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オイシイところをいただきます  作者: 池田 ヒロ
第十六章 選ばれし者は真実を語る
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101話 マリスは決意をしている

 さぁ、行くぞと土人形を用意したマリスは全力で拒否反応をしているジャスティスを見た。


「ここからでも見える通り、あの天候の悪い島が魔王様がいる島だ」


「うん、それはわかったけどよ。本気でやるの? ゴーレム大砲」


「やらなければ、どうしろと? ほら、力抜いて」


 その命令を受けるようにして、土人形はジャスティスを抱き抱えた。それに伴って、彼はイーザの首根っこを掴み取る。


「待って!? なんであっしも!?」


「なんだよ、お前も一緒に行くんじゃなかったのか?」


「違うわ! あっしはここまで、後は頑張ってって感じで別れるつもりだったんだぞ!」


 どうも、本当はイーザもゴーレム大砲が怖いと思っているらしい。だが、ジャスティスは昨日や先日のからかいを忘れるほど優しい選ばれし者ではないのは事実。彼に対して「ふざけるな」と歯を立てた。


「こうなれば、お前も道連れじゃ!」


「非道だ! 非道! お前っ、それでも勇者かよ!」


「じゃなきゃ、何だって言うんだよっ!」


 大声で喚く二人。そんな彼らをお構いなしに土人形は投げ飛ばす構えを取った。その傍らではマリスも飛ばされんとして、二体目の人形を形成して、クロウを抱き抱えている。


「ぎゃーぎゃー、うるさいぞ」


 もうすぐぶっ飛ぶんだから、そう言ってくる。それにジャスティスは「マリスは冷静なのな」と鼻白む。


「もうちょっと――」


 緊張感ぐらい持てと言いたかったのだが、言う前に制された。二体の土人形は彼らを魔王がいる島へと向けてぶっ飛ばしたのだ。


「あああああああああああああああああああ!!?」


 悲鳴を上げる最中、マリスは悠然とした態度で自分たちに軽めの浮遊魔法をかける。これでも、投げ飛ばしたとしても、重力には逆らえないのだ。そのため、それを緩和するための魔法をかけたのである。だが、自分が今投げ飛ばされているという恐怖にしか目がいっていないジャスティスとイーザは気付かない。


「……うるさいですね」


「多分、向こうでも聞こえていそうだよね」


 それについては否定しない、とクロウは苦笑いをする。


 なんてしばらくの間大騒ぎしていると、時間が経つのが早いのか、もうすぐで島の陸地が見えてきた。そろそろ風魔法などで減速と緩和をしなければ、と魔法の準備をしていると――。


 海の中に棲みついている巨大な魚類の魔族がこちらへと接近してきているではないか。その自慢の大きな口で自分たちを食べる気か。


「ジャスティス! 魔族だぞ!」


 気をつけろ、と注意喚起をしてあげたいのにまだ叫んでいる。いい加減に慣れろよ。そして気付け。


 飛んでいるという恐怖で魔族の相手ができそうにないジャスティスに代わって、仕方なしにマリスが雷魔法をぶつけようとするも――。


「どけぇえああ!!」


 蒼氷で食わんと飛びついてきた魚類型魔族を凍らせた。その反動と勢いがあってか、一人と一匹はそのまま海の方へと落ちる。


 それに思わず浮遊魔法と風の魔法で自分の動きを止めたマリスは「ジャスティス、イーザ!」と彼らの名前を叫ぶ。


「危ないっ!」


 だが、ジャスティスたちが落ちたのは海面ではなく、蒼氷で凍った海面。地味に痛い音がした。


「おおぉ……いってぇ。……ん? これって、もしかして?」


「だ、大丈夫か?」


 そう心配してやって来たマリスは凍った海面に足を着けていいかどうか不安そうながらも、浮遊魔法でまだ浮かんでいた。


――これはまさか!


 あることに気付いたジャスティスは凍っていない海面に短剣を突き立てた。すると、バキバキと音を鳴らしながら魔王がいるであろう島まで氷の道が生まれたのだ。


「道?」


「だな」


 道であることに納得したジャスティスであったが、大きく深呼吸をすると――。


「ほらぁ!!」


 ゴーレム大砲案しかないと言うマリスに向かって大声を張り上げた。


「別に俺たちは飛ばされなくとも行けたんだよ! 海を凍らせりゃ、行けたんだよ!」


「でも、それでも追手は来るんじゃ?」


「途中までマリスが俺たちを浮かせて行けばいいだけの話だろうがっ!」


 もうぶっ飛びは勘弁だ、としてジャスティスは歩を進めた。その後をマリスは浮遊魔法を解いて、彼の後を着いていく。


「まあ、ぶっ飛びでここまでくれば、早々追いかけてこねぇだろうな」


「結果としてはゴーレム大砲でも何ら問題はなかったってことだね」


 終わりよければ、すべてよしでまとめようとするが、そうではない、とジャスティスは項垂れていた。


 そうして、歩を進め続けて島へと足を踏み入れた。後ろからは波の音と強風が聞こえてくるだけ。ここは浜辺なのに、不穏な空気が漂っているのだ。


 完全に立ち入ってはいけない場所。そう思えるからこそ――。


「帰りてぇ」


 そう言うジャスティスに対して、マリスは頭に手刀をかました。


「今更何を言っているんだ。忘れたとは言わせないぞ」


「この状況見たら、忘れたいわ」


 失笑するジャスティスはその場を見渡した。この場にやって来て感傷に浸る。それにしても、こんな自分がこのような場所にいるとは思わなかった、と島の中央にそびえ立つ古びた城を見上げた。


「行こう。きみは世界平和のためにここにいるのだろう?」


「そうだったな」


 ジャスティスたちは魔王の城の方へと向かうのだった。

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