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第007話 「業深き地に降り立つ女神(訳:美女との出会い)」

「あ、あのぅ。大丈夫ですか?」

 柔らかな、それでいて鈴のような声が颯太にかけられた。


「いえ、無理です……あの毛布は……あの毛布はっ」

 おいおいと颯太は恥も外聞もなく蹲って泣いた。

 いや、泣きまねであった。


 親切に声をかけてくれた女戦士は、鎧姿であるにもかかわらず、下半身の防具は貧相というべきなのか、膝までの鉄製のブーツのようなものを履いているのみである。

 そして、なぜかミニスカート。


 女戦士は蹲る颯太の傍に屈み、どうしたものか仲間に目配せをした。


 そんな姿を颯太は顔を覆った腕の隙間から見上げていた。

(あと、少し。あと少しなんだ)


 そう、つまり見えそうなのだ。

 健康的な白い肌をした、適度な筋肉のついる足の付け根が。

 そこを隠すように存在するはずの、三角の布地が、あと少し傍によってくれれば見えるのだ。


「とういうより、こいつ嘘泣きだろ」

 野太い声がしたと思ったら、わき腹の辺りに衝撃を受け、颯太はひっくり返されていた。


「ってぇだろ! 何しやがる」

 ずきずきと痛むわき腹を押さえながら、颯太は自分を蹴り飛ばした男に詰め寄る。


「な? 嘘泣きだったろ」

 短く刈り込んだ髪の下には、角ばったダンディーな男の顔。

 白く光った歯を、口の隙間から覗かせ、その男は女戦士のほうを見る。


「え、えぇでも蹴るのはやりすぎなのでは?」


 艶やかな黒髪が素敵だ。

 そしてやさしい。

 颯太は、その女戦士に見とれていた。


「すいません、気が動転していました。もう大丈夫です、ところであなたのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 颯太は妹の趣味に感謝した。

 画面の中(二次元世界)で、イケメンがこんなことを言っていた気がする、そんな曖昧な記憶を頼りに表情もそれに合わせて作る。


「ひっ……」

 が、女戦士は顔を歪め後ずさりした。


(え?)

 颯太は何故そのような反応をされたのかわからない。


 気がつくと彼女の仲間と思われる二人が自分に武器を向けて身構えている。


「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! 俺は、いえ、僕はその迷子なんですっ」

 武器を向けられた恐怖から、おもわず適当に喋ってしまったため自分でも何を言っているのかわからない。


「迷子……?」

「いや、先ほどの魔法のこともある、気を許すことはできん」

「そもそも、あの顔だ魔物かもしれないだろ」


 ずいぶんと失礼なことを言われているのでは?

 と、颯太は思ったが、とりあえず今大事なのは警戒を解いてもらうことだ。

 文句は後で言う。


「えっと、その俺、僕の名前は西木颯太と言います」

 ぺこりと、頭を下げて、三人の反応をうかがう。

 少なくともすぐに攻撃をしてくるということはなさそうだ。

「それで、あの自分……あーえーと、ん?」

 何て説明すればいいだろうか、そんなことに今更になって気がついた。

 正直に異世界から来ましたよろしく、なんて言っても正気を疑われるだけだろう。


 だが、嘘は吐きたくない。

 嘘を吐いても、間違いなくその設定を忘れるからだ。


 それなら、異世界から来たことを言わず本当のことだけを言えばいい。

 颯太はそれだけを決めると、何も考えず言葉を発した。


「俺、馬鹿なんで何もわからないんですっ!」


「はぁ?」

 先ほど颯太を蹴った男が、颯太の言葉に気の抜けた返事を返した。


「あ、あと男とは喋りたくないので、あなたは帰ってください」

 正直に言えばいいと決めれば、とことん正直になる颯太だった。


「てめっ!」

「暴力反対」

 コブシを振り上げた男に対して、両手を挙げて、降参のポーズをする。

 颯太の言動に、男は行き場を失ったコブシを、どうしていいのかわからず、そのまま下ろした。


「あの……、私から一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 凛とした声だ。

 見た目にたがわずうっとりするような響きである。

 颯太は、うんうんと何度も頷く。


「その、先ほど唱えていた魔法なのですが……あれはいったい……?」

「あれですか? あれは……言葉を話すための魔法ですっ」

 きりっと効果音が付きそうな勢いで颯太は答えた。


「言葉を……?」

「いや、だがあれだけの呪文だったのだ、それだけとは思えぬ」

 余計な口を挟んできたのは、ローブを着た男だ。


 それに対して、颯太はツーんと、そっぽを向いた。


「答えられぬのか?」


 ローブの男が颯太の前に移動し、問いかける。

 しかし、颯太は顔を背ける。


「やっぱり、こいつ怪しいな」

 鞘から剣を抜く音が、颯太の背後から聞こえた。


「あの、どうして言葉を喋るための魔法を唱えたのでしょうか?」

 剣を抜いた角刈りの男が動く前に、黒髪の美女が颯太に問いかける。


「はい、俺、いえ僕はあなた達の言葉を話せなかったので、意思疎通をするための魔法を使ったんです」

 颯太は、女戦士にそう答えた後爽やかな笑顔を作った。

 女戦士はそれに対して、顔をわずかに引きつらせたが、先ほどのように悲鳴は上げない。


 そんなに、自分の顔は拙い顔なのだろうか。

 颯太は少しだけ気分が沈んでいくのを感じた。


「どういうことだ? ロマシノス語を話せないとは怪しいな」

 角刈りの男は、剣を構え颯太の眼前に突きつける。


 だが、颯太はそんな脅しには屈しない。

 ローブの男にしたようにツーんと顔を背けた。


「ほら、そんな脅さないの」


 女戦士は優しい。

 見た目どおりだ。

 何て素敵な女性なのだろう。

 颯太は女戦士に熱い視線を送った。


「あ、あの、あんま見ないでくれるかな」 


 小声で気持ち悪いと言われた気がしたが、普段からクラスメイトの女子に叩かれていた陰口に比べたらその程度では、颯太はくじけない。

 よりいっそう顔を近づけて、凝視した。


 が、首もとに冷たい感触が触れたのですぐに距離を離す。

 颯太だって命は惜しい。


「ガキ、てめぇマジで殺すぞ」


 颯太は両手を挙げ、そっぽを向いて無言の抗議をする。


「えっと、私はアリシティア・ノーマン・フィクリアル。で、その怖い人がディバルド・アンイェグ、ローブの人がクロコナイル・カッタシールよ」

 険悪な空気を換えようとアリシティアが、自己紹介をした。


 それに答えるように颯太は、片手を出して言う。

「はい、僕の名前は西木颯……ソウタ・ニシキです。よろしくお願いしますフィクリアルさん」

「名前はもう聞いたわよ、こちらこそよろしくニシキさん」

 アリシティアは苦笑しながら、ソウタの手をとった。


「そんな他人行儀でなくソウタって呼んでだしゃい」

 綺麗なお姉さんの手を握るなんて経験は今までのソウタの人生に無かった。

 その所為で、噛んでしまった。

 恥ずかしい。


「ふふ、わかったわソータ、よろしくね。だったら私もアリスって呼んで、親しい人は皆そう呼ぶわ」


 あぁ、それにしても女の子の手ってやわらかいなぁ。

 ソウタはアリシティアの手を握ったまま、いつまでも放そうとはしなかった。

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