったものでも当たらない。範囲が広過ぎるからであろうか。
「と、届かない」
どうしようか、と焦りを見せながら肩の上に乗っていたクロウの方を見た。
「…………」
「…………」
一人と一羽の視線が合う。
マリスがこちらの方を見てきて、嫌な予感しかしなかった彼はその場から逃げ出そうとするも、足を掴まされて逃げることはできなかった。それどころか、他の者たちに聞こえない音量で「逃げるなよ」と念押しをすと――。
「行ってこいっ!!」
クロウをスカイハンターのいる方へと投げ飛ばした。なんとも強引か。そのまま逃げてもいいかとも思ったが、大型魔族の方へと向かうことにした。
渋々ながら近付いていくと、こちらに気付いたのか、また大きな声で鳴いた。自分の方を見る目は敵意をむき出し。今にも捕まえて丸飲みさせられるのか。その鳥型の魔族が翼を広げ、こちらの方へとやってこようとした。
もちろん、マリスたちはそのことに気付いている。
「クロウ!! こっちの方に来い!!」
マリスの声に導かれるようにして、クロウは五人の方へと逃げ込んできた。彼女はタイミングを見計らうようにして、手元を集中させる。スカイハンターに仕向ける魔法は風魔法。大きな竜巻を出現させてそれをぶつけた。その攻撃が怒らせてしまったのか、定かではないが狙いをクロウから五人へと変更する。
「来たぞ!」
スカイハンターを見据えて、各々武器を構えた。お互いをいがみ合っていた二人でさえも自身の得物を手にして待ち構える。
竜巻攻撃後、猛スピードでこちらへと来る魔族に対してたじろぎは見せてはいるものの、立ち向かわなければならないのだ。
「行くぞ、勇者!」
「言われなくても、わかっているっての!」
一人で片翼を狙うのはあまりにも無謀過ぎる。それ故に二人は左翼を狙う。レイシェルはマリスとリリノを守るようにしていた。
眼前に迫りくるスカイハンター。それに向かってジャスティスたちは刃を翼に当てるも――。
「チッ!」
皮一枚程度の手応えしかない。やはり、大きな魔族になると肉体は強靭的な硬さなのか。
「おい、イザイア! まだやるか!?」
「やるしかあるまい!? マリスにばっかり頼るわけにはいかないだろうが!」
「……なぁんだ、お前って案外いいやつじゃんよ」
「お前にだけは言われたくないね」
スカイハンターがこちらへと旋回して来るのを見て、二人は初めて意気投合する。大型鳥類魔族の姿を視界に捉えてにやり、と不敵な笑みを浮かべた。これで戦えないことはない。小さな攻撃ではあるが、それを舐められては困るとして彼らはそれぞれの武器を構えるのだった。
「かかってこいやぁ!!」




