4話 ジャスティスは自身にかけられた『鍵』を探す旅に出る
開いた口が塞がらないとはこのことか。突然行き倒れの少女を拾ったかと思えば、自分の家に神官がやって来て『救世主』の扱いをするこの始末。
「えっと?」
すべてにおいてどう処理したらいいのか。よくわからないこの現状にたじろぐのも当然だ。それは神官たちも察知はしている様子。
「先ほど、私たちが言った通りです。あなたはこの世界を救う救世主、言わば勇者です」
「いや、はいそうですかって納得すると思ったら大間違いですから」
「納得する、しない以前にあたって、あなたの使命はこの世界を魔族の物にしようとする魔王を倒すことです」
なんとも勝手な人たちだな、と若干キレ気味のジャスティスは聞かなかったことにでもしたかった。だからこそ、家のドアを閉めた。そして、マリスの方を見る。
「いやあ、悪いな。今日はどうも頭のオカシイ人たちに絡まれやすいんだ」
数十分前の自称救世主然り、自称神官然り。面倒事は嫌なものだ、と苦笑いをするも――。
「話を最後まで聞きなさいっ!」
急にドアを閉められたものだから、それが鼻に当たったのだろう。鼻の先を真っ赤にさせながら神官たちは怒声を上げてきた。
「あなたはこの世界を救わねばならないんですよ!?」
「そんな勝手言われてもなぁ。言うほど、俺は世界のために動く人間じゃないっスよ」
じっと、ジャスティスの緑色の目が神官たちを捉えた。その発言に偽りはないのである。誰かのため、世界のために自己犠牲をしたくないと思っているから。そのようなことをするくらいならば、今の生活である日銭を稼ぐ方を選ぶのだ。
「それに、『魔王を倒します』『そのためには世界中を周らなければなりません』ってどう考えても死ぬ確率が高いですし。人を襲う魔族たちと遭遇するじゃないスか」
「だ、だから、そうであろうとも、あなたの魂にかけられた『鍵』を開けなければならないんだ!」
「そもそも、なんで俺よ? 神様? 神様が俺に指名でもした? だとするならば、傍迷惑な話なんですけど」
是が非でも行きたくない、使命を全うしたくないと物申すジャスティスに困惑していると、今まで黙っていたマリスが「じゃあ」と口を開く。
「ボクがきみと一緒に『鍵』を探せばいいよ。元々、ボクには選ばれし者を探すことと、一緒にいることが使命だと思っているから」
「はあ?」
「これでもボクはそんじょそこらの魔法使いよりも有能だと自負はしているよ」
「えっ、いや、ちょっと待ってよ。俺が行かないという選択肢はないの?」
「言っておきますが、あなたのその先ほどからの発言は世界を敵に回す、魔王側につくと言っているのと何ら変わりないですからね?」
「えっ、何? この、俺が悪役みたいな雰囲気」
事実、そうだろう、とジャスティス以外の者たちは心中でそう思う。現在、世界中で人類平和のためにと自称勇者たちが己を、『鍵』がかかった魂を持つ者と信じて止まずに『鍵』を、魔王を倒す旅をしているのだから。これは誰かがやればいい、という話ではない。彼自身が世界中の人々のために立ち上がらなければならないのだから。
神官たちは『鍵』を探し出し、魔王を倒す旅をするように、と諭してくる。これはジャスティスにとって不利益なものではない、と伝えながら。
「……でもさぁ、下手すれば死ぬんだろ?」
それでも自分が一番だ、とでも言うようにして、拒み続ける。行くだ、行かないの水掛け論争に痺れを切らしたのがマリスだった。
「いい加減にしろっ!」
まさか、魔王が恐れ抱く者がこんなにも脆弱な人物だとは思わなかった。まさか、ここまで自分大好き人間だとは思わなかった。人間というのは弱くても誰かのために死に逝く生物じゃなかったのか。
「きみは人間なのだろう!? 何をそこまでして『鍵』の解放を渋る!? きみは他の人間が大事じゃないのか!?」
なぜに人間の敵側である自分がこのようなことを言っているのだろうか。頭が本当にオカシくなりそうだった。それ以前に、こういう発破掛けは神官たちがするべきじゃないのか? それともあれか、彼らは説得力が皆無なのか。だとするならば、なんともお頭がお花畑な連中よ。この世の人間は自分が駆逐する対象なのに。そのようにののほんとしていられる神経が羨ましいものだ。
などとマリスは言いたかったのだが、それを堪えて――。
「――はっ、なんとも腰抜けなやつ。これからきみのことを腰抜け野郎と呼んでやろうか」
行くことを渋るジャスティスに挑発を仕掛け始めた。これに彼は反応を見せた。
「なんだと、自分は腰抜けじゃないってか?」
「ボクはこれでもきみよりも強い。それだけは断言できる」
弱い、弱い。肉体だけならず、精神も弱かったか。何をそんなにして神はこいつを選んだ? これこそ、世界で一番不思議な話だと思わないか。なんせ、ここまで残念な勇者を見たことがないから!
「こんな勇者ならば、この世界はもう終わりだね。魔王さ――余裕で人間を滅ぼすんじゃないの?」
腰抜け野郎なんて、手出ししないでやられるだろうね。マリスの言われように腹が立っているのか、ジャスティスはこめかみに青筋を立てていた。
勝手にやって来て、自分は選ばれし者を見つけて共に過ごすと言ってくる訳のわからない眼帯少女。何より神官たちに至っては玄関に突っ立ていて、「行く」と言うまでいるようだし。更には自室へと行ったはずの祖父に至ってはこちらに顔を覗き込ませて助ける選択肢を持たないようだし――。
「あーあ、せっかくボクが腰抜け野郎の旅のサポートをしてあげようと思ったのにな。とんだ足労だよ。ご飯も……ああ、不味かったな」
よくあんな物を食べようと思ったね、とマリスの発言に「上等だっ!」と、ジャスティスは指を差し、テーブルの上に足を乗せた。どうやら我慢の限界の様子。
「そんなに言うんだったら、俺の魂にかけられた『鍵』とやらを見つけ出して、クソ魔王を倒してやらぁ!!」