103話 マリスもジャスティスも疲労が見えている
あの巨大な土人形二体を倒してからというものの、ジャスティスたちの前にわらわらと集まりよる魔族たち。それらを二人はなるべく殺傷しない形で (主にマリスが植物魔法で拘束をする)やっていた。
それだからこそ余計に疲労が増す。戦うことにおいて、こちらに戦意がなくとも、相手が持っている場合に傷付けずしてどうにかするのは気が気でないのだ。
「はあ」
峠道から山道へと入り、ジャスティスたちは休憩を取っていた。こういうときでも気を抜くことはできない。油断した隙こそが死を招くかもしれないからだ。彼らは一言も発しない。その場に座り込んで、ただ黙っているだけ。
それほどまでに疲労はあるのだ。
ジャスティスは懐に入れていた白く輝く『鍵』を取り出した。始まりの島からもう一人の自分である幻影にもらった物。未だとして力の解放はない。いや、できそうにない。
「…………」
解放の仕方を自分で見つけろと言われても、わからないのだ。ここは選ばれし者に相応しいような肉体と精神を持っておかなければいけなかったのだろうか。だが、それを必要とするならば、自分という存在は何か、ということになる。なんだか、そればかり思っていてむしゃくしゃしてくる。思わず舌打ちをしてしまいそうなほど。
そんなジャスティスの雰囲気に他の者たちは気付いていたが、何も言えなかった。だから黙っている。こういう雰囲気は戦闘の疲れだけではない。彼自身の気持ちの持ちようにもこちらに伝わってきているのだ。
マリスが声をかけるべきか、少しばかり迷っていると――。
「危ないっ!」
何かに気付いたジャスティスが大声を上げた。それのせいでイーザはKIZETSUする。彼はマリスを助けるために、こちらへと引き寄せた。その直後として彼女がいた場所には岩の拳が減り込むのだ。
また土人形かと思えば、少し違う。岩人形だ。この山道は土よりも岩が多いから。それ故に、先ほどの戦法なんて効きやしない。岩は泥にならないから。それを十分に承知しているジャスティスはこれにて舌打ちをした。どの武器を用いて戦えばいいのやら。彼が悩んでいると――「ジャスティス殿!」そう、クロウが呼んだ。
「火の剣を使いなさい! こればかりは私も援護しましょう!」
なんて鳥人間へと姿を変えた。黒い羽を取り、剣として扱う。ジャスティスはクロウに言われた通り、真っ赤に燃え盛るような剣――紅炎を手に取った。そんな彼の武器へとマリスは風魔法を送る。途端に剣身はそれ以上に燃えているのだ。
「おおっ! ありがとな、マリス!」
剣を構える二人に岩人形は拳を合わせて戦う気満々。土人形よりも感情的ではある模様。
「ジャスティス殿、私は右を攻めるつもりなので、あなたは左側を攻めてください」
「おうよ。要は岩の部分を削ればいいんだな?」
「その通り」
話がわかれば、と二人は左右へと入り込もうとする。それを見て、マリスは魔法でこちらへと気を逸らしていては岩肌が削れる程度の土の棘を当てた。
魔動石に捕らわれてしまった魂を解放するために。
魔法に気を取られている内に、二人は岩の体を削るために攻撃を与えた。予想以上の硬さに腕が痺れるようではあるが――削れないことはないのだ。やれ、ジャスティスとクロウ。彼らだけだ、こうして戦うのは。マリスの魔法では魔動石を壊しかねない。
「ぐっ! 結構硬いなぁ……!」
悠長に削っている余裕はないが、手の痺れが邪魔をしてくる。そう感じているのは何もジャスティスだけではなかった。クロウも同じようにして、苦痛の表情を浮かべていた。
「No.Tと違って、回復する術がないのが幸いというところですかねっ!」
それもそうだ、と大きくジャスティスたちは安堵しているのである。もしも、先ほどの土人形やこの岩人形が回復するために地中へと潜ってしまえば、それこそとんでもない長期戦となるのだから。彼らは必死になって、人形の肌を削っていく。マリスも手助けになれば、と魔法で挑発及び、攻撃を与えていっていたのだが――。
「うわっ!?」
何かを踏んづけてしまった。何か、と思っていると――KIZETSU中のイーザであった。こいつ、人が必死になって戦っているのに。
「ああ、もうっ!」
このままだらだらしているわけにもいかない。マリスは白目を剥いているイーザを拾い上げると、その場を跳ねるようにして避けた。直後に岩の拳骨が地面を破壊する。
怪我させやしない、としてジャスティスがその振り下ろされた拳を斬った。いや、剣身を叩きつけて壊した、という表現が正しいだろう。呼吸をクロウと合わせろ、こいつにはもう両腕は存在しない。壊すべきは魔動石がないような場所!
「いけっ!」
二人の攻撃は破壊音を周りにまき散らしながら岩人形の頭部を壊した。途端に見えた黒い魔石。あれこそ、これを操っていた魔動石だ。クロウは急いでそれを回収すると、岩人形は音を立てながら地面へと崩れ落ちた。
「なんとか、やれたな」
ジャスティスは余程、手に疲れを覚えたのだろう。ぶらぶらと疲労回復をしていた。
「また、追手も来るかもしれませんね。そろそろ先を急ぎましょうか」
すぐさま黒いハトの姿へと変えたクロウの言葉に二人は頷いた。そうしてそこまで登ることのない山道を行っていると、城門前の広場が現れた。そこには赤くて長い髪をした全裸の女性が一人。しかも、局部には髪の毛が隠しているという一部の人間にとっては惜しいと言いたくなるような感じであった。
その女性を知っているマリスとクロウは少しばかりたじろぐ。それを待ち侘びていたかのようにして、彼女はにやり、と笑みを浮かべた。
「久しぶりね、クロウにマリス」
この女性こそ、魔王軍四将にして最後の一人であるNo.Fである。




