27話 マリスは意外にも口論が強そうである
のんびりとツリーハウスの空き家で寛いでいたジャスティスたちのもとにアビがやって来た。夕食の準備ができたらしい。それに待っていました、と言わんばかりに「楽しみだな」と呟く。だが、その楽しみとは夕食のメニューのことでもあるが、もう一つは――。
――え?
夕食の席にアビがマリスの隣になるように誘致させた。左から順にマリス、アビ、ジャスティスである。彼は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしているではないか。その状況ににやにやとにやけが止まらない様子をクロウは見逃さない。
なんと、まあ腹黒さの際立つ選ばれし者か。善意的に見えた悪意あるやり方。ジャスティスがいる場所だけ穴が空いて、下に落ちればいいものを。そうすれば、誰もが万々歳――いいや、魔王があまり納得しないか。元々、マリスたちの目的は『鍵』のかかった魂を持つ者が力を解放したときを狙って殺さなければならないのである。そして、何より選ばれし者のくせにして、未だ力解放していない彼を殺すことはできない。
逆にこれが神の策略なのでは、と疑うほど。流石にそれはないだろうが。
「いやぁ、美味しそうっスね。こういう、野草系は下で採ってきているんですか?」
「ええ。下にいる魔族たちが来ない時間を狙って採りに行っているんだが――」
早速夕食にありつこうとするジャスティスの質問に答えるアビの父親は段々と声音が沈み始めてきた。それに手を止める彼は嫌な予感しかしないな、と先ほどまでのにやけ面を止める。
「最近、その野草を採りに行く場所に我々では立ち向かえない巨大魔族がいるんだ」
――ビンゴじゃねぇか。
この先の言葉なんてたかが、知れている。いや、それよりも少し待って欲しい。今、巨大魔族と言わなかっただろうか。あのツリーハウスの下でうろついている四足歩行の魔族とは違う別の者か。
「きみは勇者、だよね。その世界中で選ばれた勇者殿に頼みがあるんだ」
「構いませんよ」
ジャスティスが、アビの父親が言う前にしてマリスが答えてしまった。これに彼は席を立ち上がるようにして「マリス!」と声を荒げた。
「お前っ!?」
「いいじゃないか。神様もその剣を使いこなせと言っているのだろう?」
もっともなことを言われてしまい、言い返せなくなってしまう。ジャスティスは大人しく席に着いた。
「『鍵』のかかった魂を持つ者の使命は魔王を倒すこと。それにあやかり、彼が統治されたその軍団すらも倒すことも含まれるのだかな」
「……言っておくが、巨大魔族だろ? でかいんだろ? 俺の剣が届くかよ」
「足を重点的に狙えばいいだろ。卑怯に戦えそうなジャスティスならいける」
「お前、俺が意外にも心の中で傷付いているの知らないだろ」
恨めしそうにフォークを噛みながらマリスを見てくる。
「ともかく、きみは家を出ても一向に成長しないんだからこっちはこっちで困っているんだよ」
「ンだよ、人が急に成長するわけねぇのに」
「ジャスティスの場合は遅過ぎるんだよ」
「俺は褒められて伸びるタイプなんだよ。デリケートなんだよ。もっとガラス細工に触るようにして扱ってくれ」
「下手な冗談はよせ、ジャスティスは鉄球の塊だよ。壊れることは一切ない。ただ、外面が少しへこむ程度だ」
「なんだとぉ?」
二人はアビを間に挟んで口論をし始めている。そんな中で彼は煩わしそうに口を動かしていると、自分の父親が――。
「そうそう、アビ。明日は二人の案内をしてくれよ」
「はぁ!? な、なんで俺!?」
「明日は明日でペーニャの結婚式があるからだよ。みんなでお祝いしないと」
「俺は?」
「だって、二人の間に挟まれて飯を食べるほど仲良くなったんだろ? それに勇者殿がいるから死にそうになっても守ってもらえるって」
自分の父親は二人の話を聞いていたのだろうか。話を聞く限りだと、ジャスティスは強くないとでも言うようである。一方でマリスの方の力は未知数。
勝手に決められてしまったアビはその場で大きく落胆をした。このとんでもカオス状況を遠巻きで見ていたクロウは彼に心の中で慰めるしかできなかった。




