20話 ジャスティスは恥ずかしそうに物を贈る
「むっ、美味しい」
金属細工の町へとやって来た二人と一羽は町中の東通りにある食堂へとやって来ていた。そこで頼むのはクロウが勧めるクリームスープ。ホワイトソースと具材が絡み合って美味しいと思う。
これの他にもフルーツサラダも注文している。それらを口にしたマリスは頬を綻ばせていた。
「だろぉ? 俺はこれが世界一美味い物だと思っているんだよな」
「そうなのか」
確かにマリスにとっては初めて口にする美味しいものであると思っているが――どちらかと言うならば、今まで食べてきた人肉の方が美味しいと考えている。だが、それを言うのは止めておいた方がいい。そう、クロウが分け与えたフルーツサラダを突きながらこちらに視線を見せてくる。
――それぐらいはわかっている。
今の自分は人間に溶け込まないといけない。だからこそ、その言葉をスープと共に飲み込んだ。
「ところでさ」
そうしていると、ジャスティスが声をかけてきた。
「嫌だったらいいんだけれども。マリスの大切な物ってなんだ? あの魔族に狙われていた金属の類があったよな」
そう言われて、別段見せたくないわけではなかったため、マリスはポーチからその大切な物を取り出した。彼女の手の平にあるのは少し錆びた二つのバングルである。
「……それは?」
「ボクには両親がいない。その代わりに育ててもらった人からもらったんだ」
その説明をしながら、一つバングルをジャスティスに渡した。それを受け取り、まじまじと観察をする。錆び付いたシンプルな銀色のデザインの代物。その輪の内側には『ASK THE REASONS FOR FIGHTING』と掘られていた。
「これって書かれている言葉は何かしら意味があるのか?」
「よくわからない。こっちの方は別のものが書かれているぞ」
もう一つの方を受け取って、内側を見た。こちらには『FOLLOW YOUR OWN HEARTS』とある。
「これ、ボクの両親の形見らしいんだ」
「……なんか、悪いな」
「なんでジャスティスが謝るんだ? 何も悪いことはしていないだろ?」
「いや、聞くべきじゃなかったかもしれないから」
どこか気まずそうにして、二つのバングルを返すと、フルーツサラダを頬張った。もうこの話は終わりだ、と言いたげにして。そんなジャスティスを見て――。
「……同情をするくらいならば、まだこの世にいない方がマシだ」
その場が凍るような発言をするマリス。何かに動かされたようにして、ジャスティスは彼女に手を挙げようとするが――手を止めた。右手が震えているように見える。それに「殴らないのか?」と恐れる様子はないようである。
「ムカつくならば、ボクを殴ればいい。何にムカついているのかは知らないが」
「お前ってさ、たまに『人』には見えない言動をすることあるよな」
今度はマリスが動かされた。ジャスティスに向かって魔法を放とうとする前に、クロウが割って入るように羽を広げてくる。これに二人の手は下がった。
「周りの方に見られますよ」
周囲に聞こえない音量で二人にそう言う。その言葉にジャスティスは椅子に座ると――「すまない」と謝罪をしてきた。
「さっきは言い過ぎた」
それだけ言うと、フルーツサラダを掻き込むように食べ終えて、二人分の食事代をテーブルの上に置いた。そして、クロウを連れて食堂を出ていってしまった。
「……ボクの方こそ、ごめん」
遅れての謝罪。食事を再開するが、冷めきったクリームスープは美味しくなくなっていた。これの紹介をしてくれた二人には申し訳ないな、と心細く口を動かす。
代金を払い終えて外に出た。通りにジャスティスたちはいない。どこに行ったのかでさえも見当つかない。今日泊まる宿屋もどこなのかさえ決めていないのに。
「……どこに行こう?」
通りにある屋台や露店からは呼び込みや美味しそうなにおいがしてくる。そう言えば、と人間の町並みを一人でいることは初めてだった。今までならば、クロウが傍にいたのだが――今回はジャスティスが連れてしまっている。行く場所が決まらないマリスは町の銅像広場へとやって来た。人ごみに紛れて、銅像の台座に寄りかかるようにして座り込む。
【お前ってさ、たまに『人』には見えない言動をすることあるよな】
あの言葉捉えようによっては――自分は人でも魔族でもないような中途半端な立ち位置にいる者である。マリスはそう思うしかない。いや、そうなのだ。人にも魔族にも交われない、何か。そうだとしても、傷付いてはいないと思いたいが――心のどこかで否定したい自分がいた。
魔王に忠誠を尽くす自分。ジャスティスの言葉を聞いて揺れ動く心を持っている自分。
――ボクって何だろうな……。
よくわからない自分に心の中で自問をしていると、頭の上に何かが乗っかってくる。頭上を見れば、クロウが止まっていた。
「……クロウ」
「ここにいたか」
眼前にはジャスティスがいた。ゆっくり立ち上がると、こちらへと綺麗にラッピングされた物を渡される。急に渡されて首を傾げていると――「お前にあげる」そう、彼が言った。何が入っているのだろうか、と開けてみると、そこに入っていたのは青色の石のペンダントだった。
「いきなり、なんだ?」
「マリスって女っ気がないから」
そう答えるジャスティスはそっぽを向く。心なしか、顔が赤くなっているようであるが――そこはこっそりクロウが教えてくれた。
「本当はマリスに失礼なことを言ったから、そのお礼だそうですよ」
もちろん、その声はジャスティスにも聞こえた。
「クロウ、それを言うなよっ!」
その場で追いかけっこが始まる最中、初めて人から物をもらったことが少しばかり嬉しかったのか、マリスはジャスティスに呼びかけた。
「ありがとう!」
このとき、ジャスティスは初めてマリスの笑顔を見ることになる。
作中にあった英語の意味は――。
ASK THE REASONS FOR FIGHTING――戦う理由を問い質せ
FOLLOW YOUR OWN HEARTS――己の心に従え
です。




