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オイシイところをいただきます  作者: 池田 ヒロ
第七章 覚悟を決めろ、選ばれし者よ
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44話 ジャスティスは流石の悪徳勇者である

 対峙するは魔法すらも通さないとする灰色の羽の剣、空の覇権(アラ)を持つNo.V、そして寝起きで少しいい加減なのか、地面に突き刺したままの薄い緑色の刃を持つ槍――翠風すいふうを持つジャスティス。双方共に視線をぶつけ合っている。


「貴様は『鍵』のかかった魂を持つ人間か」


「長ぇな。時間稼ぎのつもりかなんかは知らねぇが、そう言うよりは『勇者』って呼んだ方が時間の無駄にはならねぇぜ」


 これより、眼前にいる敵と戦わなくてはならないことを十分に理解しているのか、ジャスティスは突き刺さった槍を引き抜こうとするが――。


「あれ?」


 なんとも軽い声がその場の緊張感を少しだけ破壊した。


「どうした、『勇者』よ。私と戦うのだろう? さっさとそれを抜かないか」


 どうやら、No.Vは地面に突き刺さったままの翠風を引き抜くのを待ってくれている様子。こういうときだけ彼がその性格でよかった、とマリスは安堵しているが――いや、そういう場合ではないようだ。


「あっ、ちょっとだけ待っていただけますか?」


「わかった」


 わかってくれた。本当に待ってくれているようで、空の覇権を地面に突き立てて腕を組んでじっとジャスティスの方を見ている。一方で彼はというと、槍を引き抜くことに必死なのか、顔を真っ赤にさせて引っ張っていた。


「あぁ、くそぉ。おい、マリス。お前、ちょっと手伝え」


「えっ? ボク?」


「勇者よ、それならば、私も手伝うぞ」


「は?」


「おお、助かります! おう、お前こっちの方を持ってくれよ」


 ジャスティスに促されて、マリスとNo.Vは槍の柄を掴んで、彼と同様に引き抜くために引っ張る。だが、あれ、なんかおかしいぞと困惑する。自分たち、敵同士だよな、と。


 三人の力を合わせてようやく引き抜くことができた翠風。薄い緑色の刃が姿を見せる。それに異常がないことを確認すると、ジャスティスはNo.Vを指差した。


「あぁ……っと、えっと。うん、お前は誰だ!?」


 状況が状況だったなだけにグダグダ過ぎる展開である。これにマリスとクロウはたじろぐ。だが、それをものともしないのが敵対するNo.V。彼は地面に突き立てた空の覇権の柄を握る。


「ふっ、私は魔王軍四将の一人である……あ?」


 名乗ると同時に引き抜こうとしたのか、片手では引き抜けない様子。ならば、両手で――とやっても抜けない事実がそこにあった。ジャスティス同様に顔を真っ赤にさせながら試みてもやはり抜けません。


「……ぁっれぇ? ぉかしいなぁ」


 引き抜けない事実を恥ずかしそうにしていると、ジャスティスが小さく手を上げて「じゃあ」と言う。


「そちらが引き抜いている間に俺はあなたに攻撃しますね」


「いや、そこは手伝うところだろ!?」


 流石はジャスティス(名前負け勇者)。助けてもらった恩を仇で返すとはこのことか。


「えっ、だって。ねぇ。千載一遇のチャンスですよねぇ? そちら、魔王の幹部っぽい人ですよねぇ?」


「だったら、私だってさっきは同じような状況だろうが!」


 いいから手伝え、と言ってくるNo.Vにジャスティスは駄々を捏ねては――。


「ていうか、人に対して頼むときの態度を知らないわけじゃないですよねぇ?」


――最低だろ、こいつ!!


 ジャスティス以外の二人と一羽は心の中でシンクロする。先ほどまで仲割れしていたというのに。


「ほらほらぁ。人に頼むなら、その足を着けているところに頭を着けたらどうですかぁ?」


 翠風を肩に担いで、これが世界に名を轟かせる勇者としてあるまじき発言を繰り出してくる。あまりの態度の悪さにマリスは「おい!」と言ってきた。


「この状況、どう考えたってきみが勇者には全く見えないんだが!?」


「ほざけ、マリス。今更なことを言ったってしょうがないだろ? 受け入れろよ」


――受け入れたくないわ、世界が託したこんなやつなんて。


 まだ頭を下げるといった行為をしていなかった (いや、しなくてもいいが)No.Vは堪忍袋の緒が切れたのか「ふざけるなっ!!」と怒声を上げた。


「『勇者』という称号は誰よりも『勇敢』であり、誰にでも『優しさ』を持つ人物のこと!」


 心なしか、不穏な空気がその場を漂わせる。地面に刺さった空の覇権はお構いなしの状態だ。


「それを貴様は堅実的にやり遂げようとしないなんて、笑止千万!!」


 怒りに任せて、灰色の翼を羽ばたかせ、羽を舞い散らせる。


「『勇者』として腐った貴様を私が倒してやる!!」


――趣旨が変わってきている!?


 もはや、どちらが悪なのかさえわからなくなってきたマリスはその場で頭を抱えるしかなかった。

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