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オイシイところをいただきます  作者: 池田 ヒロ
第六章 選ばれし者に相応しい武器を
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41話 マリスは苦しむことになる

「ヘイヘイ、ヘーイ! 偽者だかなんだか知らねぇけど、救世主様を前にして調子こいてんじゃねぇぞ」


 薄い緑色をした刃の槍を持つジャスティスはマリスの幻影に向かってそう言うが、彼も彼で大概であるというツッコミはしない方がいいだろうか。


「貴様っ、それは!」


「知らねぇ。でも、さっきのお前の言葉聞こえたぞ」


【マリスは殺す】


 殺すだって? 誰を? マリスを? 偽者風情が彼女を殺すだって?


 その言葉はジャスティスの心の奥底から何かがたぎってきているのがわかった。とてつもなく、腹が立つと思った。今すぐにでもそれを実行しようとした幻影を消したいと思った。


「だから、なんだって言うんだっ!」


 二人の武器がぶつかり合う。改めて幻影を見ていると、似ているようで似ていなかった。まるで偽者は偽者らしく虚勢を張っているような感覚に陥る。


「マリスは弱い! 弱過ぎるんだ! それはなぜかわかるか?」


 ここまでに力は強かったか、それとも偽者らしい相対的とでも言うべきか。リーチの長い槍を持つジャスティスに一切臆することもなく、受け流して攻撃を仕向けてくる。


「ジャスティス!! 貴様がいるから弱いんだ!!」


 慣れない武器の扱い。ジャスティスは体勢を崩してしまうが、マリスだけは、と彼女を守るようにして槍で防御した。今にも仰け反りそうな勢いではある。


「だから、マリスは本来の力を発揮できないのだよ。だから、ボクがマリスに代わってきみを殺す」


「……はっ、殺せるなら、殺してみろ」


 完全に自分の方が負けそうな勢いなのに、余裕の表情を保っていた。それが気に食わない、と幻影は言う。


「だったら、殺してやるよ」


 すっと、幻影は眼帯に手をかけた。そこから青色の前髪の隙間から覗かせるのは人の目ではなかった。真っ黒な空洞の奥にあるのはあやしく光る魔法陣。その眼を仕向けられたジャスティスは背筋が凍ってしまう。直感でわかる『死』という物。


 右手に土の剣、左手には見たこともない禍々しい魔法弾が形成される。


「苦しみを一生味わう呪いだ。これを受けた者は、いずれ生きるという選択よりも死ぬという選択を選びたがるだろう」


 だから、死ねと言う幻影はそれをジャスティスに向けて撃ち放とうとするが、それはできなかった。なぜなら、彼の後ろにいたマリスが同様の魔法弾を向けて放っていたから。危険ともいうべき光に包まれるそれは「何をしている!」と苦悶の顔を見せる。


「マリスがしたのは――」


 マリスもまた眼帯を外し、同様の眼を見せていた。


「だからなんだ。誰にもこいつを殺させやしない!」


 構わなかった。目の前でジャスティスが死なれるよりかは。ここで彼に守ってばかりはいけないと考えていた。マリスの首にある青色のペンダントはきらり、と光る。


「たとえ、ボクにもその苦痛が訪れようと!!」


 決意あるその目に押し負けたかのようにして、魔法弾の光に飲み込まれた幻影は消えてしまった。抑え込まれていた力がなくなったせいでジャスティスはその場に座り込む。それと同時に薄い緑色の刃をした槍はあの筒状の物と風の魔石に戻って床に転がっていた。


「お、終わった?」


「二人とも!」


 心配をしたクロウは二人のもとへとやってくる。不安そうにジャスティスの方を見るも、彼はマリスの方を見た。彼女は自身の右目を見られたくないのか、手で隠している。


「マリス」


 何を言われるかが怖くて、そちらを上手く見れそうにない。それでも返事をしなければ、ならないとして「何?」と挙動不審ながらも返事をする。


「助けてくれてありがとう」


 頭を下げるジャスティスに硬直する。そのようなことを気にしていない彼はマリスに手を差し伸べた。


「よくわからないけどさ、俺のためにありがとうな」


「え、あ……う、うん」


 その手を握ったとき、マリスの胸の奥は少しだけ絞められるような気持ちに陥る。なんだろうか、この感情は。この気持ちは。苦しいと思う。物理的ではない。なんと言うべきか――罪悪感?


 手を離して、自身の胸を押さえつけるマリスをクロウはじっと見つめるのだった。

○次回章予告○


『第七章 覚悟を決めろ、選ばれし者よ』


『信念の器』及び、『風の魔石』を手に入れたジャスティス一行は一度、地上へと戻った。


 マリスが少しばかりその遺跡の仲を一人散歩していると、彼女の前に現れたのは魔王軍四将が一人の魔族。彼は魔王に忠実ならば、ジャスティスが持っている『信念の器』と『風の魔石』を奪うか壊せと指示を出してくる。それを聞いた彼女が下した決断とは……?

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