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オイシイところをいただきます  作者: 池田 ヒロ
第三章 選ばれし者の意義を考えろ
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12話 ジャスティスはマリスに感謝されている

 クロウに『お告げの間』に行かない方がいいと言われて、マリスは王都にある噴水広場にいた。噴水のふちに座って、ジャスティスが神様より『お告げ』を聞き終えるまで待つのだった。別に待つことに苦痛はない。ここからでもわかる趣のある町並み。華やかで、大賑わい。魔王の城にいたときや近辺の町村では見たことのない光景だった。


「ねえ、クロウ。どうしてボクは『お告げの間』には行けないの?」


 周りに誰もいないことを確認して、クロウにそう訊ねた。彼もまた誰にも気付かれないように「マリスが苦しむからですよ」と小声で答える。


「いくらあなたが人間であっても、魔王様の手下であることには変わりない。神の降霊が始まった途端にその場には立っていられないほど、全身に痛みが襲いかかるでしょう」


「そんなになのか?」


「それほどまでに神という存在の力は強大です。彼はその絶大な力の持ち主のおかげで地上に現れることは不可能とされています。ですが、それが可能になったとき、我々魔族は即排除されるのは間違いないのです」


「…………」


 なぜにそこまでして、人間や神は魔族たちを邪険に扱うのだろうかという気がしてたまらない。自分は人間の子である。そうであるにしても、魔王や事情を知っている魔族たちは普通に仲間として見てくれていた。


【だとしても、人の味方をするなら俺は敵だとは思わないけど?】


 ジャスティスの言葉を思い出す。正直言って、あの言葉が人と接していて一番嬉しかった。自分のことではないにしろ、まるで自分のことだと言わんばかりに――。


「あいつ、どれくらい時間がかかるかな?」


 急に待ち遠しくなってきてしまう。あまりにも暇だから、魔法で雪の結晶を作って遊んでいると――。


「きみ、魔法使い?」


 マリスに声をかけてくる三人の若者がいた。一人は剣を腰に提げた青年に女闘士、そして杖を手にした同年代の少女である。嘘をついても仕方ないため、彼女は首を縦に振る。


「わあ、それ使い魔? 可愛いね」


 果物でも食べる? と言わんばかりに杖を持つ少女――魔法使いは果物を取り出して、クロウに見せびらかしていた。


「確かに可愛いね」


 可愛いと言われたことがないのか、クロウは満更でもなさそうに二人からそれをいただく。


「えっと?」


 突然に話しかけられて、少し困惑しているマリスは剣を持つ青年の方を見た。その視線に気付いた彼は「僕かい?」と少し得意げになる。


「僕はイザイアだ。現在魔王を倒す旅に出ていてね、攻撃専門の魔法使いを探していたんだ」


 よくよく魔法使いの杖にある魔石を見てみれば、緑色の魔石をしているではないか。ということは、彼女は回復専門の魔法使い。


「見たところ、きみは一人でいるようだけれども、どうだい? 僕たちの仲間にならないかい? そして、邪悪な魔王を一緒に倒すんだ! 僕は世界が安寧になることを願っているんだ!」


 そう力説してくるイザイアという人物はジャスティスと違ってまさに勇者らしい発言をしている気がした。


「『鍵』のかかった魂を持つ者が世界を救うと言っても、その人物が倒してくれるのを悠然と待つより、一刻も早く世界平和を作り上げるべきだと思うんだ。まあ、現れたならば、現れたでそこは譲るけれども」


「なるほどね」


「それで、僕たちの仲間には?」


 仲間、イザイアたちは見たところ悪印象はない。どちらかと言うならば、好印象だろう。そして、もしも仲間になったあかつきにジャスティスは戦闘のすべてを彼らに任せてきそうな気がしてたまらない。それでも、三人の存在は重宝するだろう。それに、こうして旅の人数が増えるのは悪くないだろう。大勢の中に紛れ込むのも悪くはないはずだ。


「いいけど、もう一人いるよ」


「む? こちらの使い魔かい?」


「いや、違うよ。そいつは――」


 ジャスティスのことを言おうとしたとき、広場の向こう側からマリスの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。そちらの方を見ると、彼の姿が見えた。どうやら『お告げ』は終わったようである。


「ジャスティス。終わったの?」


「おう、怒れたけどな」


「だったら、それを機に戦いに積極的になりなよ」


「そう考えなきゃならないんだけれどもな。気乗りしないって……誰だ?」


 見ればクロウは魔法使いの少女と女闘士に懐いているし、何か知らない男剣士がいるし。状況が上手く把握できないジャスティスは片眉を上げる。


「なるほどね。きみの言う仲間は彼のことか」


 イザイアは頭から爪先を見た。防具は一切着けていないし、武器らしきその斧はどこからどう見てもまきわり用の物。一目でわかる貧弱さ。


「きみは彼と別れて僕たちの方にいた方がいいんじゃないのかい?」


 ジャスティスを一緒に連れて行けないと判断したらしい。それならば、マリスは行かないと断りを入れようとするが――「あ?」そう、彼の方から殺気立っているのがわかった。いつものように喚き散らして怒るとは違って、静かに怒りを燃やしている。イザイアの言いたいことに気付いたのだろう。それがムカついたのだろう。


「彼といるならば、きみのその魔法の能力は腐れてしまうよ」


「会っていきなり……ムカつくな」


「それに、彼は品がない」


「なんだとぉ!?」


 腹が立ったのか、イザイアに殴りかかろうとするも軽々しく避けられてしまう。


「ははっ、野蛮だな。事実を言われただけなのに逆上してしまうとは。まるで『魔族』みたいだ」


 そして、何よりも攻撃の筋が見えやすい。戦いに役に立たない。などとぼろぼろとジャスティスの悪口を言ってくる。当の本人はこめかみに青筋を立てているだけで、もう何もしようとしなかった。だって、殴ろうとしても攻撃が当たらないんだもの。野蛮だってばかにされているんだもの。


 何も言い返せないのが悔しい。ジャスティスが歯噛みをしていると、マリスが「断るよ」と、イザイア目掛けて小さな炎の弾を発射した。それは顔面に当たらず、寸前で小爆発を起こす。


「ひっ!?」


「い、イザイア?」


 音に気付いた魔法使いと女闘士。もちろん、クロウもこちらの方を見た。イザイアには怪我は見当たらない。


「言っておくが、ボクはきみが『鍵』のかかった魂を持つ者だとしても、一緒にいる気は起きないね。まだ、使えないこのクズ勇者と一緒にいる方がマシだ」


 そう吐き捨てると、「行くよ」とクロウに呼びかけ、ジャスティスの服の裾を引っ張ってその場を退散するのだった。


「ま、マリス?」


 まさか自分の味方をしてくれるとは思いもよらなかったようだ。ジャスティスは驚いているようであり、イザイアたちの姿が見えない場所で頭を下げた。


「助けてくれてありがとう」


 結構な言われようであったが、ああ言ってくれると嬉しさは込み上げてきていたのである。


「いや、どちらかと言うならば、ボクがお礼を言わなくちゃならないな。ありがとう」


 珍しくも頬を緩ませるマリスに首を傾げるのだった。


――何か、俺したっけ?

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