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オイシイところをいただきます  作者: 池田 ヒロ
第一章 それでも選ばれし者か
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2話 ジャスティスはオイシイ生活をしたいと考える

 今日一日分の日銭を片手。もう片方には金属でできた蓋付きの容器を手にして、青年は町中を歩いていた。今、世間で騒がれているのが世界の選ばれし者のことについて。だが、彼にとってはそんなことはお構いなし。気にしないから。


 そちらよりも、今日明日の晩ご飯が重要だ、とばかり考えているようだ。さあ、早いところ家に帰って、明日に備えて寝よう。明日もまた仕事があるのだから。


「あーあ、働かない生活したいなぁ」


 独り言のようにして、呟く青年の前方では何やら騒がしさがあった。自分とは反対方向へと行く者たちは怪訝そうな表情をしている様子。一体何事か、と思えば――。


「『鍵』の魂を持つ者はおらぬか!? 彼が魔王を倒してくれない限り、世界は救われぬ!」


 ぼろぼろの服装の男が道端で喚いている。町を行き交う者たちはそれに目をくれずして自分の目的のたけだけに真っ直ぐと視線を逸らしていた。いや、それが一番である。関わりたくないから。面倒だから。


「なぁ、きみもそう思わないか!?」


 他の者たちと同様に視線を合わせないようにしていたのに。なぜか自分の方に向いてくる。正直言って、どうしてこちらに?


「えっ、いや、知らないですけど……」


「知らないじゃすまないんだぞ!? この世から魔族が消えぬ限り、安寧のときは訪れない!」


「だって、その『鍵』の勇者は誰も名乗り出ていないんでしょ?」


「そうだ。だからこそ、ここで宣言しようっ!! 魔族どもよ、この私こそが『鍵』のかかった魂を持つ者だ! 私こそがこの世界の救世主だ! 『鍵』は隠した、貴様らが知らない場所にだ! 殺せるものならば、殺しに来てみよっ!!」


 その自称救世主は空に向かって喚き散らす。彼の唾がこちらに飛んでくるのを避けて、遠巻きで青年は鼻白んだ。と言うよりも、早く家に帰りたい気持ちが大きい。だからこそ、彼は自称救世主に気付かれないようにして、こっそりと路地の方へ逃げ込んだ。


 最近は国の神官が『鍵』のかかった魂を持つ者が世界を救うだなんて公言をしている。それだからこそ、こうして自称救世主や自称勇者という頭オカシイ人たちがあふれ返るようになったのである。所詮はお告げ。青年は気にしていなかった。なぜならば、本来のそのお告げは遠い昔からあるものなのだから。そして、今の今までその選ばれし者は現れていない。


「大変なやつに引っかかったな、ジャス」


 一部始終でも見ていたのだろうか、青果店の店主が苦笑いをしながら店の裏側にある溝の方へとごみを捨てた。


「見ていたなら、助けて欲しかったんですけども」


「悪いね。あれは関わりたくないからな」


「まあ、いいや。おじさん、今日はどんなのが入っている?」


 それには同意するとしてジャスと呼ばれた青年、ジャスティスは店主にそう訊いた。どうせならば、たまには夕食に果物でも食べようと思ったから。


「色々だな。でも、お前は後でユミリーのところの飯でも買いに行くだろ」


「おやつ感覚だよ、おやつ。月に一度くらいの贅沢があってもいいだろ?」


 二人は笑いながら、店先の方へと周り出た。表通りの方に出ると、あのうるさい自称救世主はいなくなっていた。それに安心したようにして、胸をなで下ろす。


「とりあえず、適当に選べ」


「んー、じゃあこれとこれ」


 ジャスティスは果物を購入し、近くで展開している屋台の方へと行く。そこの店員であるユミリーに今晩分の夕食のスープを入れてもらった。


「はい、いつもの」


「ありがとう」


 中身を入れてもらった容器とお金を交換して、帰路へと着く。家では祖父がお腹を空かせて待ち侘びているはず。そのようなことを考えながら、自分の家の方角を歩いていると――近くの家の屋根の上からハトの鳴き声が聞こえてきた。


 ふと、そちらの方に顔を向けると、そこには黒い羽を持ったハトがこちらを見るようにして鳴いている。もしかして、自分が買ったご飯でも狙っているのだろうかと不安になりつつも気にしないようにした。


 そのハトを見て妙な胸騒ぎを覚えたから。


 黒いハトが止まっている家を通り過ぎて、町外れの方へと入っていく。段々と人の気はなくなって行くにつれてとある存在感ある視線が体に突き刺さる感覚があった。あのハトがこちらを追いかけてくるようにしているのは気のせいではない。


「…………」


 なんだか気味が悪いな。そう思っていたら、後ろから着いてくるそれは羽を広げてこちらの方へと一直線に飛んできた。果物が盗まれるのが嫌なジャスティスは身を固める。その黒いハトが何事もなく通り過ぎると、なんだったのだろうか。空を見上げつつも、歩き出そうとしたところを足を掴まれてしまった。


「ひぇっ!?」


 なんだ、と足元を見れば、人の手があった。それは細い腕で――その先に見えたのが、眼帯をした青い髪の少女であった。


「な、何?」


「……お」


 少女は青ざめた様子で言葉を続ける。


「お腹空いた」

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