100話 ジャスティスはゴーレム大砲を恐れている
イザイアたちに助けてもらい、急ぎ足で山道を下りたジャスティスたちは肩で息をしていた。ここまで来れば、問題はないだろう。まさか、彼らに助けてもらえるとは思ってもいなかったことだが。
「どうする? ジャスティス」
「あ? 何がだよ」
「また彼らみたいな強い人たちと遭遇したら……」
特に厄介なのは魔法を無効化にしてしまうような魔法剣を扱う剣士である。それをマリスは恐れていた。自分の攻撃が効かぬとならば、頼りになるのがもうジャスティスしかいないようなものだから。
「んー……こうなりゃ、マリスの魔法で行くしかないだろ? 幻覚魔法と浮遊魔法で。あんまり魔力が尽きたことがないんだよな?」
「陸路は止めると?」
「そうしかないでしょうね」
クロウがそう言いながらマリスの肩へと降り立ってくる。彼曰く、今のところ刺客はいないらしい。今ならば、そうして逃げる方が早い、と言った。
「幻覚魔法と言っても、見破られてしまえば意味がありませんからね」
「わかった」
ここから海に辿り着くまでそう遠くはない。マリスは自身とジャスティスに幻覚魔法と浮遊魔法をかけた。まだまだKIZETSU中のイーザは手に取って運ぶことに。
「つーか、これで魔王のところに行けばよくね?」
そう言えば、と言う感覚でそう言ってくるが、マリスは首を横に振った。どうもできないらしい。
「距離が足りないんだ。多分、一日でようやく半分ってところ。だから、ゴーレムに」
「何、その恐ろしい妥協案は」
もう、土人形に投げて飛ばしてもらうしか方法がないと言われてジャスティスは鼻白んだ。他にもっと案はないのだろうか。たとえば、が思いつかないな。船を出してもらうにしても、今の自分は反逆者のようなもの。出してもらえるわけがない。
ならば、奪い取るか? 強奪も考えるが、それは諦めた。仮に盗めたとしても行く先は魔族の楽園の島。海にうようよと棲みついているおっかな恐ろしい魔族がいるかもしれないのだ。
「てかさ、クロウはあいつみたいにしてでっかい鳥にはならねぇの?」
もう一つ方法を考えついた。それはクロウがスカイハンターやエイムみたいにして大きな鳥に変身できないだろうかというもの。元々魔王軍の四将たちに彼は知られているのだ。それほどならば、実力も相当の物のはず。なんて思っていたが――。
「鳥人間になることが限界です」
無理だと言われてしまった。これで僅かな希望は失ってしまう。大きく落胆するジャスティスにマリスは「がっかりするなよ」と言う。
「何も島に渡れないことはないから」
「だからその妥協案が怖いって言ってんだよ!!」
なんてやり取りをしている内にKIZETSUから目を覚ましたイーザが、自分が空を飛んでいることにびっくりして再びKIZETSUをしようとするが、それはジャスティスによって止められてしまう。
「お前もお前でいい加減にしろよ。いつまでもKIZETSUするくらいならば、ここから落とすぞ」
「恐ろしいこと言わないでくれる!?」
「恐ろしい計画を立ててんのはマリスの方。俺よりこいつを止めてくれ」
何の話かわからないのか「どういうこと?」と訊くと――島へと渡る方法を聞いて笑い出した。それがムカつくとでも思っているのか、ジャスティスはイーザの首根っこを掴んで地面へと落とそうと振りをかける。
「止めて!? あっし、死んじゃう!」
「お前は死ぬじゃなくてKIZETSUだろうが。てか、これで俺の気持ちもわかっただろ」
「えーでも、正直言って、あっしは眼帯のお嬢さんの言うようなゴーレム大砲を見てみたい」
「ちょっとは楽しみじゃねぇか! いや、どの道いつもKIZETSUしているイーザは投げ飛ばされたら絶対KIZETSUするね! これだけは断言できるね!」
ただの風圧を受けただけでそうしているのに。相当な飛距離であるということは、投げられているスピードも相当なものに違いない。マリスの浮遊魔法が途中で途切れるならばではある。
「だとしても――」
なんてイーザが反論を申し立てようとするが、そんな彼の目に入ってきたのは地平線の向こう側に見える海だった。うっすらとぼんやり程度しか見えていないが、日が暮れるまでには辿り着くだろう。それを知ってか、にやにやと悪い笑みを浮かべながら「勇者君」とジャスティスに声をかけた。
「ほらほらぁ。もうすぐで海だよ。はやく、ゴーレム大砲以外を思案しないとぶっ飛んじゃうよぉ」
「お前一人でぶっ飛んでろ」
煽り文句に腹が立ったのか、一瞬だけ首根っこを掴んでいた手を離しては掴んだ。この緊張感にイーザは思わず小さな悲鳴を上げると、KIZETSUしてしまった。
「……ジャスティス、可哀想なことはしてあげるなよ」
「うるさいな。こいつがKIZETSUしているときの方がうるさくねぇんだからちょうどいいんだよ」
どうやら、何も話さない方が静かでいいらしい。それは黙っておいていたが、マリスとクロウも同意していた。
一行はこのまま海の方角を目指して、近くにあった全く使われていない小屋へと一晩を過ごすことにする。これはマリスの魔力回復のためでもあるのだった。
それから、イーザがKIZETSUから目を覚ましたのは深夜の小屋の外であったという。
○次回章予告○
『第十六章 選ばれし者は真実を語る』
とうとう魔王がいる孤島へとやって来たジャスティス一行。彼らは人間と魔族が共存をするという道を魔王に説得するためにやって来たのだった。果たして、魔王を説得できるのだろうか。




