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オイシイところをいただきます  作者: 池田 ヒロ
第四章 その心は選ばれし者であるがためなのか
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24話 ジャスティスは懊悩する

 浮遊魔法で森の上からしか行けなかったジャスティスたちではあるが、マリスの魔力切れにより下の方に下りてきて野営をしていた。彼女は疲れきっているのか、木の幹に寄りかかって寝息を立てている。そんな彼女をよそに彼は自身の手の平を見つめて茫然としていた。


「どうされましたか?」


 ぼんやりとするジャスティスが気にかかったのだろう。クロウが声をかけてくる。


「いやぁ。クロウはさ、今日の俺のやり方を見てどう思った?」


「逃げる前提の作戦ですか?」


「そうそう。勇者として相応しくないような戦いをした俺のこと」


 自分で言っていて、悲しくなるなと思う。


 ジャスティスに対する評価は『ある意味で賢い』ではあるが――クロウは「そうですね」と小首を捻りながら言葉を続けた。


「あなたが言っている言葉通りですね。勇者らしくない。救世主らしくない」


「やっぱり?」


 当然か、と苦笑いをする。


「やっぱりも何も……元よりあなたは奇想天外な勇者ですし。名前負けしていますし」


 何より、その『心の剣』は一度しか使っていない。メタルイーター戦で飲まれてしまったときに自力で脱出しようとしていた。そのときに使った剣がそれだ。


「まあ、わかっているけどさ。戦ったところで俺、勝てるか不安なんだもんよ」


「ならば、そこは日々の鍛練を――」


「だからそれって、最初からじゃなきゃ意味ないじゃん。俺は途中から入ってきたようなものだよ。マリスみたいに多分だけど、小さい頃から『戦う』前提においての日常はなかった」


「準備なしの状態で、『戦わなければならない』ということですか?」


 クロウのその言葉に頷いた。


「そりゃあね、神様の期待やみんなの期待には応えなきゃならないとは思っているよ? 要は、俺しか魔王を倒せないんでしょ? でもさ、結局俺って何だろうなって思ってさぁ」


「ジャスティス殿はジャスティス殿ではないのですか?」


「だとしても、だよ。俺は俺って言っても、それを本当に証明できるのは『俺自身』だけだ。マリスやクロウが『証明』するわけじゃない。俺が言いたいのは……俺が世界のために戦う『理由』が見つからないってことだよ」


「…………」


「それも見つけなければならないってことは自覚しているよ。だって、俺は『選ばれし者』なんでしょ?」


 ジャスティスの不安げな顔がたき火の灯りに照らされている。そんな彼の気持ちはなんとなく察しはついてはいるものの、クロウはどう言葉をかけたならばいいのかわらなかった。


 ややあって、導き出した返答は――。


「ご家族や大切な方たちのために『戦う』のは?」


 無難な考えではある、と思う。そうであろうとも、ジャスティスは首を横に振って否定した。どうやら納得がいかないらしい。


「俺としてはなんで、人のために戦わなければいけないのかわからない」


「それでも、誰かのために戦うのが人間というものではないのですか?」


「それはクロウの固定概念だろ? でもさ、俺は俺であるがために自分のために戦うという答えもおかしいと思うんだよなぁ」


「自己中心的であるのにですか?」


「クロウって割と失礼なこと言うときあるよね」


 地味に心にぐさり、ときているジャスティスは鼻白む。


「というのも、勇者や救世主という者たちの心と言うのは悪の手から人々を救いたい気持ちがあるからこその『選ばれし者』であると思うんですがね」


「そりゃ、救わなくちゃならないな、とは思っているよ。己の心内で訊けと言うのもわかっているよ。戦って成長しろって言うのもわかるよ」


 それでも、とジャスティスは腕を組んで懊悩する。


「大体さぁ、『戦う』って何?」


「……戦う。相手を負かそうとして争ったり、武器を使って相手に勝とうと戦う。または戦争を――」


「いや、そんな本に書かれているようなレベルの事話を訊いているんじゃないから」


「それでは他にどう答えろと?」


 意味合い的には間違っていないはずなのに。


「……たまに思うんだよね。どうして人間と魔族は対立し合うのかって」


「互いが互いの物を奪取し合うからじゃないですか?」


「オーソドックスな答えだな。いや、そうなんだろうけど……和解することは考えられなかったのかな?」


「つまりはお友達で仲良く手をつないで交流しよう、と?」


「うーん、うん。そういう感じで」


「それならば、無理でしょうね」


 クロウのその言葉にジャスティスは少しばかり口を尖らせて「どうしてだよ」と言う。


「何か理由でもあるのか?」


「……理由と言いますか、なんと言いますか。人間や魔族たちは最初からそうする選択しかなかった、ということではないでしょうか」


「対立するしかない、と?」


「そうです。今の状況がそうであるように、昔も今も変わらない。変わることができないのが『当たり前』なんです。それが『常識』なんですよ」


 だからこそ、争い合い、戦う。それはもちろん、ジャスティスも同様である、と言う。


「…………」


「さて、そろそろ寝ましょう。明日までにこの森から抜け出さないと、昼間の彼らが襲ってきますからね」


 そうクロウは言うと、寝てしまった。ジャスティスは隣で眠るマリスを見ると――そのまま目を閉じてしまう。

○次回章予告○


『第五章 選ばれし者が常に正しいとは限らない』


 偶然辿り着いた樹木の村で魔族退治を依頼されたジャスティス一行。彼の意思とは裏腹に、マリスがその依頼を受諾してしまうのだった。それに仕方なしとして依頼をこなすこととなる。


 そこであまり乗り気じゃなかったジャスティスが見出した自身の心の中の思いとは――?


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