代名詞
夏未「ねえ龍、明日も来れる?」
龍「ああ、もちろん来るよ」
ここはチャットの中。
皆が集う憩いの広場。
私たちの初めて出会った場所だった。
夏未「じゃぁね、バイバイ」
龍「ああ、バイバイ」
出会いは8月。
私が初めてここに来た時、龍が優しく出迎えてくれた。
初心者だった私は龍から色々なことを教わった。
そして龍に恋した。
だから一度でも良いから龍に逢ってみたい。
そんな事を考えていた。
次の日も私はチャットに来ていた。
もう毎日の習慣になってしまっていた。
龍に逢える事が嬉しかったから。
夏未「龍…遅いなぁ」
龍「ごめんごめん、ちょっと遅れちまったな」
夏未「遅かったね、何かあったの?」
龍「今日の飯山盛りでさ、腹痛くて休んでた(笑)」
この幸せな時間から抜け出したくない、例え何があっても。
でもそんな妄想が叶う筈もない。
だからあえて話をしてみる。
夏未「ねぇ龍、二人で逢ってみない?」
龍「急にどうしたんだ?」
夏未「龍の顔見てみたいなぁって(笑)」
龍「俺は別に良いよ、夏未の顔も見てみたいし」
彼も私も住んでいる所は近い。
逢って見ると言うのも簡単な事だった。
夏未「じゃぁ場所は、……公園で良いかな?」
龍「オッケー、時間は2時ぐらいで良いか?」
夏未「うん、じゃぁ明日逢おうね」
私は彼の本名を知らない。
顔も、声も。
龍「俺黒いコート着て来るからよ」
夏未「私は黄色いコートと蒼いスカートだから」
龍「おう、見つけた方が声掛けるって事で」
彼も私の本名を知らない。
同じく顔も、声も。
私の妄想は希望へと変わる。
貴方と逢いたい、貴方と話したい。
龍「んじゃ、明日の準備すっから」
夏未「うん、バイバイ」
龍「じゃ、明日な」
楽しい時間はやっぱり続かない。
でも、明日逢える。
貴方と二人で…。
私は待ち合わせ場所に来ていた。
少しでも早く貴方と話したいから。
「……夏未?」
「あっ、こんにちは」
少しだけ恥ずかしい。
想像通り彼はカッコ良かった。
「立ち話も何だし、座ろっか」
「うん」
彼も、私と同じように戸惑ってる。
考えて、照れて、笑って。
そんな貴方が私は好き。
「あっそうだ、名前なんて言うんだ?」
「私は佐倉衣未奈だよ」
「佐倉衣未奈か…っと俺は悠稀紅龍、よろしくな」
「…なんかカッコ良い名前だね」
貴方は笑ってくれる。
だから私も笑える。
貴方が居たから私はここに来れた。
だから、私は言う。
「あの……」
「なんだ?」
「前から…その…好きでした」
「…俺も好きだったんだ、でもいつ言おうか迷っちゃってて」
「…えっ…」
やっぱり、考えてる事は同じ。
似ているから好きになったのかな。
「…俺と、付き合ってくれないか?」
「…………うん、喜んで」
私が言うべきだった事を彼が言ってくれた。
今の私は幸せ。
貴方と一緒に話したい。
貴方と一緒に在りたい。
貴方と一緒に歩みたい。
貴方は優しいから。