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オイシイところをいただきます  作者: 池田 ヒロ
第七章 覚悟を決めろ、選ばれし者よ
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47話 マリスは守られている

 No.Vの言葉にジャスティスとマリスはそちらに注目した。彼女を守るようにして抱きかかえている一人の鳥人間。じっとクロウと呼ばれた人物は彼を見つめる。


「私はマリスの案内役ですが?」


「魔王様の裏切り者めっ!!」


 空の覇権を握りしめてクロウたちの方へと飛んでくる。その攻撃に当たらないようにして、同様に黒い翼から一本の羽を取ると――灰色の羽の剣のような形へと変えて、それで防いだ。強度も変わらない様子。


「なせだ!? なぜ人間側に!?」


 ありえない、としてNo.Vは忌々しそうな顔を見せながらも剣を揮う。もちろん、クロウだって負けていられない。だが、マリスを守りながらは手厳しいと心の中で思っていた。なんとかして、倒す方法。自分では不可能。それならば、と――。


「ジャスティス殿、武器を握りなさい!! あなたがするべきことは何ですか!?」


 少し離れたところで茫然と剣戟を見ているジャスティスに向かって声を張り上げた。今の彼ならば、状況を理解して動いてくれるはず。そう信じ――た自分がばかだった、と後悔する。こちらを見ていた彼はクロウの声に気付き「え?」と困惑した様子で答える。


「お前が戦っているし……つーか、クロウって絶対強いだろ」


 本気のきょとんとした顔を見せられた。何を言っているんだ、こいつはと。それは自分なのか、はたまた彼なのか――どうでもいいが、このようなときでも駄々を捏ねる勇者とは。流石最低。先ほどのやり取りで怖けついたのか。本当にどうしようもない、と頭を抱えたいほど。いや、今そうしたら危険だからしないのだが。


「何を言っているんですか!? それでも……勇者なのが悔しい!!」


 お馴染みの言葉を言いたくても正論過ぎる答えが返ってきそうなのが余計に腹が立って仕方がない。クロウはマリスを守りながら、迫りくる剣撃に耐えながらジャスティスを咎めたい気分になる。


「私のこの状況が見えませんか!? いくら私が人型になれると言っても限度があるんですよ!?」


「あぁ、制限時間三分とか?」


「いや、そういうのとかじゃなくて……って、見てわかるでしょ!? 私はマリスを守りながら戦っているんですよ!?」


「止め頑張れ!」


「ジャスティス殿!?」


 もういっそのこと、No.Vがやっつけても構わないと思うようになってくるクロウとマリス。


「あなたは本当にクズじゃないですか!!」


 我慢の限界、と言ったところか。クロウもまた翼にあった黒い羽を飛ばしてくる。その強度はもちろん空の覇者と同様の物であることには間違いないだろうから――逆鱗に触れてしまった、と少しばかり後悔するジャスティスは羽の雨から避けた。更に、逃げた先には灰色の羽、No.Vの攻撃が待っていた。


「ひえっ!?」


 的確に狙い撃ってくるものだから、悲鳴を上げて逃げざるを得ない状況に。木に隠れても幹を切り倒してくるほどの大きさを飛ばしてくるし――こうなってくるのであれば、ジャスティス自身もあぁもう、と嘆きを言うしかない。自業自得だが。


 ひいひい言いながら逃げているジャスティスを見てNo.Vはばかにしたように笑い声を上げた。どんな勇者であるかと思えば――本当に世界を救う気があるのかわからないような人間がいると見た。


「まただ」


 これらに負ける気はしない、と嘲笑う。


「また、今回の勇者とやらも前回同様に死ぬだろうな?」


「死なせる気ですか? 『鍵』がかかりっぱなしのあの魂を無視して」


「いいんだよ。死んだって。だって、ここにはマリスがいるんだから」


 魔王がマリスに課した使命は『鍵』のかかった魂を持つ人間の力の解放とその人間の殺害。一方でNo.Vが魔王から課せられた使命は『信念の器』及び、『風の魔石』の破壊に加えて彼女が任務に失態があればの尻拭い。自分たちの使命を裏手に取ることだってできる。


 そう、たとえば――その選ばれし者であるジャスティスを自分が殺害する、ということ。


「任務中に歯向かってきて、勢い余って殺したと言えば魔王様だって納得するはず! そこは貴様の落ちどころだ!!」


 マリスは何かに気付いたようにしてジャスティスの方を見た。彼の目の前には空の覇権。それと同時にクロウはNo.Vの押しに負けて飛ばされた。その衝撃で彼女も地面に転がる。彼は目の前に歩み寄ってくる。


「マリス!?」


 急いで駆け寄ろうとしたクロウであるが、灰色の羽が体中刺さってしまい動けなくなってしまう。


「人と魔族は永遠に相容れることはできないのだよ」


 それがこの世の運命。それが人として、魔族として生きてきた者たちに課せられた呪い。『鍵』のかかった魂の勇者はこちらが殺す。だから、マリスも大人しく死ねばいい。大人しく魔族でない、ただの人間として死に逝けばいい。彼女に向かって灰色の羽の剣を掲げたときだった。


「じゃあ、クロウはどうだって言うんだよ」


 No.Vの背後から嫌な気配がした。思わず、背筋が凍りそうなほどの低い声音。人間の声であるには間違いないのだが――ここまで恐怖心あふれる思いをしたことがあるだろうか。


 否、ない!


 自分の命が危険と察知したNo.Vは背後にいる者から先に始末しようと振り返るも――。


「お前、目先の欲だけで動いているよな?」


 尻目で見えた、後ろにいた人間。飛ばしていた羽で受けた生傷が見えて痛々しい。それでも、これまで見てきた彼らとは明らかに違う目付き。その視線がある意味での硬直魔法ではないだろうか、と思うほどの威圧感がある。


 それでも負けてたまるか、とNo.Vが抗おうと空の覇権の刃を向けるが先か、ジャスティスが翠風を突き刺してくるが先か。答えは簡単。


 同時である。両者共にその場に崩れた。


 しかしながら、ジャスティスだけは気迫だけで立ち上がろうとしていた。そんな彼にマリスは駆け寄って急いで回復魔法を当てた。一方でNo.Vは起き上がれそうにない。動くことすらもできない。なぜならば、翠風で心臓を一突きしているから。


 No.Vはジャスティスの手によって倒れたのだ。

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